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日本ユニセフ協会
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世界の子どもたち

ミャンマー・カンボジア
観光と結びつく孤児院
施設で暮らす子どもたちを家族のもとに

【2016年10月11日  ミャンマー/カンボジア発】

ミャンマーやカンボジアにおける孤児院ツーリズムの問題と、孤児院などの児童養護施設での施設養護に比べ、子どもにとってより幸せな家庭的養育について、ユニセフ東アジア・太平洋地域事務所のアンディ・ブラウン広報専門官が報告します。

観光と結びつく孤児院

孤児院ツーリズムが盛んなミャンマー・ダラの田んぼを歩く子どもたち。

© UNICEF Myanmar/2016/Andy Brown

孤児院ツーリズムが盛んなミャンマー・ダラの田んぼを歩く子どもたち。

ミャンマーの最大都市ヤンゴンの街から、川の対岸にある農村ダラに向けて、人を満載したフェリーが20分おきに出航しています。私が訪れた朝、フェリーは、「ロンジー」というビルマで日常的に着用される伝統的なスカートをはいて通勤や通学をする人々、卵やたばこを売る商人、そして観光客で一杯でした。

ダラ桟橋で船を降りると、野球帽をかぶり、髪の毛を後ろに束ねた若い男性が近づいてきました。彼は28歳で名前をメーメーと名乗り、人力車での観光をしないかと声をかけてきました。「あなたの名前は?どこから来たの?三輪自転車の方が良い?パゴダ、漁村、サイクロン村の孤児院に連れて行くよ」

1時間後、私たちは孤児院と学校を併設した僧院の敷地の外にいました。池の向こうに、金色の屋根の美しい寺院がありました。その隣では子どもたちが校庭を走り廻っていました。メーメー氏は学校の敷地内に入っていきます。「入っても大丈夫なのですか?」と尋ねると、彼は「大丈夫、中に入って」と促します。そして、「子どもたちの写真撮っていいよ。問題ないよ。この子たちはみんな孤児で、母親も父親もいない」と言いました。

ある観光客がこの孤児院を訪問したところ、孤児院への寄付を無理強いされた、という報告がありますが、この日私が求められたのは孤児院の寄付ではなく別のものでした。8年前にダラを直撃した「サイクロン・ナルギスの被害者救援のため」という名目で、ここへ来る前に米を1袋買わされていました。そのせいか、ここの訪問は短時間で、寄付は求められませんでした。それでも、不安を残す経験でした。孤児院に入るのに、私が誰で、子どもたちに何をしたいのかを確認されることがなかったのですから。

「孤児院ツーリズム」で子どもたちが危機に

僧院に併設された学校の中を案内する男性

© UNICEF Myanmar/2016/Andy Brown

僧院に併設された学校の中を案内する男性

ミャンマーでは、弱い立場に置かれた子どもたちに深刻な影響をもたらす恐れのある「孤児院ツーリズム」が増えています。ミャンマーの隣国カンボジアでも、観光客がツアーの一部として、あるいはボランティアで関わるプロジェクトの一環として、孤児院を訪問することがごく当たり前のように行われています。一般的に、孤児院を訪れる観光客の人々は、自分たちが良いことをしていると信じています。しかし実際は、より多くの子どもたちを施設に滞在させる状況を作りだすことに、気づかないうちに手を貸しているのです。

カンボジアでは、民間が運営する孤児院の多くが、利益を生むための事業です。貧しい家庭から子どもを連れて来るために、親に対して、子どもがより良い生活を送れようになると約束したり、場合によってはお金を支払ったりしています。しかし、こうした施設に連れてこられた子どもたちは、学校に通うかわりに観光客に演技を見せることを強要されます。さらに子どもたちは、より多くの寄付を得るために、意図的にかわいそうな状態におかれます。最も心配なのは、訪問客が施設で暮らす子どもと2人きりでいられる時間を与えられていることで、これが子どもへの性的虐待の誘因となることが懸念されます。

「孤児院で暮らす子どもの80%は孤児ではない」

カンボジアの子どもたち。

© UNICEF/UNI83534/Noorani

カンボジアの子どもたち。

子どもたちへの支援には、施設養護よりも良い方法があります。ユニセフは、ミャンマーとカンボジア両国において、各国政府やNGOとの協力の下、施設で暮らす子どもたちが家族と再び暮らせるようにするための支援を行っています。子どもたちにとって、孤児院などの児童養護施設で暮らすよりも、家族や家庭的な環境の下で暮らす方が良いという証拠は十分あります。たとえ環境が幾分良い施設であっても、1人のスタッフが何十人もの子どもを見ている状態では、子どもたちは、認知的・身体的発達に必要な、保護者による1対1の注意を得ることができません。

 「世界的に見て、施設で暮らす子どものほとんどは孤児ではありません」とユニセフ・ミャンマー事務所で子どもの保護チーフを務めるアーロン・グリーンバーグは言います。「約80%の子どもたちには、少なくとも1人の親が生存しています。また、施設の運営には高い経費がかかります。子どもを家庭的環境で養護するのと比べ、施設で養護するには約6倍多い費用がかかります。その多額のお金は、子どもを養育する家族に対するサポート費用にあてる方が、より良く使えるのです。 

隣国カンボジアの経験に学ぶ

カンボジアを視察訪問した4人のミャンマー政府高官のひとり

© UNICEF Myanmar/2016/Andy Brown

カンボジアを視察訪問した4人のミャンマー政府高官のひとり

この問題に取り組むためのもう一つの方法は、“南南協力”です。ユニセフは、最善の解決策は、同じ問題に直面し解決に向けて取り組んだ国の経験から得られることがよくある、と考えています。この考えからユニセフは、社会福祉・開発省の副大臣を含むミャンマー政府の高官の人々を対象にした、カンボジア視察訪問を2014年に実施しました。

