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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたちは今 報告会レポート

ユニセフ タジキスタン現地報告会
「タジキスタンに生きる子どもの今」

■日時 2007年1月10日(水) 14:00〜16:30
■場所 東京・港区 高輪ユニセフハウス
■主催 (財)日本ユニセフ協会
■報告 ユニセフ タジキスタン事務所代表 杢尾雪絵氏
© 日本ユニセフ協会

 

【子どもたちの今】

タジキスタンの子どもたちは、日本の子どもたちと同じように、毎日を笑顔で楽しく暮らそうとしています。しかし、タジキスタンの現状は日本と比べると大変厳しく、ユニセフの統計では、13人に1人の子どもは学齢期に達するまでに命を落としていると報告されています。これは日本と比べると約20倍位の高さです。その理由として、風邪や下痢などの予防可能な病気が原因で、例えば、風邪をこじらせて肺炎で亡くなったり、下痢の症状がひどくなって脱水症状で命を落とす子どもたちが多くいます。また、栄養失調の割合も高く、急激に体重が減って栄養失調になる子どもや、慢性の栄養失調状態の子どももいます。

© UNICEF Tajikistan/Giacomo Pirozzi

タジキスタンは、内戦が終結し政治状況も大分安定してきました。経済成長率もよく、飢餓の問題は少なくなってきています。しかし、貧困家庭は依然として多く、家庭でのケアが行き渡らず、5歳未満の子どもの3割近くが慢性の栄養失調状態に陥っています。発育不良のため、年齢に対して身長や体重が伸びず、7〜8歳の子どもが5歳くらいにしか見えないことがあります。

タジキスタンはいわゆる旧ソ連圏の共和国の1つで、その中でも一番端にある開発が最も遅れた国と考えられています。日本人の私から見ると非常にアジア的で、皆さんも実際に行ってみると親しみがわくのではないかと思います。文化や風習はイスラム教の国ですので、一見全く違うように見えますが、昔からある慣習や家族のシステムは日本に似たところがあると思います。

© UNICEF Tajikistan/Giacomo Pirozzi

日本とタジキスタンの大きな違いは、経済状況のため貧困家庭が多く、貧困率が高いことです。アフリカやアジア諸国でも貧困にあえいでいる国はたくさんありますが、ほとんどの国では教育の水準や乳幼児の死亡率など、子どもに関する状況は次第に改善されています。一方タジキスタンは、旧ソ連時代には、社会サービスが徹底され、教育制度もしっかりしていたため、その時代に育った世代は学校に通うことができました。 しかし、今の世代になってから、就学率はそれほど下がっていないのにもかかわらず、25%の子どもたちが9年間の義務教育を終えることができません。両親は大学教育を受けられていたのに、子どもは義務教育すら修了できない状況になっています。世代を経るにつれ、教育水準が低下していくのは、世界の中でも珍しい例だと思われます。

【子どもの権利】

こうした現状をくい止めるのは一筋縄ではいきません。ユニセフは、政府と交渉をしたり、他の国際機関と提携して、国の制度を良くする活動をしています。その中でも、保護者やコミュニティに、子どもたちにとって、どのように成長していくのが一番良いかを理解してもらうことが重要です。

子どもの権利について一般的にあまり知られていませんが、生まれてきた子どもはみな、人間として出生登録をして国籍をもつ権利があります。国籍をもつことは日本では当たり前のことですが、タジキスタンでは学齢期前までに出生登録されない子どもの数は全体では約2割、ある地域では4割近くもいます。つまり、生まれてきても人間として社会に存在を認められず、社会サービスや学校に行くチャンスも失っています。

© UNICEF Tajikistan/Giacomo Pirozzi

子どもたちにはまた、生きる権利もあります。学齢期になれば学校に行き教育を受ける権利、保護される権利があり、子どもたちが普通に生活をするには、そういった権利が守られることが大切です。

このような子どもたちの権利を守ることが私たちユニセフの仕事ですが、タジキスタンのように日々刻々と状況が変わる国では、国の財政もままならず、民間企業もあまり発達していないため、資金的には非常に苦しい状況にあります。

子どもたちが平穏無事に暮らせること、健康で教育を受けられることにその国の未来がかかっています。ユニセフを支援していただいている皆さんには、大切な世界の将来のために貢献していただいていると考えていただければと思います。

【Q&A】

Q1:NHK「プロフェッショナル」を通じて杢尾さんが伝えたかったこと、また番組ディレクターの寺岡さんが伝えたかったこととは?

