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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたちは今 報告会レポート

MDG連続セミナー (2)
「衛生習慣とトイレが守る命と健康〜世界の3人に1人がトイレを使えない現実〜」

©日本ユニセフ協会

■日 時 2010年9月24日(木) 午後2時〜3時半

■場 所 ユニセフハウス 1Fホール

■主 催:(財)日本ユニセフ協会

■報告者 鈴木 泰生 氏
         (前ユニセフ ジンバブエ事務所 水と衛生担当官)

世界の乳幼児死亡率の削減や普遍的初等教育の実現などを目指す国連ミレニアム開発目標(MDGs)。その目標年である2015年まで、あと残すところわずか5年。目標達成に向け、より一層の努力が求められている水と衛生の問題について、前ユニセフ ジンバブエ事務所の水と衛生担当官 鈴木泰生さんが講演を行いました。

講演に先立ち、日本ユニセフ協会のスタッフが、水と衛生に関する世界の現状と、トイレがあることの恩恵とないことの危険性について、最新の統計を交えながら報告しました。

適切な衛生設備(トイレ)にアクセスできない人の数は、世界で26億人。世界人口の約2.6人にひとりは、トイレのない生活を送っています。1グラムのふん便に含まれる病原体の数は、10,000,000 ウィルス。適切な衛生施設(トイレ)を利用して、排泄物に直接触れないということは、私たちが健康で衛生的な生活を送る上でとても重要な縁の下の力持ちになっているのです。また、適切な衛生設備(トイレ)にアクセスできない人のうち、72パーセントはアジアに暮らす人々です。世界での地域差や、都市部と農村部の格差も問題となっています。

2000年にスタートした国連ミレニアム開発目標(MDGs)。今日の水と衛生の分野は、達成すべき8つの目標のうちの目標7、環境の持続可能性確保に含まれ、2015年までに、安全な飲料水及び改善された衛生施設(トイレ)を継続的に利用できない人々の割合を半減するという目標を掲げています。しかし、最新の報告によると、現在のペースではMDGsの達成が非常に困難で、約10億人が取り残されると訴えられています。

くわしい統計は、以下をご覧ください(英語のみ)。
http://www.unicef.org/media/files/JMP-2010Final.pdf#search='Progress on Sanitation and DrinkingWater 2010 update'

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次に、2008年2月からユニセフ・ジンバブエ事務所の水と衛生担当官に着任し、今年の6月に帰国したばかりの鈴木泰生さんが報告しました。

ジンバブエの概要

「ジンバブエは、アフリカ大陸の南部、南アフリカのすぐ北側に位置し、首都はハラレです。標高が高く、よく日本の軽井沢のようだと言われるような比較的過ごしやすい気候です。

かつてはロデーシアと呼ばれ、独立したのが1980年。農業が盛んでアフリカの穀倉庫と呼ばれていたこともあります。しかしながら、2000年に土地の改革が行われ、状況は一変しました。英国領土だったために白人が多く住んでいましたが、政府は、彼らが所有していた農地を略奪するような形で没収し、ジンバブエの人たちに割り当てたのです。このため、土地を没収された白人の人たちは隣国へ逃れ、農作物の生産の知識をあまり持たないジンバブエの人たちによる農業はうまくいきませんでした。その結果、アフリカの穀倉庫と呼ばれていたジンバブエの生産高は、年々低下していったのです。

さらに、経済が悪化、超インフレが起こりました。日々お金のゼロの数が変わりました。冗談のような話ですが、喫茶店に入ってコーヒーを注文し、2時間後、同じ喫茶店で同じコーヒーを注文したら、もう値段が倍くらい違っていたという話もあるくらいでした。その結果、公共システムが機能しなくなり、学校も閉校するところが多くなりました。医療、社会保障の問題もありました。

1000兆ドル。世界で発行された最高額のお札。 しかし、発行された時点で既にインフレが進んで いるためこのお札一枚ではパン一斤も買えない。

ユニセフ・ジンバブエ事務所の体制

私が着任した当時、ユニセフ・ジンバブエ事務所には、(1)子どもの保護、(2)HIV/エイズ、(3)教育とジェンダーの平等、(4)保健、(5)水と衛生の5つの部署がありました。

水と衛生

水と衛生の部署では、(1)政策提言、(2)緊急支援、(3)コミュニティの水と衛生環境整備、(4)学校の水と衛生環境整備、(5)緊急復興事業(コレラ被害収束後の対応)の事業を展開していました。

