2023年7月5日ニューヨーク発
ユニセフ(国連児童基金)事務局次長のオマール・アブディは、国連安全保障理事会の「武力紛争下の子どもに対する重大な権利侵害の予防と対処」に関する公開討論において、以下の発言を行いました。
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武力紛争下の子どもの権利侵害
本日は、「子どもと武力紛争」について議論する上で、これまでになく厳しい現実に向き合わなければなりません。今年の国連事務総長報告は、国連が確認した重大な権利侵害が2万7,000件以上、また懸念される状況も26件と、どちらも過去最多となったことを示しています。
ユニセフは、報告書に最近追加された、例えば今年のハイチとニジェール、そして2022年のエチオピア、モザンビーク、ウクライナなどにおける子どもたちの窮状を深く憂慮しています。しかし、子どもに対する重大な侵害が最も多く確認されたのは、コンゴ民主共和国、イスラエルとパレスチナ、ソマリアなどの、紛争が長期化している状況下であることを念頭に置かなければなりません。
これらの3つの状況は、2005年に監視・報告メカニズムが設置されて以来、一貫して事務総長報告書に含まれています。つまり、これらの状況にある子どもたちは、何年もの間、場合によってはパレスチナの子どもたちのように、何十年もの間、容赦ない重大な権利侵害に直面してきたのです。最近の状況激化により、少なくともこれらのいくつかにおいて、確認される侵害が今後数カ月の間に増加することが見込まれます。
スーダンで新たな紛争が勃発したのは、今年の報告書の報告対象期間内ではありませんでしたが、ユニセフは、現在進行中の紛争が同国の2,100万人の子どもに与える影響についても深刻な懸念を抱いています。現在、100万人以上の子どもたちが戦闘によって避難生活を余儀なくされており、国連は、数百人の子どもが死傷したという信頼できる報告を受け、確認を行っています。
「子どもと武力紛争」アジェンダ
昨年の公開討論で議論したように、「子どもと武力紛争(Children And Armed Conflict, CAAC)」というアジェンダは、世界各地で紛争の影響を受けている子どもたちに、数えきれない効果をもたらしています。
2000年以降、少なくとも18万人の子どもが武装勢力や武装集団から解放されました。また、2005年以降、18の異なる紛争状況において、39の行動計画が署名されています。 これらの行動計画は、紛争当事者たちが積極的に措置を講じることで、膨大な数の子どもに対する重大な権利侵害を防ぎ、終わらせることに成功してきました。たとえばコンゴ民主共和国では、2012年の行動計画の実施により、1,100人を超える子どもの選別と引き離しを含め、コンゴ民主共和国国軍(FARDC)に徴兵・徴用される子どもの数が大幅に減り、FARDCを侵害行為者のリストから除外することにつながりました。
「子どもと武力紛争」アジェンダの最大の強みの一つは、報告書のエビデンスとなる、重大な権利侵害に対する国連の監視・報告メカニズムです。このデータは信頼性が高く、確かなものです。 このデータは、国連の確認に伴う精査に耐えうるものです。 訓練を受けた子どもの保護の専門家たちが、人道上の基本原則に則り、公平、独立、中立の立場でこのデータを丹念に収集しています。私たちはこのデータの正確性を支持し、加盟国に対し、同じことを行うよう呼びかけます。
極めて重要なのは、このデータによって、国連とそのパートナーが、重大な権利侵害の予防および重大な権利侵害を受けた子どもの支援に、的を絞って取り組めるということなのです。例えば、ソマリア南部で先月、競技場で爆弾が爆発し、27人の子どもが死亡、53人が負傷した事件のような悲劇的な出来事に対して、ユニセフが予防行動や対応に的を絞ることができます。ユニセフは2022年に、世界で900万人以上の子どもたちに爆発物リスクの回避についての教育を実施しましたが、広範囲にわたる武器汚染の危険性を考えると、私たちはもっと多くのことを行う必要があります。
社会復帰や保護などの支援も
同様に、子どもの徴兵や徴用がどこで起きているのかを理解することで、子どもの解放に向け紛争当事者に働きかけ、助けを必要としている子どもに支援を提供することができます。2022年、ユニセフとパートナーは、1万2,460人以上の子どもに社会復帰や保護などの支援を行いました。
