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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたちは今 報告会レポート

「新時代のODAを考える〜今問われる、日本の役割〜」
公開シンポジウム報告

■日 時 :2006年10月19日(木)9:30〜12:00
■場 所 :東京・渋谷 UNハウス5F エリザベス・ローズ・ホール
■主 催 :国連児童基金(ユニセフ)
■参加者 :政府、官公庁、国際機関、NGO、報道関係者、学生など多数

国連児童基金(ユニセフ)をはじめとする国連機関やNGOは、日本とのパートナーシップを通して、ミレニアム開発目標(MDG)の達成、そして人間の安全保障の実現に向けて、現場で様々な成果をあげています。しかし、他の先進国が軒並みODA増額を図る中、日本ではODAの削減が続き、国民のODAに対する関心が下がっています。こうした中、NGO、政界、学界、メディアなど、各界の有識者をパネリストとして招き、多国間協力やNGOとの連携などの視点を含めた国際社会における日本の役割、そして国民にとってのODAの意義について議論を深める為、公開シンポジウム「新時代のODAを考える」が開催されました。

総合司会 :御法川 信英  衆議院議員 ユニセフ議連事務局長
モデレーター :杉下 恒夫  茨城大学教授 ODAジャーナリスト
パネリスト
  • 谷垣 禎一 ユニセフ議員連盟会長、前財務大臣、衆議院議員
  • 広中 和歌子 参議院議員
  • 下村 恭民 法政大学人間環境学部教授
  • 鶴岡 公二 外務省 地球規模課題審議官
  • 木山 啓子 JEN 理事・事務局長
  • 原田 勝広 日本経済新聞 編集委員
  • 丹羽 敏之 ユニセフ事務局次長
  • 浦元 義照 ユニセフ東京事務所長

課題提供

谷垣 禎一 ユニセフ議員連盟会長、前財務大臣、衆議院議員

谷垣 禎一氏

最近の政府の取り組みとして、今までのODAは省庁の縦割りで、必ずしも効率的、戦略的、機動的に行われていないという批判から、閣僚同士で会議する場として今年4月に海外経済協力会議が立ち上げられました。前向きな組織改革が行われており、例えば平成20年にはODA実施機関の統合改革など、新しいJICA(国際協力機構)の下で縦割りの問題を乗り越えようという動きもあります。

ODA予算については、ここ9年間で35%削減されているのが現状であり、GDPに対する長期債務残高が150%を超えるなど、OECD加盟国の中で最も成績が悪くなっています。政府としては、現代の借金を子ども達に残さないよう、歳出歳入一体改革を進めており、ODAを含めた各分野に対し厳しい見直しを行う必要があります。財政再建とODAの両立は難しい課題であり、例えば、税に頼らない円借款の増額や現場での事業体制をさらに見直していくといった工夫も必要となっています。

一方、日本は、国際社会の中で8つのミレニアム開発目標の達成に献身的に力を入れています。日本はこれまでも、人口・エイズに関する地球規模問題イニシアティブや国際寄生虫対策、沖縄感染症イニシアティブなどを実施し、平成17年6月には保健と開発のイニシアティブの実施も発表され、5年間で10億ドルの拠出が公約されました。今後も、専門家の人材育成、NGOや民間企業との連携など、さまざまなアクターの強みを生かして、各問題に正面から向き合っていかなければなりません。

NGOとの連携も重要な課題です。NGOには、高度な技術を持っている団体から、草の根で活動する団体などもあり、幅広く支援していくことが必要となるでしょう。しかし、政府のNGOに対する影響が強くなりすぎる懸念もあり、そのバランスをとることが肝心となります。

ODAの中期政策には人間の安全保障という言葉が明確に示されています。新型感染症、地球環境問題など、グローバルな問題が深刻化する昨今、各国政府のみが自国の国民の安全を守り、国家間の安全を保障することは困難になってきています。われわれは一人ひとりの人間、コミュニティを守るため努力しなくてはいけません。例えば、日本は、カンボジア地雷除去作業に日本人が参加し、カンボジア住民の地雷被害を防ぐといった形で人間の安全保障の理念を推進しており、今後はODAがどのように活動を支えていくかを考えなくてはいけません。

さらに日本は世界銀行やアジア開発銀行にも多額の資金拠出をしています。多国間援助は顔の見えない援助という批判がある一方、国際機関がもつ経験や知識を活用していくことが大事ではないかと思います。また、資金援助をするドナーとしての責任を果たすためには、資金拠出だけでなく、積極的にプロセスに関与し、さらに技術協力を通じた人材育成にも力を入れる必要があると思います。