(1)政策提言

  • 水道設備改善における計画・立案
  • 水道料金の徴収方法、利用方法、持続性等
  • 水衛生に関係する省庁の能力育成
  • ハンドポンプやラトリン(ここでは穴を掘っただけのトイレ)の技術・方法向上
  • 事業コーディネーション用のAtlas作成
トレーニングの写真。手押しポンプの使用や修理の方法を現地の人々や新しく赴任してきた国際スタッフに説明しているところ。緊急事業では、各国から短期間に緊急支援スタッフが入るが、そこの国でどのようなものが使用されているのかがわからないので研修を行った。

ジンバブエの人々が、自ら水道を上手く利用し、持続させていくには、水道料金を徴収し、事業として成立させなくてはいけません。そのためにユニセフは、助言を行い、計画を一緒に練っていくという活動を行っていました。

「事業コーディネーション用のAtlas作成」というのは、現地のNGOが、どこでどのような事業を行っているのかを把握し、マッピングすることによって、同じような事業を同じ場所で、同じ地域の人々に支援するようなことがないように、支援の調整を行う冊子を作成することです。

(2)緊急支援

緊急事態に備えて、事前にどのような準備をしておくべきか、計画を立てました。2008年前半は、大統領選挙の影響による国内避難民への対応、後半にはコレラの流行に対する支援を行っていました。

奥にあるのは飲料水を運ぶための給水車。 手前にある袋は、「バウザー」と呼ばれる大きな布団圧縮袋のようなもの。使用しない場合は小さくたたんで保管し、緊急時にはこの中に水を貯めて清潔な飲料水を提供する。
水と衛生キットの配布。バケツに入っている緑色の長細いものは、現地の石けん。その他、浄水剤、ポスターなども配布する。

(3)コミュニティのにおける水と衛生環境整備

15分から30分離れたところまで、女性が水を運ぶ。

現地の人々に、「健康な生活にはトイレが必要だ」とトレーニングを行い、自分たちでトイレが作れるようにする研修をしました。

(4)学校の水と衛生環境整備

主に小学校を対象に、井戸やトイレの設置を行っていました。手洗い場や、手洗いの推進も行っていました。ポスターを利用して、手洗いやトイレの使用方法を先生と子どもたちに行っていました。

地方の小学校の写真
トイレを作っている最中の写真

(5)緊急復興事業(コレラ被害収束後の対応)

コレラが発生した後にできた新しい事業のひとつです。全国にある浄水場のアセスメントを行い、どこでどのようなニーズがあるのかを調べます。1980年に独立してから、その後メンテナンスがほとんどされていないために老朽化が進んでいるポンプや施設に対する支援を行っていました。浄水場では、塩素処理等を行うために化学薬品を使用していますが、それを行政が購入できないため、ろ過されていても塩素処理されていない水が流れてしまいました。そのため、ユニセフが塩素処理のための浄水剤を支援したりしていました。下水道の清掃装置や道具も配布していました。また水道局のスタッフのトレーニングも行い、今後どういった点に気をつけるべきか等を伝えています。

浄水場の写真
昔のものを使用していて清潔な状態ではない。
本当は塩素を注入するタンクが紛失してしまっている様子
日本政府からの支援で配布した化学製品

事業における「壁」

南アフリカやモザンビークなどの隣国から物資を仕入れる必要がありましたが、超インフレのために、見積もりを取ることすら難しい状況でした。見積もりをとっても、30分しか有効でないこともありました。 また、人が集まっていると、選挙活動しているのではないかと疑われ、一時期は首都のハラレから動くことができないこともありました。

ジンバブエの水と衛生=先進国

VIP (Ventilated Improved Pit) トイレ。煙突のように出ているのが通気口。その上にはハエ取り用のネットが設置されている。中が暗いのでハエは入り難いが、もし入ってしまって汚物の中で卵を産んだとしても、明るい方へ向かう習性のあるハエは通気口の方へ飛んでいき、そこにはネットが張ってあるので外に出られず、中で死んでしまう仕組みになっている。