事務総長報告に反映されている国連が確認した情報は、国連が紛争当事者に働きかけ、子どもの保護に力を入れる策を講じるよう促すための起点にもなっています。この1年半の間に、国連の関与のおかげで、いくつかの当事者が子どもの保護のための措置を約束しました。例えば、昨年ブルキナファソとナイジェリアで採択された引き渡し議定書には、紛争の中で発見、確保、特定された子どもたちを保護するために必要な、子どものケアと保護を担う民間のアクターへの迅速な引き渡しを含む、手順が概説されています。
また、先月の「武力紛争下の子どもの保護に関するオスロ会議」において、子どもの安全を守るために大胆な約束を行った加盟国も称賛したいと思います。パリ・コミットメントおよびパリ原則、バンクーバー原則の承認とそれらを国内法に組み入れることを約束した南スーダン、「武力紛争における児童の関与に関する児童の権利条約選択議定書」の批准を約束したソマリア、武力紛争下での子どもの権利侵害を防止し、それに対応するプログラムに10億ノルウェー・クローネを拠出することを約束したノルウェー政府などがその一例です。
これらの国々は、子どもに対する保護を強化するという約束を評価され、支援されるべきです。そして私たちは、他の国々が彼らに倣うことを奨励します。しかし、行動計画や予防措置、引き渡し議定書、主要文書の承認、法律の制定などのどのような形であれ、こうした約束が子どもたちにとって意味のある変化をもたらすためには、それらが紛争当事者とその支持者たちの政治的意思によって裏付けられ、実施されなければなりません。昨年の2万4,000件から増加し、今年は2万7,000件を超える侵害が確認されており、既存の約束だけでは不十分であることは明らかです。ユニセフは当事者に対し、子どもたちのために意味のある明確な行動を取るよう求めます。
政治的配慮よりも保護を優先
安全保障理事会の「子どもと武力紛争に関する作業部会」において、ノルウェーとマルタの議長としての努力にもかかわらず、事務総長の国別報告書の結論の採択に向けた進展が見られないことに、私たちは失望しています。結論は、現場の幹部指導者や実務者が、紛争当事者やドナー、コミュニティリーダー等に対するアドボカシーを強化するために、重要なツールです。私たちは安保理の理事国に対し、他の政治的配慮よりも子どもたちの保護を優先するよう求めます。これには、強固で有意義かつ迅速な安保理作業部会の結論の採択を促進することも含まれます。
事務総長報告書が指摘するように、昨年の重大な侵害の50%以上は、非国家武装集団によるものです。例えばブルキナファソでは、その割合がほぼ85%でした。
しかし、私たちはしばしば、政治的な理由から、武装集団や事実上の当局に対する国連の関与を阻止または抑制しようとする国家主体に出会います。はっきりさせておきたいのは、国連の人道的関与は、こうした行為者を正当化するものではないということです。支援の提供や侵害を終わらせるための対話などを通じて、紛争下の子どものために変化をもたらし続けるために、私たちは加盟国に対し、国連が、テロリストとして指定される可能性のあるものを含め、武装集団に関与することを可能にし、支持するよう求めます。
平和な世界を創るために
子どもと武力紛争のアジェンダに含まれる国の数が増えると、私たちの保護と支援を必要とする子どもたちの数も増えます。ユニセフは、このアジェンダにあるすべての国において、この活動を共同で主導しています。オスロ会議で発表したように、私たちは限られた通常予算を、子どもに対する重大な権利侵害の監視と報告の作業に投入し、被害を受けた子どものニーズに確実に応えられるようにしています。
しかし、国連が、子どもに必要な人道支援を提供し、重大な権利侵害を記録する私たちの取り組みを維持するためには、ドナーからの支援が必要です。加盟国に対し、国連の取り組みへの支持の規模を拡大していただくことを訴えます。
今、過去75年間のどの時点よりも多くの子どもたちが危険にさらされています。その理由は明白です。残酷な行為や子どもたちの窮状への無関心のため、また一部の政治指導者や紛争当事者が紛争時における人道の原則を守っていないがために、子どもたちは苦しみ、命を落としているのです。
最後に、ユニセフを代表して、すべての国や組織が私たちと共に、子どもたちを最優先に考え、子どもたちが将来世代により平和な世界を創るために成長できるよう、今日から子どもたちを守ることを強く求めます。