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日本ユニセフ協会
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カンボジア:すべての子どもに学習の機会を
遠隔教育で生じる教育格差を埋めるための取り組み

【2020年9月15日  カンボジア発】

新型コロナウイルス感染症の世界的な影響が続くなか、カンボジアでも全国的に学校が休校となり、300万人以上の子どもたちが影響を受けています。インターネットを活用した遠隔教育が広がる一方で、通信環境が限られている農村部や貧困世帯の子どもたちは、休校中に学習が中断されることも少なくありません。

広がる遠隔教育と教育格差

「オンラインで学ぶのは難しいです」と語るのは、ワット・チャック小学校に通う3年生のサン・サカダさん(8歳)です。

「授業の教材や宿題は、フェイスブックのメッセンジャーで先生たちが送ってくれます。僕はお母さんの携帯電話で宿題を受け取っていますが、携帯電話のクレジット(プリペイド方式のチャージ分)が無くなってしまうと、つながらなくなってしまうので、どんな宿題が出ているのかを知る方法がなく、授業の内容もさえも分かりません。そして、お母さんが携帯電話のクレジットをチャージした途端、届いていなかったたくさんの宿題が、一度にわっと届いてしまうんです」。

©UNICEF Cambodia/2020/Chansereypich Seng

ワット・チャック小学校に通う3年生のサン・サカダさん(8歳)

サカダさんのように、インターネット接続環境が十分でないことによって不利な状況に置かれている子どもは、カンボジアの農村部に多くいます。こうした「デジタル格差」は、現在の危機的な状況下における遠隔教育という解決策に深刻な課題をもたらしており、不平等の格差を拡大させるリスクも伴います。

カンボジア人口1,636万人のうちインターネットを利用しているのは1,250万人(Hootsuite調査、2019年)にのぼります。一方で、インターネットを利用していない人の大半は、農村部で暮らす人々です。ユニセフは、カンボジアの教育・青少年・スポーツ省(MoEYS)とともに、カンボジアの全世帯の子どもたちに学校休校中の代替学習の機会を届けることを目指して、ソーシャルメディア、テレビ、ラジオを通じて「eラーニング」授業を提供するなど、取り組んでいます。

現在、サカダさんが通うワット・チャック小学校やシェムリアップ州周辺の多くの学校では、新型コロナの感染予防措置がとられており、児童たちは少人数グループに分かれ、それぞれが週に一度通学して宿題を提出し、様々な授業の紙のプリントを受け取って持ち帰っています。

サカダさんは毎週水曜日に登校し、算数とクメール語の授業を受け、宿題を出しています。週に一度の通学によって、先生と話をしたり、わからないことを質問したりすることができます。友達に会ったり、教室や遊び場に来ることを楽しみにしている子どもたちもたくさんいます。

夢は英語を活かした職業

©UNICEF Cambodia/2020/Chansereypich Seng

ロラーズ中学校に通うロウン・バンナックさん(15歳)

ロウン・バンナックさん(15歳)は、ロラーズ中学校に通っています。「両親は観光業やサービス業で働いていましたが、新型コロナの影響で職を失いました。今は親戚の食べ物屋さんを手伝ったり、果物を植えたりしています。固定の給料をもらっているわけではないので、来週はどうなるかもわかりません。けれど、私たちの家族はなんとか大丈夫です」とバンナクさんは言います。

バンナックさんの両親のように、新型コロナウイルスの経済的影響で職を失った人は、カンボジア国内に39万人います。多くの家族が食料や水、医薬品を買うことができず、保健・医療や教育へのアクセスなどの基本的なニーズを満たす経済的余裕もありません。

このような危機下で最も困難な立場に置かれるのは子どもたちです。

今必要なものが手に入れられないだけでなく、子どもたちの生活に長期的な影響を及ぼすであろう、ネグレクトや児童労働、暴力、虐待、児童婚などのリスクが高まる恐れがあります。

バンナックさんはこのような状況にもめげず、将来をきちんと考えています。

「私は英語を学ぶことが好きです。小学2年生の時、母が初めて英語を教えてくれて、小学3年生からは自ら英語のクラスに通うようになりました。両親は私に勉強する時間と機会を与えてくれています。私はツアーガイドか英語の先生になりたいと思っています。ガイドになれば英語を使えるし、海外に行けたらネイティブの人とおしゃべりしたいです」と語るバンナックさんは、デジタル・テクノロジーにもとても興味があるといいます。

