【2017年4月13日 フィレンツェ/東京発】
世界的な不況を引き起こした金融危機の発生から10年近くが経過する中、先進各国が、最悪の影響から子どもたちを守れたかどうかは、国により様々であることがわかりました。4月13日、ユニセフ(国連児童基金)イノチェンティ研究所が16の国際的な研究機関と協力して出版する『緊縮財政下の子どもたち:経済危機が先進国の子どもの貧困に与えた影響』は、経済危機と政府の対応策が子どもたちに与えた影響について、先進国の子どもたちに焦点を当てて分析した初めての国際的な研究です。
『緊縮財政下の子どもたち』発表
©Oxford University Press |
「世界的な経済危機によって、先進国では、多くの子どもたちが深刻な影響を受け、多くの国では子どもの貧困率が上昇しました」と、本書の編著者のひとりであるユニセフ・イノチェンティ研究所のエカテリーナ・チュジェン(Yekaterina Chzhen)社会政策専門官は言います。『緊縮財政下の子どもたち』は、OECDまたはEUに加盟する41カ国を比較した分析と、各国の著名な学者による日本を含む11カ国の事例研究により構成されています。事例研究は、各国の平均値にとどまらず、世帯構造別、親の就業状態別、国内の地域別の状況等についても詳細な分析を加えています。
(日本に関する章の著者は、首都大学東京・阿部彩教授)
事例研究の対象となった国々(ベルギー、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、日本、スペイン、スウェーデン、イギリスおよび米国)は、危機以前の子どもを取り巻く状況、国内に与えた危機の影響、政府の対応策がそれぞれ異なっているため、本書はそれらの異なる経験を詳細に分析することで、経済危機下で子どもを守るための貴重な教訓を提供しています。
日本以外の国に関する結果の一部
© UNICEF/UN030634/Gripiotis |
各国の経済危機前後の状況の分析を通し、本書は、子どものいる世帯向けの、財源を伴う社会保障制度を維持することが、いかに政治的に困難であるかを示しています。しかしその中で、適切な子どものための手当の給付は、それだけで万能な対策ではないものの、セーフティネットの重要な要素となり得ることも明らかになりました。日本については、ギリシャやイタリア等とともに、子どもの貧困に対応するための社会的移転の仕組みに改善の余地がある、との指摘もされています。
「経済が悪化傾向にある時、世帯の所得を保障することは、子どもの貧困への中心的な対策ですが、それだけでは十分ではありません。教育や医療に対する支出が削減されたり、親が保育などのサービスが受けられなくなったりすることで、子どもたちは深刻な影響を受けるのです」(チュジェン社会政策専門官)。経済状況が良い時も悪い時も子どもたちを守るためには、普遍的な給付と特にニーズのある世帯向けの給付を組み合わせた社会保障政策に加え、雇用政策、最も取り残されている子どもたち向けの医療・教育分野の支出、保育政策も含めた、包括的な子どもの貧困対策が重要です。
※本書で示される意見は、編著者のものであり、必ずしもユニセフの政策や立場を示すものではありません。
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『緊縮財政下の子どもたち:経済危機が先進国の子どもの貧困に与えた影響』(英文、原題:Children of Austerity: Impact of the Great Recession on child poverty in rich countries)
4月13日、オックスフォード大学出版局より出版。Bea Cantillon (University of Antwerp), Yekaterina Chzhen (UNICEF Office of Research - Innocenti), Sudhanshu Handa (University of North Carolina at Chapel Hill), Brian Nolan (University of Oxford)編著。日本に関する章の著者は、首都大学東京・阿部彩教授(子ども・若者貧困研究センター長)。詳細はこちら
通常、子どもの相対的貧困率は各年の貧困ラインを使って推計しますが、本書では、危機前(2007年または2008年)を基準年とし、貧困ラインを基準年に「固定」して他の年の貧困率も推計しています。この方法は、経済危機などにより国民全体の所得が低下している場合に、貧困率の動向を把握するために有効とされています。本書の「子どもの固定貧困率」は、各国の基準年の世帯可処分所得(収入から税や社会保険料を引き、年金や児童手当等の給付を加えた“手取りの”所得)を世帯人数で調整した値の中央値の60%(これが「固定貧困ライン」。日本では貧困ラインに中央値の50%を使っていますが、EU諸国等は60%を使っています)を下回る生活をしている子どもの割合です。本書の基となった『レポートカード12』(2014年)でも、同じ方法が用いられました。
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