【2020年9月3日 ジンバブエ発】
ジンバブエの首都ハラレ郊外にある人口密度の高いグレン・ビュー地区。2人の子どもが、地元のラジオ局が放送する英語の授業を熱心に聞いています。
小学5年生の2人にとって、充電式のポータブルラジオは必需品です。エバンスさんとオードリーさんは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの影響で3月末に閉校して以来、一度も学校に行っていません。
エバンスさんは、雑音が入らずに受信できる位置を探りながら、頻繁にラジオのアンテナを調節しています。今も学校に戻れないことを残念に思っていますが、ラジオ授業には感謝しています。
「お気に入りは、英語の先生の授業です。友達のオードリーと一緒に聞いたり、教え合ったりしています。教室での授業が好きなので、最初はラジオ授業についていくのが大変でしたが、だんだん慣れてきました」(エバンスさん)
©UNICEF |
© UNICEF/UNI322331/Mukwazhi |
ユニセフ・ジンバブエ事務所の支援を受け、初等・中等教育省は6月から初等教育レベルのラジオ授業プログラムを開始しました。COVID-19による学校閉鎖期間中でも、子どもたちに教育を提供するためです。
教育基金「Education Cannot Wait(教育を後回しにはできない)」と「教育のためのグローバル・ パートナーシップ(GPE)」は、ラジオ授業の開発・放送を支援してきました。
ユニセフは各国政府に対し、学校の再開を優先し、安全に再開するためのあらゆる手段を講じるよう呼びかけています。学校閉鎖は甚大な影響をもたらし、取り残された子どもたちこそが最も重い代償を払います。政府は学校閉鎖の継続を決定するにあたり、すべての子どものために遠隔学習の機会を拡大しなければなりません。
© UNICEF/UN058734/Mukwazhi |
ラジオ授業では、算数、先住民族の言語、英語、科学技術、遺産研究などについて学びます。幼稚園生から小学生が対象ですが、今後は中等教育の授業にも拡大していく予定です。
「校庭で遊んだり、友達と笑い合う学校生活がなくなってさみしいです。大好きな算数の先生にも会いたいです」とエバンスさんは話します。「COVID-19のことは知っています。ラジオ授業は、みんなも一緒に聞いていると思うので、友達との距離が近くなるように感じます。オードリーと2人だけだけど、教室に戻ったような気持ちになります」
地元のラジオ番組の一部として2001年まで放送されていたラジオ授業が今回のCOVID-19の影響で再開し、緊急事態下での継続的な学習手段として歓迎されています。
オードリーさんは、学校再開後もラジオ授業が続くことを望んでいます。
「ラジオでは、学校では普段学べない課外授業も放送されています。お母さんは学校以外にお金を払う余裕がないので、こうした課外授業は普段は受けることができませんから。遺産研究の授業が一番好きです。数学には苦労していますが、エバンスが助けてくれます」と嬉しそうに話します。
最も弱い立場にある子どもたちのために活動するMavambo Orphan Care (MOC)のコミュニティ・チャイルドケア・ワーカー、ジャネマリー・チクウェさんは、様々な教育関係者が参加して行われたラジオ授業に関する発表の中で述べました。
「復習したり、新しいことを学ぶことに役立つラジオ授業に、子どもたちは興奮しています。授業に戻ってきてくれる子どもがいることに、私自身も感激していますし、子どもたちからもポジティブな意見をもらっています」
恩恵を受ける家庭がある反面、ラジオ受信機が手に入らない家庭の子どもたちが授業に置いて行かれないようにする支援という課題も残されています。
チトゥンギザのジョイス・ムシャニュリさんは、電気を使用するラジオには、停電の発生も課題になっていると指摘しました。
「以前は電気は広い範囲で利用可能でしたが、最近は停電が発生するようになりました。また、電池式ラジオを持っている人たちも、屋内に人が密集することを恐れて、みんなで一緒にラジオを聞くことを控えるようになりました。COVID-19感染のリスクがあるからです」
同じくハラレ郊外にある人口密度の高い貧困地区カレドニアでは、地域の子どもたちが一緒にラジオ授業を受けることが一般的になりつつあります。MOCが配布したラジオは、この地域の人々にとって重要な存在となっています。
MOC の広報担当官ティチャファ・ムブユイワさんは、この困難な時期に子どもたちにラジオ授業を届けているジンバブエ政府とユニセフへの感謝を述べています。「子どもたちが学び続けられているのを見ることは素晴らしいことです」
COVID-19による緊急事態下の継続的な学習を支援するために、ユニセフは貧困地区への2,500台のラジオの調達・配布を計画しています。
一方で、ラジオ授業には課題も残されてます。保護者からは、分からないところについて子どもたち自身が質問したりできるフィードバックの仕組みが必要、との意見も出ています。
小学 7 年生の保護者であるタクラ・ムヘレさんは、「息子はときどき授業の内容を理解できないときがありますが、私がそばにいないと質問に答える人がいません。子どもたちが質問したり意見を言ったりする仕組み作りが必要です」と話します。
また、携帯電話もラジオ授業の普及に一役買っています。多くのスマートフォンにはラジオアプリが搭載されており、ラジオの視聴手段として好まれています。ラジオと携帯電話により、コミュニケーションの可能性が広がっています。
エバンスさんや他の生徒たちは、学校再開の準備をしつつ、ラジオ授業での学習を続けています。
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