© 日本ユニセフ協会

杢尾:このお話をいただいた時に大変ありがたいと思ったのは、日本の全国番組を通して、多くの方に見ていただけるということです。ユニセフを知らない方にも、また名前は知っていても何をしている団体なのか知らない方にも、子どもの権利や日本にとって馴染みの少ないタジキスタンという国の様子、子どもたちの権利のことを知っていただく大変良い機会だと思いました。

寺岡:チャリティーとプロの支援の仕事との違いは、プロの仕事は長く続けていくもの、チャリティーというのは一時の盛り上がりで、生活とは違うところで非日常的に芽生える感情であるものだと思うのですが、そのことをずっとやり続けるプロというのは、何を考えていて、どんなことにぶつかっているのか、ちゃんと見届けようという想いが取材前からありました。

Q2:予防接種以外で、ユニセフがタジキスタンで取り組んでいる事業を教えてください

© UNICEF Tajikistan/Giacomo Pirozzi

母子保健事業の他に教育、子どもの保護、青少年活動などの事業を行っています。教育に関して、タジキスタンの教育水準は低下の傾向にありますが、最も問題になっているのが女子教育です。ソ連時代には皆が義務教育を受けていましたが、最近では9年間の義務教育のうち5年生くらいを過ぎると女の子は学校に行かせず、家事を手伝わせ、15〜16歳くらいで親同士が決めたお見合い結婚をして嫁がせるといった早期結婚が、とくに地方でよくみられます。何年か前の調査結果では、保護者の教育に対する意識が低下し、“学校教育を受けても直接仕事に結びつかないので、学校へ行く意味がない”と考えています。また昔は、教師は尊敬されていた職業でしたが、今は尊敬の念も薄れてきています。そういった中で、日本ユニセフ協会からも支援いただいている課外活動の支援に力をいれています。学校での正規の授業以外に、女の子でも男の子でも、子どもたちが自ら生活に直結する技術を学び、保護者にも学校教育の重要性を理解してもらい、子どもたちの中途退学を防ぐ努力をしています。

© UNICEF Tajikistan/Giacomo Pirozzi

子どもの保護の分野では、残念ながら、少年犯罪の数が増加していますが、法改正に加えて、子どもたちが社会から隔離されずに活動できるような事業も行っています。青少年活動で一番大きな問題はエイズの予防です。タジキスタンは、アフガニスタンからの麻薬がヨーロッパへ流れる中継地であるため麻薬取引が盛んです。注射針の回し打ちにより、麻薬中毒者のほとんどがエイズにかかっています。青少年には健康的な活動や社会事業への参加を促し、性教育も含めてエイズのことをよく理解してもらい、10〜20代の若い世代に社会の中で活躍する場を持ってもらうための活動もしています。

Q3:ユニセフがNGOとどのような連携を取っているか教えてください

ユニセフは、主に教育省など、直接国の政策と関わる機関と活動していますが、女子教育に関してはNGO団体のセーブ・ザ・チルドレンとともに実際に現地に入って課外活動を支援する活動もしています。また地元NGOとの協力も重要です。タジキスタンはソ連時代の歴史的背景もあり、市民活動があまり盛んではありません。NGOの数は増えていますが、活動する余力がないのが現状です。しかし、若い世代が自分たちの生活がよくなるためにどうすればいいか、自分自身で考えるための青少年活動は、NGO活動の大きな基盤となると考えられています。タジキスタンの政府は、あまりその経験がないので、NGOが主体となって若者が参加できる活動を広めることも行っています。 

Q4:人身売買や出稼ぎによるエイズ問題の増加やストリートチルドレンは?

© UNICEF Tajikistan/Giacomo Pirozzi

タジキスタンでもたくさんの子どもたちが市場で働いたり、車を洗ったりしています。街に住んでいるわけではなく、家はあっても、貧困のため街に働きに出ている子どもたちも多く、そのほとんどは学校に行っていません。学校に行くより町で働いたほうが家にお金を持ってきてくれるから良いと考えている親さえいるのです。

また、ユニセフが行った調査では、エイズのことを総合的に理解しているおとなは全人口の3%も満たず、知ってはいても、エイズの予防法やエイズ患者と日常生活を送ることができることまでは理解していません。エイズに対する知識がないまま海外に出て、HIVに感染して帰国し、その結果国内でエイズが広まっている状況です。

Q5:日本の子どもたちにユニセフを紹介するときに、何を一番伝えてほしいと思われますか?

日本の子どもたちにも、開発途上国の様子がどうかという開発教育の枠を越えて、子どもが持つ権利について、もっと知ってもらえる環境があればと思います。

Q6:チャリティーについてどう思われますか?