まさに「情けは人の為ならず」であり、開発途上国が真の意味で発展を遂げていけるように、つまり、自らの手で開発戦略の策定と実施、人材育成、良い統治が実現できるよう支援するべきだと思います。日本もかつて、世界銀行などの援助を受けながら経済成長を遂げてきました。よく挙げられる例ではありますが、釣った魚にえさを与えるのではなく、釣竿を自分で操れるように支援していくことが大切です。

パネル・ディスカッション (以下、敬称略)

ODAの機構改革・予算について
下村 恭民氏

下村:最近のODA組織体系改革は、そもそも財政投融資等の議論から生まれた副産物であり、国際社会の中での日本の役割を十分議論した上での結果とは言えません。すでにできつつある新しい組織機構では、JICA、JBIC(国際協力銀行)がさまざまな制度上の相違、および単年度予算制度による制約のために、本来の働きができていないのが現状です。効率的でない理由は、中央官庁から現場へ、そして外務省からJICAへの権限委譲ができていないためです。制約条件をできるだけ外していくことでいかに効果的な支援ができるかが課題となるでしょう

原田 勝広氏

原田:国際協力は非軍事の国際貢献であり、ODAはその柱といえます。キーワードを3つあげると、

  1. グローバル・ソサエティ:国家が自国の利益だけを考える時代は終わり、国際社会での日本の役割を考える視点をもつ
  2. パートナーシップ:持続可能な社会へ向けて、第一・第二・第三セクターの政府、企業、市民社会が協力し、地球全体の利益の達成を目的とする
  3. 企業との連携強化: CSR(企業の社会的責任)はミレニアム開発目標と密接に関連しており、民間投資を念頭に置いたODAを考える

この3つのキーワードを念頭におき、新しいODA改革を考えていく必要があると思います。

谷垣:JICAとJBICの統合は、政策金融機関の今後についての議論から生じた副産物であることは確かです。今まで技術開発協力を専門にしていた人が、金融面で支援活動をするのは、分野が異なるために丁寧に見ていく必要があります。JICAとJBICの両者にある国際的ブランド力と信用力は有効的に使いたいと思います。

また、予算の単年度主義の問題については、厳格さを追及したために生じた無理もしくは無駄であるという指摘がありますが、柔軟性と厳格さのバランスの問題はODAだけではなく、永遠の課題であり、それをどう解決するかを考えなくてはなりません。

ODA予算増加の見込みは非常に難しいのが現実です。というのも、安倍総理は基本的に成長と歳出削減という方針であり、ODAがどんなに崇高な事業でも、ODAが予算編成に関係しないというのは困難であると考えております。ODAの重要性を問う声や、なぜ増税の危機にありながら他国に協力すべきであるかについては、「情けは人のためならず」の考えのもと、繰り返し議論していかなければなりません。

広中 和歌子氏

広中:メディアは当初からODAの短所を指摘、非難してきましたが、今までのところ、人道支援や環境への配慮などの面でODAの質は少しずつ向上してきています。評価される部分の方が多いことは現地に出向けば一目瞭然。機構の一元化については1+1=2の足し算にならないように、より効率化を追求すべきだと思います。日本はODAの量と質の両面において取り組む課題がたくさんあります。まさに「情けは人のためならず」であり、NGOとともに質の高い支援をしていく事が、美しい国を実現するテーマになるのではないでしょうか。

下村:ODA予算と他の予算費目増減では大きな違いがあります。ODAの場合、国際社会へのメッセージ性について考えなければなりません。削減計画を発表すること自体が、国益中心的な内向きな社会という印象を世界に発信してしまいます。その代償を受ける覚悟が日本にできているかどうか、考えるべきだと思います。

丹羽 敏之氏

丹羽:国連改革という観点からODAの組織のあり方を考えてみたいと思います。国連改革は当初、スクラップ・アンド・ビルド(解体と建築)の考えのもと、開発、人道、環境という三つの柱に分ける方向で動いていました。しかし、ユニセフの活動はこの三つの柱の全てにまたがっています。すでにさまざまな成果をあげてきた組織を、完全に解体してしまってよいのだろうか、という議論になっています。

さらに、国連改革は国連だけの問題ではありません。たとえば、開発銀行は無償資金協力も行っており、世界基金という形態も出てきています。また、ビル・ゲイツ氏やジョージ・ソロス氏なども大きな貢献をしています。国連事務総長の交代もあり、今後いろいろな課題に直面することが予想されますが、企業の役割や二国間援助など相関的な観点から見ていく必要があります。

