【2016年3月28日 インドネシア発】
2歳8カ月のザーラちゃんとゾーラちゃんは、インドネシアの中部ジャワ州にあるパンデス村で暮らしています。生まれたときの二人の体重は、2,100グラムと1,650グラム でした。未熟児で生まれてからずっと、年齢に適した体重を満たしたことはありません。ザーラちゃんとゾーラちゃんの家の近くで暮らすのは、1歳3カ月になるビンタンくんです。ビンタンくんの体重は生後6カ月の頃から急激に増加し、現在は過体重です。
© UNICEF EAPRO/2016 |
ビンタンくんのようなこどもたちは、決して珍しくありません。父親のブディアントさんと祖母のデシさんは、母親が衣服店で働いている間、ビンタンくんの世話をしています。息子は至って健康だと父親は語りますが、ビンタンくんの成長記録をみると、体重が必要以上に重いことが分かります。
ビンタンくんは生後2カ月まで母乳育児で育てられていました。しかし、母親が仕事に復帰した後は、毎日粉ミルクで育ってきました。現在は、加工食品や糖分が多く高脂肪のお菓子などを含め、さまざまなものを食べています。
「おやつには、パンやビスケット、ゼリー、ウエハースなどを食べていますよ」と、父親のブディアントさんが語ります。「すぐに平らげてしまいます。ご飯の時間でなくても食べ物を欲しがるときもあります」
ビンタンくんは健康診断を受けるため、おばあさんと一緒に定期的に診療所に通っています。他の子どもたちと同じく、身長と体重の測定などを行い、6カ月ごとにビタミンAの補給を受けます。おばあさんは診療所で健康や栄養に関するカウンセリングが実施されていることは知っているものの、それらを受けることは考えていないといいます。
「栄養に関するカウンセリングに参加する必要などありませんよ。ビンタンには、私が食べて育ってきたものを与えているのですから」
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これらの幼い子どもたちは、東南アジアの多くの国における、栄養不良の特性の変化を表しています。インドネシアを含めた多くの国では、栄養不良の二つの課題に直面しています。身長に対してあまりにも体重が少ない消耗症だけでなく、過体重の子どもの割合も急増しているのです。
ユニセフとASEAN、WHOの最新の報告書によると、インドネシアでは12%の子どもたちが過体重である一方、同じく12%の子どもたちが消耗症で苦しんでいます。栄養不良に関する二重の課題に直面するというこの傾向は、(家族や民族などといった)社会集団の枠を越えて広がっており、インドネシアやマレーシア、フィリピン、タイなどの中所得国では、ますます一般的になっています。
二重の課題とは、ひとつの国や地域、コミュニティ、世帯の中で、低栄養と栄養過多が同時に存在していることを意味し、深刻な公衆衛生の課題となっています。低栄養は子どもたちの病気や障がい、死に大きな影響がある一方で、幼少期の栄養過多は、将来的に糖尿病や心血管疾患など、食生活に関連する非伝染性の病気につながる恐れがあります。
過体重の子どもの急激な増加の背景には、都市化よる生活習慣の変化や、女性の労働の参加、カロリーの高い加工食品の消費量の増加があると考えられています。
「東南アジアの多くの国は過去10年間で目覚ましい経済発展を遂げ、多くの子どもたちを貧困から救いました」とユニセフ東アジア・太平洋地域事務所のクリスティアーヌ・ルデルト栄養アドバイザーは話します。「しかし同時に、肥満など、これまで高所得国の問題と考えられていた健康状態の増加が見受けられます。アジアの子どもたちはいま、両極端の栄養不良のリスクに直面しているのです」
ユニセフとEUは最近、インドネシアやラオス、フィリピンを含むアジア5カ国の栄養問題に取り組むために5年間実施されたパートナーシップを完了しました。「このパートナーシップの目的は、各国政府が栄養に関して、保健分野だけでの対応を超えた総合的な取り組みを支援することでした」とルデルト栄養アドバイザーは述べています。