© UNICEF Tajikistan/Giacomo Pirozzi

ユニセフのように子どもを支援する機関というとよく“チャリティーをする機関ですね”と言われることがあります。その時私は、「ユニセフは、チャリティー精神のもとに成り立っていますが“人権の機関”です」とお答えします。ユニセフの本当の目的は、困っている人を助けるためのお金を集めることが目的ではなく、子どもの権利を守ることが目的だからです。

ユニセフなどの国連機関は、国全体の制度を変え、子どもの権利が守られる環境をつくるため、政府や市民団体と一体となって活動しています。誰か一人ではなく、社会全体の一員である一人ひとりが責任をもち、いろいろなレベルでの活動が調整されて本当の環境づくりができると思います。子どもの権利を守ることはチャリティーの枠を越え、もっと大きな枠組みで活動しなければいけないとユニセフは考えています。

そのためには資金が必要ですが、ユニセフは皆さんが寄付してくださる基金のもとに成り立っています。企業や民間の方々から「私たちの募金で事業を動かしていってほしい」というチャリティーの精神は、ユニセフ活動の根底にある大切なものです。皆さんのお気持ちでユニセフ活動が成り立っており、チャリティー精神は大切なことです。ユニセフの活動はチャリティーという枠を越えた人権を守るための仕事と考えていただければと思います。

Q7:タジキスタンの水を取り巻く問題、都市・地方での違いも含めてを教えてください

© UNICEF Tajikistan/Giacomo Pirozzi

首都で水の状態があれほど悪いのは貧困国の中でも珍しく、タジキスタンの水の供給は深刻な問題です。実はタジキスタンは国土の93%が山岳で、その中には6,000〜7,000mのパミール高原もあり水資源は豊富です。しかしソ連時代に作られた設備が機能せず、首都ドュシャンベでも水の状況は悪く、雨が降ると土砂がそのまま蛇口に流れてくるのが現状です。それでも、都市部でパイプから水がでてくるのはまだ良いほうで、地方には設備もありません。栄養失調や子どもの死亡率の高い理由の一つとして、水や衛生の問題もあり、それが原因で下痢を起こして死に至ることもあります。

ユニセフは現在、日本政府から『人間の安全保障基金』の名目で支援を受け、学校での衛生設備の改善のため活動しています。衛生的なトイレの設置や、子どもたち自身が学校周辺の環境を調査し、なぜ下痢になるのかを考え、彼らの手で衛生的な環境を作るための事業をしています。これまで3,000校のうち300校くらいカバーしました。設備をつくるだけではなく、子どもたちが自ら環境や衛生の大切さを理解することで、次の世代へと引き継がれるだろうと期待しています。

Q8:子どもの権利に関してタジキスタンではどのような働きかけをなさっていますか?

© UNICEF Tajikistan/Giacomo Pirozzi

タジキスタンでは、子どもの権利や子どもの参加についての理解が不十分です。ユニセフでは、理解ある市民団体・NGOと共同で、子どもたちが実際に何ができるかをデモンストレーションする活動をしています。例えば、京都で以前開かれた「世界水フォーラム」の期間中、ユニセフが共催で「子ども水フォーラム」という会議が開催されました。世界中の子どもたちが集まり、タジキスタンからも2人の子どもが参加しました。その会議の前に、タジキスタンでは、地元の子どもたちが自分たちの「水フォーラム」を開催しました。始めは半信半疑だった政府関係者も、この子どもたちの活動を見て、子どもたちができることについて納得していました。こういった機会を通じて理解の輪が広がっていけばと思います。

Q9:プロジェクトを実行しようとしている際に、予算編成をどのように進めているのかを教えてください。また企業ドナーとして、お金を寄付する以外に期待することがあれば教えてください

私の大切な仕事のひとつは、どれだけの事業資金が集められるかということです。それに加え、ユニセフが現地で仕事をするときは、政府の予算だけでなく、国際機関の予算を子どもたちの権利を守るための事業に使われるように働きかけていくというのも重要です。

タジキスタンの国家財政は大変厳しく、人口1人あたりに使われる保健事業の予算が国家財政からは2ドル。国家財政以外を入れても12ドルという数字が世界銀行の調査で出ており、貧困国の中をみても大変少ない数字です。予算は約3年〜5年の単位で組み立てられますが、タジキスタンはその時々で状況が変わるため、常に調整を行っていかなければいけません。

ユニセフの事業を支援していただいている企業には大変感謝をしております。資金的なサポート以外という点では、開発教育を通して民間企業の方々に、日本でも子どもの権利が守られていくような、子どもの権利に関する啓蒙活動を行っていただけたら大変ありがたく思います。

Q10:杢尾さんの夢を教えてください

© 日本ユニセフ協会

あまり現実的な夢ではありませんが、ユニセフが活動しなくても良い世の中にすることです。まだまだ時間がかかるとは思いますが、ユニセフが子どもの権利を守るための啓蒙活動をしなくても、子どもたちが健康で教育を受けられ、平和に暮らせる世の中があればいいと思います。

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