報告会レポート
アグネス・チャン日本ユニセフ協会大使 連続ティーチ・イン 終了
2003年4月21日(月)から26日(土)まで6日間にわたり、ユニセフハウスで「アグネス・チャン連続ティーチ・イン」が行われました。連日多数の来場者を迎えて、アグネス・チャン日本ユニセフ協会大使が世界の子どもたちの現状を訴え、多彩なゲストの方々や客席の皆さんと意見を交換しました。
アグネスさんの講演では、これまでアグネスさんが日本ユニセフ協会大使として実際に訪れた国々の子どもたちのようす、そして、各地で子どもたちがその小さな体と心で立ち向かわなければならない過酷な運命、さまざまな深刻な問題について語りました。実際に出会った子どもたちの声に、ときには、アグネスさん自身、そして客席の皆さんも涙ぐんでしまうような場面もありました。
連日ゲストを迎えてのアグネスさんとの対談では、多彩なゲストの方々による独自の視点から、世界の子どもたちの現状を見つめ直し議論することができました。最後に客席の皆さんとの質疑応答では、子どもたちにふさわしい世界を築きあげるために、私たちに何ができるのか、一緒に考え、話し合い、意見を交換しました。
また、今回の連続ティーチ・インでは、特に日本ユニセフ協会が行っている「イラク緊急募金」へのご協力を呼びかけました。今回のイベントがきっかけとなり、ひとりでも多くの方に、世界の子どもたちの問題に目を向けていただけたらと思います。今後ともご協力よろしくお願い致します。
日時: |
2003年4月21日(月)〜25日(金):午後6時30分〜8時30分
2003年4月26日(土):午後2時〜4時 |
会場: |
ユニセフハウス1階ホール |
主催: |
財団法人 日本ユニセフ協会 |
プログラム:
(各回共通) |
1. アグネス・チャンさん講演
2. ゲストとアグネスさんの対談
3. 質疑応答とメッセージソング |
■ 講演のようす
4月21日
アグネス大使は中学1年のときに最初のボランティアと出会いました。ボランティア活動で障害を持つ子どもたちと出会い、刑務所に入った少女たちと話したり、難民の子どもたちと交流したりしました。このようなボランティア活動を通していろんな人がこの世の中に生きているということを実感し、そして今まで自分がどんなに幸せな環境で生きていたのかも知りました。また自分のアイデンティティーを模索していた頃に、母親のふるさとの中国で子どもたちと出会いました。その時、子どもたちは自分の歌を歌って歓迎してくれました。その時の喜びから歌を歌うことの素晴らしさを知り、人々の掛け橋のような役目を果たしていきたいと思うようになったといいます。
後半、ゲストの亀渕昭信氏との対談では、ラジオがプロパガンダに使われてしまう現状や、先進国と開発途上国のテレビ普及の格差から、子どもたちがテレビを見て家族とのコミュニケーションが取れなくなっている現実や、メディアの平和への役割についてまで、様々な話題が飛び出しました。
亀渕さんは、「30年くらい前に、戦争を生中継したら戦争はなくなるんじゃないか、って話したことがあるのですが、今回のイラク戦争を見ていて、そうでもないなって。見ているほうが距離感があって戦争がまるでエンターテイメントのようで、かえって怖いと感じました」と語ると、アグネス大使は「メディアに関して、子どもは疑う精神が大切だと思います。鵜呑みにしないことを学ばなければ」と話しました。 |
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4月22日
この日、アグネス大使は、アフリカの子どもたちについて話しました。
エチオピアで大規模な飢饉が起こっていた1985年に現地を訪れました。飢餓の現実を見ました。泣く力さえなくし、髪が抜け、内臓が縮み、力を使い果たして死んでいく子どもたち。キャンプで、子どもたちが自分たちに向かって走ってくるのを見て、その匂いと砂埃、ハエの多さに怯え、逃げてしまったアグネス。その瞬間、自分のことが嫌になったと言います。しかし、あるときに意を決して、子どもたちを受け止めます。もうどうなってもいい、と心を開いた瞬間が、自分の転機であったと語ります。
スーダンに行ったときは少年兵だった少年と出会いました。彼は6歳のとき父親が殺され、8歳で軍に入りました。そして11歳のときに傷を負ったため、12歳で退役軍人となりました。何が宝物かと聞くと彼は「生きていること」と答えました。このような子どもたちの現状がアフリカにはありました。