「副校長が「E-SchoolCambodia」というeラーニングのアプリを私たちに紹介したとき、みんながインストールをするのも手伝いました。ビデオ・チュートリアルを作ったり、友達やクラスメートにむけた説明書きをつくったりしました。自分の知識を友達と共有することで、自分も何か新しいことを学ぶことができたので、とても充実していました」

保護者も子どもたちの教育を支える

ムット・クレムさん(38歳)、ポー・シェムレイさん(35歳)、娘のクレムちゃん。

©UNICEF Cambodia/2020/Chansereypich Seng

ムット・クレムさん(38歳)、ポー・シェムレイさん(35歳)、娘のカレムちゃん。

新型コロナウイルス危機下での家庭学習は、子どもたちだけが抱える課題ではありません。多くの保護者も教師の役割を担っています。炭の実業家のムット・クレムさん(38歳)と主婦の母親ポー・シェムレイさん(35歳)も、子どもたちが家庭で学習できるように努力してきました。単なるテクノロジーだけでは、教師や保護者の代わりになることは出来ません。これは特に、幼い子どもたちに当てはまります。 末っ子のカレムちゃんは小学1年生です。

「末っ子のカレムは学校に通い始めたばかりでしたが、その3カ月後に新型コロナウイルスの感染が拡大し、学校も一時的に閉鎖されました。 今は、妻と私が遠隔教育のサポートをしています。こうした形の取り組みはすべて先生たちが自発的にしているものですが、たとえ学習時間が少なくても、課題などがあることで生徒たちはより良い学習ができるので、本当に感謝しています」と父親のクレムさんは説明します。

「学校が再開したら、子どもたちみんなを学校に通わせるつもりです。私の仕事も新型コロナウイルスで大打撃を受け、生活をするためにローンを組まなければならなくなりました。けれどこのような状況であっても、私は子どもたちの教育に投資しています。一方で、家族の経済的危機を少しずつ解決しようと努力しています。

紙のプリントで、勉強を続ける

©UNICEF Cambodia/2020/Chansereypich Seng

ロラーズ中学校1年生のセング・ネアラデイさん(13歳)

ロラーズ中学校1年生のセング・ネアラデイさん(13歳)も、遠隔教育の格差に対して語ります。

「学校が休校になった当初は、授業や宿題の受取・提出はFacebook Messengerグループしかありませんでした。けれども先生たちは、特に携帯端末を持っていない生徒にとって、これだけでは不十分だと気づいてくれました」。

こうした「デジタル格差」に対処するために、教師たちは、生徒が学校に来て受け取ることができる授業用の紙のプリントを作成しました。

ネアラデイさんは他の生徒と一緒に、月曜から金曜の午後に学校にいて、他の生徒が取りに来るプリントを渡すのを手伝っています。そのプリントには教師の連絡先も記載されているので、分からないことがあったら電話でも質問できるようになっています。

「スマホを持っていなかったり、家にインターネット環境がない生徒たちが、授業のプリントや宿題を取りに来てくれるようになればいいなと思います。授業の内容で分からないことがあっても、ここへ来て先生に質問することで、理解できるようになると思います」とネアラデイさんは話します。

一生懸命にできることを

ロラーズ小学校3年生のトゥン・サイさん(8歳)

©UNICEF Cambodia/2020/Chansereypich Seng

ロラーズ小学校3年生のトゥン・サイさん(8歳)

ロラーズ小学校3年生のトゥン・サイさん(8歳)は、毎朝朝10時に祖母の家に通います。

「おばあちゃんの家にあるテレビで、算数とクメール語の勉強をしています」と話すサイさん。自宅にはインターネット環境がないため、テレビやラジオでながれる学習番組で学んだり、学校で授業のプリントをもらってきて、お母さんやお姉ちゃんに助けてもらいながら勉強しています。おかげで、サイさんの学習は順調に進んでいます。

すべての子どもに学習の機会を

©UNICEF Cambodia/2020/Chansereypich Seng

学校でプリントを受け取った子どもたち。

国内全土にわたる学校の休校措置によって、これまで長年にわたって築き上げてきた教育分野の進歩が後退するリスクに直面しています。子どもの貧困状況の悪化や、子どもの発達の機会が阻害されるリスクも伴っており、そうした影響は、短期間だけでなく、今後何世代にも及ぶ可能性があります。

ユニセフの緊急支援における重要な役割の一つは、危機下にある子どもたちに代替的な学習方法を提供し、日常生活を速やかに再構築することです。そして、能力、性別、社会経済的背景、民族的背景にかかわらず、すべての子どもたちが学習の機会にアクセスでき、誰も取り残されることのないように取り組んでいます。

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