【2016年1月6日 イラク発】
ユニセフ・イラク事務所のリンゼイ・マッケンジーが、少数民族ヤズディの人々が避難するシンジャル山を訪れたときのことを報告しています。
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© UNICEF Iraq/2015/Mackenzie |
15歳のファラーくんが、テーブルサッカーをして遊んでいます。標高1,400メートルのシンジャル山にあるテントの中です。昨年、武装勢力から攻撃を受け、この山に逃れてきたのです。
木製の小さなピッチの上を飛び交うサッカーボールの音を背に、ファラーくんがこの地での生活を話してくれました。
「僕はここで1年4カ月暮らしています」ファラーくんは、学校を退学してからの長い日々を思い巡らせながら話し始めました。「暮らしていた家や友達、先生が恋しいです」
この不毛の山で困難でありながらも何の代わり映えもない日々を過ごす子どもたちは、10日前に届いたこのボードゲームに大喜びでした。ファラーくんは何もかも忘れてゲームに熱中していました。しかしゲームを終えると再び、青と白のボロボロの防水シートのテントと冬靄で覆われた、殺風景な高地の身を切るような寒さに足を踏み出すのです。
「ここでのテントの暮らしは、とてもひどいです。でも、家はもうなくなってしまって、どうすることもできないのです」(ファラーくん)
© UNICEF Iraq/2015/Mackenzie |
2014年8月、イラクの端に位置する人里離れたこの地域が、世界的な注目を浴びました。恐怖や飢えのなか、何万人もの人々がシンジャル山に取り残されているという衝撃的なニュースが世界を駆け巡ったのです。
シンジャル市やその付近では、その地域を占拠していた武装勢力が、イラク北部の町で暮らすスーフィズム教やゾロアスター教にルーツのある少数民族のヤズディ教徒の人々を殺害したり、奴隷にしたりしていました。
山に逃れた人々の多くが、厳しい道のりを歩いて避難してきました。山の中は攻撃から身を守ることができるものの、食糧や水、避難場所などがないなか、焼け付くような夏の暑さに晒されます。子どもたちや年配の人々は特に脆弱な立場に置かれ、多くがこの厳しい環境を乗り越えることができませんでした。
8月中旬には安全に移動することのできる回廊地帯が設けられ、山に閉じ込められていたほとんどの人々がドホーク県近郊の安全な場所へと移ることができました。
しかし、移動することができない人たち、あるいは、自宅から更に遠くへ移動することを望まない人たちなどは、依然としてシンジャル山に滞在しています。そしてその多くは、辿り着くことが困難な山奥に取り残されていました。
しかし2015年11月、武装勢力がシンジャル市を去ったことをきっかけに、状況は一変しました。この地域への安全なアクセスが可能になり、シンジャル山で暮らす人々のもとへ、ユニセフや他の団体が必要不可欠な物資やサービスを提供することができるようになったのです。
ユニセフはいつでも活動を開始できるように準備を整えていたため、シンジャル山への道のりの安全が確保されてすぐ、迅速に支援計画を行動に移すことができました。私は12月、支援計画の進展状況を確認するために、ユニセフの評価チームと共にシンジャル山に向かいました。
シンジャル山に近づくにつれ、紛争の爪痕が顕著に現れ始めました。村全体が破壊され、一面焼け野原と化していたのです。シリアの国境付近では道沿いに埋められた地雷を除去するチームとすれ違い、最後の1時間、10分ごとに検問を通過してセキュリティ・チェックを受けました。
シンジャルの山に入ると、気温が下がっていくのが分かりました。そして、不毛な大地に建てられた1,700世帯の避難民たちの仮設テントを襲う、荒々しい突風が私たちを出迎えました。
窓から見える景色から、人道支援の提供が困難な理由は明白でした。厳しい岩の地形や乏しい飲み水など、容赦ない環境のなか、猛烈な太陽や激しい雨、冷たい風から身を守る植物すら生えていないのです。広い高地に避難民たちのテントが無秩序に点在しているため、支援を届けることが困難を極め、特に、安全な水や衛生のためのネットワークの構築が難しくなっています。また、高地の端から端まではかなりの距離があり、学校へのアクセスや支援物資の配布も困難な状況です。
© UNICEF Iraq/2015/Mackenzie |
これらの困難にも関わらず、ユニセフの支援は実を結びつつあります。高地の真ん中に建てられた新しい学校ではユニセフの給水タンクやトイレの周りを子どもたちが元気に走り回り、茶色や灰色の土地に映えるユニセフカラーの水色の鞄を肩にかけた子どもたちの姿が見られます。ユニセフが支援する予防接種キャンペーンを行う保健省のチームともすれ違いました。そして先週、ユニセフが配布した暖かい冬服を着た子どもたちと話をすることができました。
シンジャルの近くの村で暮らすハワズくん(9歳)は、新しい上着を貰ってとても嬉しそうでした。「この上着があるから、学校に行くときも暖かいんだ!」そう語るハワズくんは、勉強が大好きなので大きくなったらお医者さんになりたいといいます。
これらの勇気づけられる前進が見られるなか、ニーズは依然として甚大で、多くの支援が必要とされています。学校にアラビア語を話すことができる教員がいないため、テーブルサッカーで遊ぶファラーくんたちは、学校に通うことができません。保健施設が十分に整っておらず、紛争のなかを生き延びてきた人々が直面する精神面での困難な問題への治療ケアが行われていない状況です。多くの子どもたちは武装グループに徴用されたり、残忍な暴力の標的にされ、幼くして結婚をしています。
「子ども兵士や児童婚など、子どもの権利に関する課題がすべて集まっているような状態です」と、ユニセフのドホーク現場事務所所長のアブディジャバラ・ディニが語ります。「迅速で総合的なアプローチが必要とされています」
ドホークに戻ると、評価活動で特定された調査結果や現場のニーズに合った支援計画の準備について話し合いを行いました。シンジャル山に身を置いている家族は困難な状況に置かれているにも関わらず、これからも長い間あの地に滞在するであろうことは明らかでした。
ユニセフの水と衛生担当官のモハメド・バワリーは、「シンジャル山に避難している人々は点在して暮らし、苦しい生活を続けています。別の地へ移動するのではなく、今後もあの地に身を置くことが予想されます。彼らは恐怖を感じ、多くの困難に直面してきました。私たちのどのような支援にも、感謝の気持ちを表してくれます」と語りました。
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