海外経済協力会議とミレニアム開発目標(MDG)
杉下 恒光氏

杉下:海外経済協力会議の役割や透明性について

原田:海外経済協力会議が十分機能しているかどうかは重要な問題です。海外経済協力会議が機能しないとODAもJICAもうまく機能しない。海外経済協力会議がまず取り組む課題は、円借款、無償資金、技術協力の3つのスキームをどう統合していくか、であると思います。

谷垣:経済財政諮問会議に比べ、海外経済協力会議は閣僚が5人で、事務方の出入りもそれほど多くないため、事務方による内容処理・整理が重要になってくると思います。まだ3回しか開催されてないため、評価するのは時期尚早ですが、中国への円借款などは成果として挙げられるのではないでしょうか。

杉下:MDGの重要性について、2005年の中間評価では進捗状況は思わしくなく、特にサブサハラアフリカでは達成できないとの懸念もありました。期限まで残された10年弱、何をすればいいのでしょうか。

鶴岡 公二氏

鶴岡:日本のODAは常にMDGへの貢献を念頭においているため、達成状況が思わしくないという点には危機感を感じています。2010年に再評価を行う際、日本がどういう貢献をしているかが国際社会に問われると思います。まず、いくつかの大きな財源に関する国際公約については、事業ベースで2005年と比べ100億ドルの積み増し、また、アジア・アフリカ首脳会議で提案および公約されたアフリカへの支援の倍増などがあります。新しくできた防災災害復興対策については、5年間で25億ドル以上の支援を行うことになっています。経済大国第2位である日本は、資金面での貢献が期待されており、MDG達成のための財源確保という点でも、役割が求められています。さらに、日本は得意分野である保健衛生、教育などで2国間と多国間を連携させて成果を出していくべきではないかと思います。

ODAにおけるNGOや企業の役割

杉下:MDG達成に関して、やはりNGOの役割は欠かせないと思いますが。

左:御法川 信英氏
右:木山 啓子氏  

木山:NGOは実行役であると同時に監視役でもあります。政策提言と一般市民への発信者としての役割も重要になってきています。ただ、問題は人材の層が薄いということ。これを克服できれば、計画実行者としてODAの質を上げ、発信者として市民社会にも支えられるNGOができるのではないでしょうか。NGOの人材育成について以下の三つの提案があります。

  1. 専門家の育成
  2. 人材の回転:政府、国連、大学など、NGO経験者の現地経験を生かせる場を設ける
  3. 一般市民がODAを理解できる仕組み:ODAとは施しではなく、戦略的に国が必要なものという理解の促進。開発教育を学校教育システムに組み込むことなどが必要

原田:通常の政府予算では緊急人道支援の資金調達に時間がかかりすぎ、欧米のNGOに日本のNGOは一歩遅れてしまう傾向があります。「ジャパン・プラットフォーム」の確立は、緊急支援の可能性を広げ、アイデアを持つ人材が新しい仕組みを作っていけるのではと期待しています。

広中:NGO経験者への帰国後の支援や、海外で積んだ技術を活かす日本での環境作りも考えなくてはいけません。

原田:企業とMDGのグローバルコンパクトという枠組みについて。例えば、イギリスのBritish Petroleum社では、企業方針に「わが社はMDGの目標2 および3に貢献している」と明記し、企業活動の国際貢献を明確にアピールしています。また、UNDPの持続可能なビジネス育成(GSB)など、企業がCSRではなく、ビジネスの一環として貢献するプログラムもあります。ユニセフ関連の企業、ODA、NGO、国連のパートナーシップの代表例として、住友化学の蚊帳が挙げられます。これは、ODAの資金協力でNGOやユニセフが調達や配布を行い、日本企業が作った製品が使われるという、もっとも成功したパートナーシップの例といえます。

御法川:ODAが発するメッセージは非常に重要です。税金で賄われているODAの使い途について、例えば、国内NGOへの支援基準、もしくは国際NGOに対する支援の可否など、国民がODAに抱く疑問を明らかにし、今後の方針を明確にする必要があります。

鶴岡:援助に対する考え方が変化し、さまざまなアクター(民間、個人、NGOなど)が国際支援活動に従事しています。国際社会は緊急性を重視し、基金を積んでおく必要性もあります。しかし、日本政府は国民の厳密な調査と証明が求められる基金を設立するのを好まないため、この国際的な変化に対応しきれていないのが現状です。