ジンバブエの水と衛生において欠かせない存在なのが、ピーター・モーガン(Peter Morgan)さんです。この方は、英国からの移民で、水と衛生分野ではとても有名な人です。ジンバブエで色々な種類のトイレを考え、現地にあうものを考案しました。また、ハンドポンプの発明をしたりしていました。モーガンさんの活躍もあり、ジンバブエは、水と衛生に関して、実はとても進んでいます。

例えば、VIP (Ventilated Improved Pit:改良型喚起式トイレ) トイレ。このトイレは、基本的に穴が掘ってある上に建物が建っているだけのものですが、そこに上手に通気口を付け、においがこもらず、ハエが入り難くなるといった利点があります。

これも、Peter Morganさんが発明したものです。ジンバブエから発信したこのトイレは、今ではアフリカの他の国々でもよく使用されています。また、トイレを作る過程で、土やじゃり、レンガ等は現地の人に手配してもらい、自分たちで作ったという気持ちを持ってもらうことも大事にしています。

Bタイプのポンプ。10年ほど使っていてもメンテナンスが必要ないほど丈夫なもの。

さらに、ジンバブエで取れる資材で、かつあまりメンテナンスをしなくても壊れ難いポンプを発明したのもジンバブエです。

Cタイプのポンプ

しかし、経済状況が悪化した影響で、Bタイプの設置に相当なお金がかかるようになってしまいました。そこで、ジンバブエ特有のモデルを生かしつつ、どうやったらコストを削減しながら設置できるかと、政府と地元NGOと皆で話し合い、新しくCタイプを開発しました。

ジンバブエにおける手洗い・トイレの与える影響

手洗いをすることによって、下痢疾患や感染症を予防する効果があります。そして、病気にならないということは、子どもたちが学校に行く機会が増えます。また、病院に行かない分、出費が減り、長い目で見れば経済効果に繋がります。

〜トイレのある生活〜

トイレのある生活は人間としての尊厳が保たれます。もし、皆さんがトイレのない家に住んでいるとして、お客様がいらしたときにトイレがなかったとしたら困ってしまいますよね。とても恥ずかしい思いをすることになるでしょう。人間としてトイレがあるということはとても重要なことなのです。

子どもたちが学校行こうと思う理由の一つ、また、保護者が子どもを学校に行かせようと思うチェックリストのひとつに、トイレがあること。特に女の子がいる家庭では、男女別のトイレがあることが挙げられています。トイレは、子どもたちが学校に通うためにも重要な役割を果たしているのです。

特にジンバブエでは…

ジンバブエではHIV/エイズは深刻な問題です。HIVに感染すると免疫力が低下してしまいます。HIVと共に生きている子どもを含むこうした人々は、きちんと手洗いをしないとすぐに病気に罹ってしまいます。また、栄養不良の子どもたちは、免疫力が低下しているので、手洗いで病気を予防することが重要です。手洗いの更なる重要性を強調したいと思います。

ジンバブエにおけるトイレ・衛生の問題点

都市部と農村部には格差があります。都市部の人々は農村部の人々よりも改善されたトイレを使用している人の割合が高くなっています。ミレニアム開発目標の達成においても、格差のない公平な状態で達成することが重要です。また、その他にも多様な問題があります。経済の悪化や政治の問題。こうした中で、水と衛生というのは、様々なことに関連している問題ですので、まだまだ解決していない問題が沢山あります。 こうした中で、「やる気」のある政府関係者をサポートし、現地の政府、地元NGOの皆さんと一緒に活動していくことが大事です。また、以前は、ジンバブエはとても物価の安いところでした。お昼ごはんをレストランに食べに行っても、お腹一杯食べても300〜400円くらいでした。今では、1000〜1200円くらいかかってしまいます。現地の人たちが食べる野菜なども、例えば一皿にトマトが5個くらい載って100円以下だったものが、今では100円以上しています。その中で格差がどんどん広がっていく。そしてまた、ジンバブエの人々が自分たちでどのように収益を上げて、自分たちで活動する資金を貯めて、活動していくのかということも大きな課題です。

みなさんもできること

手洗いをしましょう!

今日お話した衛生に近いことになりますが、10月15日は、「世界手洗いの日」。世界中で手を洗う取り組みが行われます。日本人だから手を洗わなくていいというのではなく、トイレの後、食事の前には手を洗い、皆さんの中で推進していって、世界のよい例になっていければと思います。

世界に興味を持って下さい!

