【2020年2月14日 東京発】
今シーズンから米国大リーグで活躍される筒香嘉智選手が、1月30日にユニセフハウスを訪問。
年間2万人以上が訪れるユニセフハウスで、開発途上国の保健センターや学校の教室、緊急支援用のテントなど、ユニセフの支援現場を再現した常設展示コーナーを見学された後、当協会の早水専務理事らと、子どもたちのためのスポーツ環境の実現に向けた思いや今後の取り組みなどについて懇談されました。
© 日本ユニセフ協会/2020 |
筒香選手が子どもたちを取り巻くスポーツの環境に関心を持つようになったのは、中米・ドミニカ共和国への訪問がきっかけでした。
プロ野手になって3年が経過した頃。野球技術の更なる向上への糸口を探していた筒香選手に、中学時代に所属した少年野球チーム「堺ビックボーイズ」の瀬野代表は、ドミニカ共和国のウインターリーグへの参加を強く勧めました。
人口が日本の僅か10分の一に過ぎない小国にも関わらず、日本の実に約20倍にも及ぶ160人を大リーグに輩出するドミニカの野球。「多くの事が学べるはず」と期待を持って訪れた筒香選手の目に映ったのは、しかし、決して恵まれたとは言えない野球環境でした。
薄汚れたロッカールーム。選手に提供されるのは、満足にお腹を満たすこともできない食事。肝心のグラウンドも満足に整備されず、“イレギュラー”なバウンドやゴロが続出。それでも選手たちは、華麗なプレーを繰り広げます。そして、彼らはこう言ったそうです。
「イレギュラーって、何?」。
そんな選手たちを輩出している現地の少年野球チームの練習を見学した時も、驚きの連続でした。
日本では“当たり前”の光景が、そこにはなかったのです。
子どもたちは、日本だったら監督に止められそうなプレーに次々とトライしては、失敗を重ねます。日本だったら即「怒号」が飛ぶ場面です。しかし、周囲のおとなは何も言いません。それどころか、真剣に、そして笑顔で子どもたちを見守ります。
子どもたちは、本当に生き生きと、安心して、そして思いっきり“失敗”を重ね、プレーの可能性を広げていたのです。プレーする前から失敗や叱責を恐れてしまっている多くの日本の野球少年たち。まるで対照的な姿でした。
筒香選手は、2018年の著書『空に向かってかっ飛ばせ!』(文芸春秋社)のエピローグで、次のように語っています。
「背の高い子供もいれば小さな子もいます。子供時代の僕のように太った子もいれば、やせっぽちの子もいます。子供の割には筋力が発達した子もいれば、そうではない子もいます。
こういうことは優劣ではなく、すべて子供たちの個性です。だとすれば一人ひとり、個性の違う子供たちを一つの型にはめてしまって、それで子供たちは成長できるのでしょうか?」
© 日本ユニセフ協会/2020 |
© 日本ユニセフ協会/2018 |
2018年11月20日、筒香選手は、ユニセフ「子どもの権利とスポーツの原則」発表会に、子どもたちの未来を最優先に考えることの重要性を訴えるビデオメッセージを寄せてくださいました。
そして、ご自身の新天地への飛躍を機に、やはりビデオの中でおっしゃった「みなさまとこの思いを共有し、子どもたちの未来のために自分自身ができることを寄与したい」をユニセフとともに進めるため、今回、渡米前の各種報道機関の取材と自主トレの合間を縫い、ユニセフハウスを訪問されました。
「大切なのは、指導者や周りの大人が選手や子供たちを一人の人格としてリスペクトし、 子供たちから自分が教えられることもあると気づくことです。
そう気づけば、子供たちを押さえつけたり、怒鳴ったり、 自分たちの思う通りに型にはめようとすることもなくなります。 監督やコーチと子供たちの間には、しっかりとした信頼関係が築き上げられるでしょう。
そうすれば、子供たちはきっと笑顔になるはずです。 その笑顔の先に、彼らの未来が開けるのです。」
筒香嘉智『空に向かってかっ飛ばせ!』(文芸春秋社)より |
ユニセフと日本ユニセフ協会は、筒香選手のお力もお借りして、「子どもの権利とスポーツの原則」を通じて、すべての子どもの成長と発達を助ける機会としてのスポーツの普及と、スポーツの中で、子どもたちが暴力や身体への過度な負荷等のマイナスの影響の排除を訴えてまいります。
©日本ユニセフ協会/2019 |
* * *
© UNICEF/UNI270713/Urdaneta |
日本ユニセフ協会が、ユニセフ本部や国内外の専門家、日本スポーツ協会や日本オリンピック委員会をはじめとするスポーツ団体統括5組織の協力を得て製作。スポーツにおける子どもの権利を明示するユニセフ初の文書として2018年11月20日に発表しました。
10項目からなる「原則」は、すべての子どもの成長と発達を助ける機会としてのスポーツを普及し、スポーツの中で、子どもたちが暴力や身体への過度な負荷等のマイナス影響を受ことがないように、スポーツ団体(チーム)やスポーツに関わる教育機関、指導者、スポンサーや助成機関としての企業、保護者、成人アスリートなど、子どもとスポーツに関わるすべての人が協力し取り組んでいくための行動指針を示しています。
シェアする