子どもの生存と発達の基礎となる栄養。栄養状態の良い子どもたちは、健やかに成長し、学んだり、遊んだり、地域社会に参加したりできます。また、病気などで危機的状況に陥っても、回復する力を持っています。
けれども、世界では多くの子どもたちが必要な栄養を摂取できていません。こうした状況は、最も貧しく、最も困難な状況に置かれた子どもたちの間で特に顕著にみられます。
幼い命を奪う、重度の「消耗症」
「消耗症」という言葉を、聞いたことはありますか?
飢きんや飢餓(きが)といった言葉とは異なり、「消耗症」という言葉を耳にしたことがある人は、比較的少ないのではないでしょうか?
「消耗症」とは、急性あるいは重度の栄養不足により、差し迫った死の危険に直面している状態です。消耗症に陥った子どもたちは、ひどく痩せて免疫系が弱っており、緊急の治療ケアを要します。
2020年時点で、世界の5歳未満児人口の6.7%にあたる4,540万人以上が消耗症に陥っており、そのうち特に危険な「重度の消耗症」に苦しむ子どもは1,360万人にのぼります。
重度の消耗症は、重度の急性栄養不良としても知られ、栄養不良の中で最も致命的な症状です。必要な栄養が欠如しており、下痢やマラリア、はしかなどの病気に繰り返し罹患することで、免疫力の低下をまねきます。健康な子どもであれば罹っても回復する小児疾患であっても、重度の消耗症に陥っている子どもの場合、バクテリア・ウイルス・菌類に対して、実際に防御する機能が働かず、死に至ることがあります。深刻な栄養不良に苦しむ子どもたちは、呼吸を続けるだけで精一杯で、消化器官が栄養を吸収するという基本的な身体機能さえ働かなくなり、命を落とすのです。
重度の消耗症に陥っている子どもは、健康な子どもと比較して、一般的な小児疾患で死亡する確率が最大で11倍高まります。それゆえに、重度の消耗症は、子どもの生存にとっても最大の脅威の一つです。5歳未満児の死亡の5件に1件は重度の消耗症に起因しています。
高まる食料危機
世界各地で長引く紛争や気候危機により、重度の消耗症に陥る子どもの数は、以前から増加の一途をたどっていました。
しかし、世界有数の穀物輸出国であるウクライナや、ロシアからの食料輸入に依存していた中東・アフリカの国々では特に、今年2月にウクライナで激化した紛争によって、食料不安の危機が非常に高まっています。
例えばソマリアは小麦の92%をロシアとウクライナから輸入していましたが、現在は供給が絶たれています。それによって、食料と燃料の価格高騰が悪化しており、多くの人々が、生きていくために必要な基本的な食材を買うことができなくなっています。
加えて、栄養不良の子どもの治療に用いられる「すぐに食べられる栄養治療食(RUTF)」の価格も、今後数カ月で高騰すると予測されており、さらに多くの子どもたちの命が危険にさらされることになると懸念されています。
幼い子どもの命を守る、ユニセフの栄養支援
子どもの消耗症は、人道危機に直面している国だけで増加しているわけではありません。治安や社会情勢が比較的安定している国々も含む、さまざまな地域で子どもの消耗症が40%以上増加しています。例えば、ウガンダでは2016年以降、子どもの消耗症が約60%増加しています。
世界の飢餓と栄養不良をなくすことは、一夜にしてできることではありませんが、子どもたちが重度の消耗症によって命を落とすことがないように、ユニセフは栄養支援を届けています。
栄養不良に陥っている子どもを早期に特定し、必要な治療とケアを提供し、栄養状態が回復するまで、入院または通院治療で注意深く見守り、その後も定期的に発育チェックを行うなど、ユニセフは、長期的な支援で子どもたちの命と健康を守ります。
さらに、栄養支援は、予防に重点を置くことが重要です。例えば、栄養価と安全性が高い食事を、子どもと女性が手頃な価格で持続的に入手できるようにする活動を行っています。また、子どもたちが良い栄養状態を保てるように、栄養面の支援だけでなく、保健ケア、安全な水の提供、衛生的な環境の支援など、包括的な支援を届けています。