【2017年4月6日 ガザ(パレスチナ)発】
アフマドくん(13歳)にとって、水道の水を飲むなんて想像さえできませんでした。
「蛇口から水を飲んだことはありませんでした。汚いし病気になるかもしれないから。昔は飲めたって両親は言うけど、僕が生まれるずっと前のことだと思います」と話します。
ユニセフとパートナー団体は、今年1月、欧州連合(EU)から1億ユーロの資金提供を受けて脱塩浄水場を完成させました。1日に6,000㎥の安全な飲み水をつくり、ガザ地区南部の7万5,000人、ハーンユーニスの3万5,000人、ラファの4万人の住民に届けます。
アフマドくんは、自宅で安全な水を飲めるようになった一人です。
© UNICEF/UN056281/El Baba |
ガザの水資源は昔から非常に乏しく、その状況はますます悪化しています。沿岸帯水層から汲み上げられる水の95パーセントは現在、飲み水には適していないとされています。地下水の過剰な汲み上げが原因で、下水や化学物質を含む地中海の塩水が土壌に浸透してしまったのです。多くの家族は、値段が高く品質管理の行き届いていない市販の飲料水、もしくは、輸入飲料水を購入するしかありません。2012年の国連の調査は、ガザの地下水が2017年までに使用不能になり、2020年までには回復不能な状態になるだろうと警告しました。
海水淡水化計画は、沿岸部の飛び地であるガザ地区で暮らす、100万人の子どもを含む200万の人々に安全な水を提供するために、パレスチナ水利庁(Palestinian Water Authority:PWA)が始めたものです。地下水の過剰取水を抑制し、環境災害の防止や帯水層の復元のためにも不可欠でした。
ガザ地区では、安全な水の不足に加えて慢性的な電力不足を抱えており、家庭での停電が日常的に発生します。脱塩浄水場では、最大電力所要量の約12パーセントを太陽光発電でまかなっており、今後、この再生エネルギーのさらなる利用促進も計画されています。
© UNICEF/UN056271/El Baba |
昨年の夏、アフマドくんは同級生とともに、学校の社会科見学で、新設された脱塩浄水場を訪れました。
「実際に水を飲んでみたら、甘くておいしくて、海水から作られたなんて信じられませんでした!」と言います。
訪問した大きな建物の中で、様々な機器と技術によって、海水から安全な飲料水がつくられているのを見学したアフマドくんと友人は、驚きを隠せませんでした。
「学校で海水淡水化の工程を勉強したけど、どんなものか想像できませんでした。施設を訪ねて実際に見たら、この新しい技術がガザにあることがとても誇らしくなりました」
ユニセフは、ガザ地区沿岸自治体水道局(CMWU)、PWAと協力し、公共放送や、開発のためのコミュニケーション(C4D)のキャンペーンを通じて、脱塩処理後の水の信頼性や処理の工程、家庭の給水タンクを清潔に保つ方法などの周知に努めました。また、節水の方法や、持続可能な浄水場運営のために水道料を支払う重要性も伝えました。
© UNICEF State of Palestine/2017/Weibel |
ラジオ放送や看板広告を利用して脱塩浄水場の認知向上に取り組む一方、ハーンユーニスとラファフでは、ソーシャルワーカーが各家庭を訪ねてまわりました。脱塩浄水場から水の供給を受ける学校に通う子どもたちもこのキャンペーンに参加し、脱塩浄水場訪問で学んだことを、家族や近隣住民に伝えました。
「脱塩浄水場についてたくさん学んだので、自分でいろいろと工夫して活動しました」とシャハドさん(12歳)は言います。脱塩浄水場のことを伝えるため、「環境のための議会」という名のフェイスブックページを始めたり、友人が制作した、脱塩浄水場についての短編動画をYouTubeで公開したりしました。応援するため、これからも紹介を続けていくそうです。
©UNICEF |
「そこはかつて、何もない広大な土地でした」。ユニセフ・パレスチナ事務所の功刀純子特別代表は、2013年4月に初めて脱塩浄水場の建設現場を訪ねた日を覚えています。
「この脱塩浄水場の完成は、ガザが成し遂げられたことの証しです。このプロジェクトの実現を可能にしてくれたすべての人たちに感謝します。この浄水場の完成によって、7万5000人の人たちが、自分たちの持つ安全な水を飲む権利を実感しました。その半数は子どもたちです」
脱塩浄水場の完成は、終わりではなく新たな始まりです。処理能力の強化のため、EUは1億ユーロの追加支援を決めました。実現すれば、毎日2,000㎥の安全な水が、15万ものパレスチナの人々に届くことになるでしょう。
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