地元の保健員は、ビンタンくんの急激な体重の増加には2つの主要な要因が考えられると言います。一つ目は、伝統的であるものの、時代に即していない食習慣。二つ目は、高脂肪で糖分の多い加工食品の利便性と広告の影響です。また、年長の子どもたちに関しては、運動不足だったり、座ったまま過ごすことの多い生活習慣を送ったりしていることも、原因だと考えられています。
働いている両親にとって、子育てをする上で、祖父母は大きな支えとなっています。一方で、祖父母たちが新しい考えを柔軟に受け入れられるようになることが大切だと、パンデス村のヘル・プロモ村長が語ります。「栄養面に対する考えに変化をもたらすという面に関して言えば、祖父母が果たしている役割が大きな壁にもなっています。祖父母は既に時代遅れとなっている昔の考えを捨てられない傾向にあり、その思考を変えることはとても困難です。今でも、自分たちが育てられた方法が最善だと信じているのです」
村で栄養士として働くデッシ・サンドラ・デウィさんもこの意見に賛同しています。「祖父母の伝統的な子どもへの食事の与え方と、孫たちを甘やかしたいという気持ちが、結果として子どもたちに貧しい食生活をさせることになってしまっているのです」
「両親が共働きであれば、子どもたちは祖父母と一緒に家で過ごすことが頻繁にあります。しかし、祖父母の多くは、バランスのとれた食事の与え方について知識を持ち合わせていません。そのため、魅力的に映る加工食品の広告に心を奪われてしまうのです」(デウィさん)
またデウィさんは、これは社会階級を越えた問題であると説明します。「加工食品の摂取率が高いため、高収入で高学歴の家庭の栄養状態が悪いことがよくあります。この状況を変えるため、親たちが話し合いを行えるディスカッション・グループを作りました。そこでは、さまざまな種類の食べ物を比較し、親たちが子どもたちにとってよい食べ物を選ぶことができるようになることを目指しています」
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一方、2歳8カ月になる双子のザーラさんとゾーラさんのように、子どもたちが十分な栄養を摂れていないという問題もあります。二人が生後4カ月の時、父親が大きなバイク事故に遭ってしまいました。父親は1カ月以上の入院を強いられ、その後6カ月間、働くことができませんでした。
未熟児の双子だけでなく、もう一人の子どもの世話と夫の看病の負担が重なり、母親のアシリ・セチョウティさんは母乳育児を止めてしまいました。祖父母と近所の人たちは、赤ちゃんのために粉ミルクを買って与えていました。もうすぐ3歳になる双子は依然として年齢に適した体重は満たしておらず、現在も低体重のままです。
「子どもたちは好き嫌いがとても多いです。固形の食べ物が嫌いで、食べ物を食べるよりも粉ミルクを飲みたがります」
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最適な母乳育児と離乳食に関する支援は、あらゆる栄養不良に対応し、子どもたちを栄養不良から守るとともに過体重を予防するための、非常に重要な取り組みです。ユニセフは生後6カ月間の完全母乳育児を推奨しています。そして、6カ月以降は、母乳育児とともに、豆や肉、魚、卵などのタンパク質、果物、野菜を加えた栄養バランスのよい食事を勧めています。
ユニセフは、栄養不良の二つの課題を生み出している根本的な問題への対処方法を、現地の保健員たちに伝えています。また、地方自治体と協力し、助産師や保健センターの栄養士への研修も実施しています。これらの研修を受けた助産師や栄養士は、学んだ知識を、村の多くの助産師や地域のボランティアに伝えていく役割を担っているのです。
そうしたネットワークを経て、母親や父親、祖父母にも、母乳育児の利点や栄養の豊かな離乳食の食事に関する知識が伝わり、子どもの食事に関して抱えている問題に対処する力となっています。
栄養不良の二重の課題は、適切な栄養支援で対応が可能です。ユニセフの支援プログラムは優れた成果をみせており、インドネシアの平均値と比較すると、現在バンデス村の過体重と低体重の子どもの人数は、非常に少なくなっています。
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