「カンボジアで、民間が運営する孤児院を訪問したときに、衝撃的な出来事がありました」とグリーンバーグは振り返ります。「孤児院のスタッフが、私たちの前に子どもたちを並ばせて、寄付を募ろうとしたのです。私たちが、何人かの子どもたちと個人的な時間を持ちたいと言うと、『どうぞ、問題ありません』と答えました。副大臣は直ちに理解しました。彼は『ミャンマーでこのようなことを行わせてはなりません』と言ったのです」

カンボジア訪問は確実な成果を生み出しました。訪問団がミャンマーに帰国すると、副大臣は副大統領を訪ねました。その後間もなく、ミャンマー政府は、国内における孤児院の新規登録に対する一時停止令を発布しました。2015年9月には、カンボジア政府も同様の一時停止令を発布しました。

「私たちにとってカンボジアへの訪問はとても実りの多いものでした」とミャンマーの社会福祉・開発省のチョー・リン・ティン(Kyaw Lin Htin)副大臣は述べました。「まず、現地視察そのものが有益でした。カンボジアでの子どもの保護の現況を学ぶことができました。特に、児童養護施設、家族を基本とした代替プログラム、子どもの保護分野に関して、カンボジア政府が実施している対策についてです」

家庭を基盤としたケア

アカル・フヨくん(14歳・写真右)は施設で1年間暮らした後、家族の元に戻ることができた

© UNICEF Myanmar/2016/Andy Brown

アカル・フヨくん(14歳・写真右)はで男子訓練学校で1年間暮らした後、家族の元に戻ることができた

経験豊富なソーシャル・ワーカーの助けを借りることで、すべての子どもにとって最適な、よい家族という選択を見つけることができます。もし子どもが生物学上の親による養育を受けられない場合、次に最適な選択は信頼できる親族による養育であり、その次の選択は里親による養育です。

アカル・フヨくん(14歳)も施設養護を受けていた子どもの一人です。アカルくんは、政府が運営するサンリン男子訓練学校に1年間滞在しました。(この学校は、孤児院ツーリズムは行っていません。)

アカルくんはこれまで、安定的に暮らせる居場所がありませんでした。彼が2歳の時、父親は兵役に就くために家を出ました。母親は職を探しに出て二度と戻りませんでした。その後、アカルくんは母方の祖母、ダウ・オン・ミント(Daw Ohn Myint)さんと暮らしました。「おもちゃを売る祖母の後についてまわっていました」とアカルさんは語ります。「とても楽しい思い出です。僕はそこで幸せに暮らしていました」

12歳になったアカルくんは、学校に通うため、父方の祖母のもとで暮らすことになりました。しかし、そこでの生活には馴染めませんでした。ある日、祖母の財布と携帯を盗み、オン・ミントさんを探そうと、家を飛び出しました。オン・ミントさんが暮らす村に着いたものの、すでに引っ越していることがわかり、祖母の家に戻りました。祖母はひどく怒りました。盗みをはたらいた罰として、アカルくんは男子訓練学校に送られました。

「祖母は、僕にはしつけが必要だと言いました」とアカルくんは言います。「僕に選択の余地はなかった。訓練学校は好きじゃなかった。先生たちは僕を建物から外に出ることを許してくれなかった。僕が逃げないと信用できるまでは。新入りの僕は、他の男の子たちにもいじめられた」

家の外にあるパイプ式井戸で水を汲むアカルくん

© UNICEF Myanmar/2016/Andy Brown

家の外にあるパイプ式井戸で水を汲むアカルくん

訓練学校で暮らして1年が経とうとする頃、現地で活動するNGOが、アカルくんとオン・ミントさんの再会を手助けしてくれました。このNGOは児童養護施設で暮らす子どもたちの親族を探す、「家族足跡調査」を行っています。この調査によってオン・ミントさんがヤンゴン市に引っ越していたことが分かったのです。

これまでの経緯を聞いたオン・ミントさんは、すぐにアカルくんを訪ねてきました。そしてすぐに、アカルくんを自宅に連れて帰りました。「私はアカルを施設に送ったもう一人の祖母に対し、ひどく怒っています。確かに、アカルは盗みという過ちを犯しましたが、その罰として施設に入れるのは間違っています」(オン・ミントさん)

アカルくんはオン・ミントさんの元に戻れてとても幸せです。2人の再会を支援したNGOは、家族への生計支援として豚一頭を提供し、アカルくんは地域の学校に通っています。「今まで暮らしたすべての場所の中で、ここが僕の一番大好きな場所です」とアカルくんは言います。「僕はここで幸せです。近くには年の近い、いとこたちもいます。学校に通って友達もたくさん出来ました。サッカー場もあって、サッカーをするのが好き。僕はゴールキーパーです」 

今後に向けて

ユニセフは、孤児院の新規登録の一時停止に続く、さらなる取り組みとして、ミャンマーの新政権と協力して、現在運営されている児童養護施設における子どもの搾取を防止する対策を進めています。ユニセフは、ホテルやツアーを含む観光ツーリズム業界ともパートナーシップを構築し、「孤児院ツーリズム」に関する注意喚起や、子どもたちに支援を差し伸べたい観光客に対して、代替となる支援方法を提示し促進しています。

今日のミャンマーは、多くの意味で、分岐点に立っています。

「この問題は、防止することが重要なのです。現状を正し、より良い子どもの保護システムを正しく構築する機会を今、私たちは手にしています。世界各地での経験によると、孤児院ツーリズムと子どもの施設養護が強固に結びついて確立してしまうと、それを元に戻すには20年から30年かかってしまいます」(グリーンバーグ)

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