後半のゲストアリス・ウォーカー氏との対談では子ども、特に女の子について話し合いました。家父長制がもたらす女性や少女の現状を考え、結婚だけでなく教育を与えることの大切さを訴えました。またウォーカー氏はクリントン元大統領とのキューバの子どもたちをめぐるやりとりや、イラク戦争が急速に子どもたちの命を奪っている現実などを話しました。アリスさんは、「私たちには言葉があります。話し合いをせずに殺すということは、人間であることを放棄するようなものです」と語りました。
また、この対談の中で「自分を愛することから始めよう」というメッセージが残されました。大人たちが子どもに真実を語り継ぐことが必要であるとウォーカー氏は話しました。
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4月23日
この日、アグネス大使は、子ども買春について話しました。買春という言葉は、買う側に責任があるということを示す言葉です。その子ども買春が多くの東南アジアの国々で起こっています。
フィリピンでは2回子どもを堕ろしたという16歳の少女と話すことができました。彼女は13歳のときに母親の暴力から家を出て、フリーランスになりました。フリーランスとは仲介を通さず、自分で客をとって売春で生活する子どもたちのことです。お腹を叩いて、麻薬を使って、走って、堕胎した、という少女のことを、涙ぐみながら話すアグネス大使。一番の問題は「買う人」だと訴えます。日本人、ヨーロッパ人など多くの大人に責任があります。日本では1999年に「児童買春・児童ポルノ禁止法」が施行されました。さらに取締りとこの問題についての国際協力を強化していくことをアグネス大使は要求しました。
後半、ゲストの新井満氏との対談では、環境がテーマになりました。新井さんが、ミクロネシアのきれいな海で空き缶を拾ったことがきっかけで小説を書いたというエピソードや地球上で輸出されている木材の80%近くが日本向けであることが話されました。「私の子ども1人が使う地球の資源とネパールの子ども1人が使う資源を比べたら、うちの子は7倍。(資源で考えたら)私が1人生んだら、スーダンのお母さんは15人産んでいい」(アグネス大使)
「助産婦の母は、どんな子どもでも自分の役割を持って生まれてくる、と言い切っていました。子どもたちの役割を発見するのは親の責任です。普通、「親はなくても子は育つ」というところを、坂口安吾は「親はあっても子は育つ」と言った。一番いいのは、良い親がいること。2番目が良い親がいないこと。3番目にひどい親がいること。子どもは可能性や伸びていこうとするエネルギーがあるから、ひどい親があっても子は育つ、と安吾は言ったのでしょう」と語る新井さんに、アグネス大使は「最近は、虐待とか、「親がいても子は育たない」ことが増えているような気がする。子どもが生まれたときにどんなにうれしかったか、自分に誇りを持ったか、それを忘れてはいけないと思う」と話しました。
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4月24日
この日の講演のテーマは、カンボジア、タイの子どもたちでした。ポイペットというタイとの国境にある村のカジノ周辺では多くの子どもたちが働いています。そこで出会った12歳の少女ワニー。彼女はカジノへ行くお客に「傘差し」をしていました。傘が盗まれないように注意したり、「傘差し」をしている他の子どもたちとけんかになったりします。家に帰ると2人の兄弟の世話をしなければなりません。ワニーは一度も靴をはいたことがなく、一度も学校へ行ったことがありません。自分が食べることさえままなりません。
貧困は栄養不良をもたらします。ビタミンAの不足から失明してしまう子どももいます。体だけでなく脳も発達しない、学習もはかどらない、未来の可能性が奪われています。アグネス大使は、栄養補助食を地域の人たちの手元に確実に届くかたちで配ったり、予防接種をしたりするユニセフの活動の必要性について力説しました。
後半のテリー伊藤さんとの対談では、日本の子どもたちについて話し合いました。「援助交際」という言葉、日本の競争社会について、また日本の子どもたちのお金がかかる遊び方に疑問を投げかけました。北朝鮮問題やイラク戦争についての日本政府の姿勢にも言及しました。政府の税金の使い方とりわけイラク復興への1兆円が結局はアメリカの企業が使うということやODAでもダムや橋などを作るだけではなく途上国の人材育成に当てるべきであるという伊藤氏からのするどい指摘もありました。 |