人間の安全保障

杉下:人間の安全保障について。

木山:人間の安全保障は、治安改善のために何ができるかが重要視される、素晴らしい概念です。例えば、治安が悪化している紛争地での武装解除も大切ですが、人びとが平和や安全な暮らしを実際に感じることができるような支援活動が、多くの人に希望を与え、社会の安定へと繋がっていくと思います。

下村:人間の安全保障に取り組む際、ODAは途上国のか細い行政機構を通して現場に降ろしていかなければなりません。現場で活動する国際NGOの活動も重要であり、外部に対する透明性、説明責任が問われています。その上での人間の安全保障を考えるべきだと思います。

広中:ODAは今後、国から人へ、家族へ、という方向で進んでいくのではないでしょうか。ゆえに、これまでのODAとは多少異なる工夫も必要となります。バングラデシュのユヌス氏から始まったマイクロ・クレジットは顔の見える大事な支援であり、こういった分野でも人材を育成していく必要があります。

多国間(マルチ)協力

丹羽:マルチ援助の利点は多いと思います。例えば、アフリカの日本の在外公館は24ありますが、ユニセフは43の国に事務所および72のサブオフィスがあり、合計115の事務所で活動しています。また、ユニセフは世界190近くの国と地域に事務所と国内委員会を置き、世界各国で活動しています。こうしたネットワークを活かし、スマトラ沖大地震やパキスタン地震の際も、被災後すぐに緊急支援活動を開始できました。この活動を二国間の支援と有機的に結びつけることはできると思います。

マルチ援助において、政府、NGO、民間、大学など、さまざまな分野の連携が制度的に整ってきてはいますが、さらに効率化を進めるべきです。国連組織において連携が不十分でないのは、しばしば、加盟国間での連携が足りないことを反映している場合があります。しかし、国連の果たせる役割は大きく、マルチ援助の窓口として有効に使ってほしいと思います。

浦元 義照氏

浦元:国は国家主権を持つと同時に、自国民が生存権や社会権といった基本的な権利を享受できるような統治をする義務を負います。しかし、それが機能していないケースは多々あり、例えば、ルワンダでは、結果的に国連が介入しました。人間の安全保障を進めていく上で、二国間援助だと内政干渉となる場合がありますが、そのような時こそ、マルチの役割が重要になるのではないでしょうか。

質疑応答

当日訪れた学生、NGO関係者等からの興味深い質問が出され、それらに応える中で、パネリストから幾つかの提案も出されました。

Q:どうすればODAを無駄なく活用できますか。またODAに対する理解を深めるために、どのような取り組みが必要だと思いますか。

谷垣:今後の取り組むべき事について、以下の2つが挙げられると思います。

  1. 現在の日本では、緊急性に対して活用しやすい基金を持つというのは、なかなか難しい状況です。国会に予算を通し、監査を受けるという厳格な体制に対し、柔軟な対応がどうできるかというのは永遠の課題でもあります。今後は、案件形成をしっかり行い、事後チェック、国家監査を行う流れを確立した上で、柔軟な対応と厳格なチェックをバランスよく行うことが必要だと思います。
  2. 一般市民のODAへの理解力を深めるのは政治家の役割でもあると思います。 財政状況の悪化=ODA削減という単純な問題ではありません。また、学校教育の現場でも子どもたちにODAについての知識を身につける必要性も感じています。

Q:日本のODAと国連について

鶴岡:まず日本国内では、海外経済協力会議を司令塔とし、内閣、各省庁で議論し、戦略を立て、JICAで一本化して実施するという三層構造になりました。しかし、戦略と実行においては、国際機関の役割も考慮に入れる必要があります。日本は国連の大株主であり、発言力もあります。日本のODAをよりよく使っていくためにも、より恣意的に国際機関と連携していく必要があると思います。

しかし、日本は最近どんどんその株を売ってしまい、つまり、発言力が弱まり、国際機関での日本の存在感が失われてきています。国際機関は日本だけでなく、全加盟国で支えている組織であるため、その中に必ず力関係があります。日本は、このままでは近いうちに株主ベスト10からも落ちる可能性もあります。すなわち、「投資なき所には成果なし」といえるでしょう。

Q:今回のシンポジウムの開催は非常に評価されることではありますが、一方、国際機関としてユニセフしか出ていないというのは一つの問題点ではないでしょうか。

丹羽:将来的には一緒に議論する必要があると考えています。

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