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日本ユニセフ協会
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世界の子どもたち

難民危機
ボートでギリシャに渡る子どもたち①
家族再会の希望だけが力に

【2015年10月  レスボス島(ギリシャ)発】

2015年9月時点で、アフガニスタンやソマリア、南スーダン、スーダン、シリアの5カ国では、少なくとも450万人の子どもたちが紛争や情勢不安によって住居を追われ、2015年に入ってから50万人以上が地中海からヨーロッパへと渡っています。そして、この難民や移民の5人に1人が子どもたちです。

陸路や海路で移動を続ける難民の子どもたちには、紛争や避難による身体的、精神的な負担がのしかかっています。

家族と共にギリシャのレスボス島に辿り着いた子どもたちが、先の見えない長い旅の絶望や希望を語ります。

* * *

13歳の男の子、ムスタファくん

シリア・アレッポ出身のムスタファくん(13歳)は、ドイツを目指して移動を続けています。母親と兄、義理の姉、姪っ子と一緒にトルコを出発し、困難を伴うボートの旅の末、レスボス島に辿り着きました。

シリア難民のムスタファくん。

© UNICEF/NYHQ2015-2501/Romenzi

マケドニア旧ユーゴスラビア共和国との国境付近のギリシャ・イドメニで写真に写るムスタファくん(13歳)。

ボートでレスボス島に辿り着くと、一家はシリア難民のための登録センターでもあるカラ・テペにある非公式難民キャンプに身を寄せました。非公式難民キャンプでは、人道支援団体によって設置されたテントや、金銭の余裕がある人々は簡易テントを購入して眠っています。マットレスを使用することができる人もいますが、多くの人たちは地面で眠りにつくことを余儀なくされています。

ムスタファくん一家も、何一つ寝具がないまま眠っていました。この先の長い旅路に備え、なるべくお金を溜めておく必要があったのです。

夜になっても、難民キャンプに電気がつくことはありません。そして日中は多くの人で密集した狭い空間か屋外で過ごすしかなく、プライバシーは全くありません。

ムスタファくん一家はほとんどの時間を、身を寄せ合って座りながら過ごしています。家族がお互いに目を配り、身を守ることができるようにするためです。姪っ子が少しでも歩き出すと、ムスタファくんは立ち上がり、後を付けていきました。ムスタファくんが同年代の男の子たちと話をしようと歩きだすと、お兄さんも同じようにムスタファくんを見守っています。

初めてのボートの旅

海の旅についてムスタファくんに尋ねると、ボートに乗ったのは生まれて初めてだと答えました。「ボートは人でいっぱいでした。密入国業者の人たちが、ボートに人を目一杯に押し込めるのです。ボートが真っ二つになっちゃうんじゃないかって、とても怖かったです。海の中に落ちて、溺れて息ができなくなって、僕たちみんな死んでしまうのだろうと思いました。でも幸運なことに、ギリシャまで辿り着きました」

人でいっぱいのボートで移動を続ける間、ムスタファくんの足は何かとても重いものの下敷きになっていました。足の上に乗っているのが人なのか、重い荷物なのかは分かりませんでした。ただ、ひどい痛みに耐えられず、泣いていたといいます。あまりの痛さに、涙を止めることができませんでした。

「レスボス島に上陸する少し前、なんとか足を動かすことができました。そして、少しずつ少しずつ、時間をかけて足が元通り動くようになりました」と、ムスタファくんが語ります。島に辿り着くと、ムスタファくんは正午から翌朝カラ・テペに辿り着くまで、歩き続けました。

戦闘への徴用と飢えの恐怖

食糧の配布は限られているため、ほとんどの難民たちは、島の難民キャンプにある食堂でパンや水、基本的な食糧を購入します。公式な施設は定期的に食糧の配布が行われていますが、非公式難民キャンプでは不定期にしか実施されないことが多いうえ、若者や体力のある人たちが配給の最前列を陣取り、他の人たちは何も手に入れることができないこともよくあるのです。ここに身を置く人のなかには、何日間も何も口にできていない人たちもいます。

シリアでの生活について尋ねると、ムスタファくんはお兄さんたちがシリア軍や武装勢力に徴用されてしまうのではないかと、いつも恐怖に怯えていたと語りました。パンや食糧の値段が高騰するなか、お兄さんたちがいなくなれば、家族は家計を支えることはできませんでした。

レスボス島での状況が、ムスタファくんの頭にシリアで常に襲われていた飢えの恐怖の記憶を蘇えらせました。ムスタファくんは会話のたび、いつも同じ質問を繰り返すのです。「お金がない人は、どうしたらいいの?どうやって生き延びればいいの?お金のない人は、何も手に入れることができないんだよ」

ムスタファくんのお兄さんたちは、戦闘への強制的な徴用を恐れてシリアから避難し、ドイツに身を寄せています。「お兄ちゃんがいなくなったとき、たくさん泣きました。とっても悲しかったです」そう話すムスタファくんの声は低くなり、感情がこみ上がって声を詰まらせました。「お兄ちゃんと一緒に行きたかったけれど、お父さんもお母さんも許してくれませんでした。僕はお兄ちゃんに付いて行くにはあまりにも小さいからって」

お兄さんと再会できるかもしれないという望みだけが、長い旅を続けるムスタファくんを前へと推し進める力となっているのです。

* * *

ユニセフは欧州に向かって移動を続ける子どもたちが、どのような場所であろうとも適切な保護が受けられるようにするため、欧州連合の国々と密接に協力し、海上や陸地での捜索や救助活動の実施、必要不可欠なサービスへの適切なリソースの配分、子どもたちの最善の利益を考えた難民手続きを行うことを訴えています。また、子どもたちの拘束は最後の手段とすること、そして可能な限り短い期間とすることも求めています。

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