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4月25日
この日、戦争と子どもたちについて語ったアグネス大使。1988年、カンボジアで、虐殺されたたくさんの人間の骨を見て戦争の怖さを知りました。ベトナムでは、ベトちゃんドクちゃんや枯葉剤によって身体に影響を受けた多くの子どもたちと出会いました。
2000年に東西ティモールを訪れた時は、内戦によって分断された現状を目の当たりにしました。ある家族は国境によって分断され、東ティモールの独立によって国籍がそれぞれ異なる一家になってしまいました。紛争後、東ティモールではユニセフなどの活動によって教育プログラムが開始され、70%の子どもが学校へ戻りました。しかし子どもたちの心の傷は深く残っていました。ある姉妹は、目の前で両親を殺されたそうです。でもお姉ちゃんは、「見ていない」としか言わないんです。両親を失った子ども、兄弟を失った子どもが数多くいました。印象に残っているのは「好きなおかずは何?」とある少女に聞いたら、その少女は思い出せなかったことでした。「ほら、あなたのお兄ちゃんが生きていた間に食べたナスの煮物があるじゃない」といわれて、「あ、ナスの煮物が好きです」と。毎日米しか食べていない彼女の現状を思い知りました。
5日目ゲスト 安倍晋三さん
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後半の安倍晋三さんとの対談では対北朝鮮外交、中東情勢、イラク復興支援について話し合いました。イラクの現状を考えて日本のイラク支援のあり方についても話し合いました。安倍さんは、「政治の責任は重たいと実感しています。イラクに対する米国の武力行使にしても、政府として支持をしました。その結果として悲惨なことが起こっていますが、幸い、終結しつつあります。日本政府としては、1日もはやく(国のシステムなどが)機能するように2億ドルの拠出を決めています」と話し、日本が、亀裂の入った米国と他の国との関係の仲介など、積極的な役割を見つけて果たしていきたいという抱負を語りました。
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4月26日
最終日、これまでに話された内容を振り返りながら、子どもたちを取り巻く様々な問題が話されました。
子どもを傷つけるもののひとつが戦争です。戦争中よりも戦後に多くの子どもたちが亡くなります。また、飢えも子どもたちを蝕みます。貧困または貧富の差も大きな問題です。ネパールではカースト制度で一番下の位の人たちはものを食べることができず、物乞いをしたり、物を盗んだりしなければ生活できません。差別の問題は大きいのです。HIV/エイズ、教育不足、そして教育の質も大きな問題です。世界中の子どもたちが教育を受けて、将来のことを考えたりできるようになることが重要です。
「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」。「子どもの権利条約」が提唱するこの4つの子どもの権利を守りたいのです。しかし、まだたくさんの壁があります。
6日目ゲスト 東郷良尚さん
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後半の東郷良尚さんとの対談では、グローバリゼーションがもたらす先進国と途上国における貧富の差が話題となりました。格差とは、物を得られるか得られないかだけでなく、情報に触れるなどのチャンスがあるかないかという側面もあります。グローバリゼーションはこの格差の広がりを加速させています。また、子ども買春や子ども兵士の撲滅を目標としたアドボカシー活動にも取り組みをはじめている協会の活動をご紹介しました。
「最近ユニセフに協力しやすくなりましたね」というアグネスさんに対し、東郷さんは日本の民間からのユニセフ募金が世界一であることに感謝を表しました。アグネスさんは、「世界一の民間の募金が出せる国です。私たちも勉強し、こういう子どもが一番困っているから、取り組みましょうといった発言ができる国民になっていきたいですね」と話しました。 |
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