こういう国があるんだな、こういう子どもたちがいるんだな、今世界ではこういう問題があるんだなと、色々な角度から見ることが大切だと思います。だから何をしなくてはいけないというのではないのですが、興味を持って家族に話したり、近所の人に話したりして、皆さんの認知度が高くなっていくのではないかと思います。

何かしたい!と思ったら…

海外の子どもたちのために資金を集めて募金するとか、色々なイベントに参加するとかもありますが、日本の子どもたちのために何かできないのかということも考えてみてほしいと思います。手洗いひとつにしても、日本の中でも手を洗うことを推進できていないところがあるのではないでしょうか。皆さんには、家庭に持ち帰って、日本の子どもたちにも何かできないかと考えてみてほしいと思います。色々な興味が出てきたら、日本ユニセフ協会にコンタクトして様々なイベントに参加してみるといいと思います。駆け足になりましたが、ジンバブエの報告と水と衛生の状況をお話しさせていただきました。本日は本当にありがとうございました。

質疑応答

Q:

改善されたトイレを設置した後のメンテナンスはどうしているのでしょうか?

A:

トレーニングで、メンテナンスのほか、トイレの建設の方法や、トイレの穴がいっぱいになったときにどうしたらいいのかといことも含めて教えています。冊子も配り、その後も確認し、実践してもらいます。コミュニティには、トイレを管理するための組織はありませんが、井戸管理委員会があります。そのメンバーが中心となって、トイレも一緒に管理している場合もあります。

Q:

飲料水の設備はどのように作られているのでしょうか?

A:

井戸は、掘削会社を利用して掘削します。深さは、深いところで100メートルm浅いところでは20〜30メートルくらいほどで、手押しポンプを設置するようにしています。電気が供給されていない地域も多いので、電気を使ってポンプで水を上げることもできませんし、燃料の確保が難しいので手押しポンプを利用しています。また、手押しポンプは比較的簡単にメンテナンスできます。ポンプの修理は、専門の技術を持った人が対応します。たいてい、町にはこのような人がひとりはいます。ユニセフの役割は、掘削会社は適切に仕事をしているか、コミュニティと話し合いながら作業が進められたかなど、モニタリングを行います。

Q:

手堀りの井戸と機械で掘削して設置した井戸の違いは?

A:

手堀りの井戸は、約20メートル以下の浅い井戸で、水を貯めることはできますが、浄化されていない水が溜まってしまいます。雨水が溜まったり、汚れた水が流れてきてしまうこともありますので、ジンバブエでは浅井戸の設置は勧められていません。公共の場で井戸を設置する場合は、掘削会社を通して設置していました。深い井戸になると、きれいな水が確保できるので、飲料水となり得る水になっています。

Q:

ポンプを取り付ける前に、水質を確認しているのかということと、衛生施設(トイレ)との距離のガイドライン等はあるのでしょうか?

A:

ポンプを設置する前には、水質調査を行っています。ジンバブエで外注して水質の数値を確認して現地の人にも説明しながらポンプを設置しています。トイレとの距離についてもガイドラインがありまして、学校に設置する際にも、井戸とトイレの間に距離をとります。行政の保健スタッフが確認してから設置されています。

Q:

排泄後、おしりは何で拭くのでしょうか?

A:

トイレットペーパーは基本的にありません。基本的には手です。都市部には、水洗トイレとトイレットペーパーもありますが。世界では色々な物が使われていて、石や葉っぱ、水を使いながら洗うなどもありますが、ジンバブエでは基本的には手が使われて、その後に洗っています。

Q:

穴を掘って作ったトイレで、穴が一杯になったらどうするのでしょうか?

A:

穴を掘って、その上に分厚いコンクリートを載せてその周りをレンガで立てたものがトイレとなります。トイレが一杯になったら、穴をふたします。場所によっては、穴があったところに木を植えたり、マンゴー等の果実を植えたりして果実のなりがよくなるということを実感してもらうこともあります。しかし、汚物の上になった果実を食べるということに抵抗を感じる人も多く、なかなか難しいです。実りがいいということを実感したことのある現地の人と協力したりして行っています。 穴が一杯になったら埋めますが、なかなか一杯になるには時間がかかりまして、大きなところでは、10年くらいかかります。穴の下は土になっていて、水分は土に吸収され、固形物だけが下にたまっていくという構造で長期間使用できるようになっています。

(まとめ:日本ユニセフ協会広報室)

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