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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

<2002年7月1日掲載>

カブールスタイルでロナウドとベッカム対決
アフガニスタンのワールド・サッカー・デー
<アフガニスタン>

 カブール中心部、午前9時。準備を終えた2チームのサッカー選手が、センター・サークル越しに緊張した面持ちで目と目を交わしました。静岡から6,000キロ離れたこの土地で予定より2日早く、ブラジル対イングランドのワールドカップ対戦がキックオフのときを迎えようとしています。
 6月19日水曜日は、2002年FIFAワールドカップTM期間中の休息日ですが、「子どものための世界サッカーデー」になりました。これは、今大会を子どもたちのために捧げることにしたユニセフとFIFA(国際サッカー連盟)との提携によって決められました。アフガニスタンでは、最近、ワールドカップへの関心が高まるにつれて、サッカー人気も高まってきました。そして、カブールの子どもたちも独自のトーナメントを開催することになりました。

6月19日「子どものためのワールド・サッカー・デー」に、カブールのオリンピック・スタジアムに集まったサッカー選手たち。右:モハメド・シカブくん、8歳。試合では”イエロー”チームでプレー。サッカーをはじめて2か月。2002FIFAワールドカップTMの試合はテレビで何試合か見て、ブラジルを熱心に応援している。好きな選手は、ロナウド

左:ベロズ・ガフーリくん、10歳。試合では”ホワイト”チームでプレー。お兄さんがサッカーをするのを見て大きくなり、自分も早く大きくなってプレーしたかったと言う。いつかアフガンのナショナル・チームに加われたらいいなぁと夢見ている。今ワールドカップ大会ではブラジルのファン。一番好きな選手は、カルロス。

 今日、アフガニスタンのワールド・サッカー・デーへの参加を記念して、オリンピック・スタジアムの埃まみれのグラウンドに、トーナメントに参加していたチームから2つのチームが集まりました。出場する少年たちは、ブラジルやイングランドカラーのユニフォームを着て得意そうです。ユニフォームは大使館や人道機関から寄付されました。偶然なのか意図したのか、準々決勝最大の好試合を、選手たちも意識しているようです。

 「ベッカムが最高だよ」最初のホイッスルを待ちながら、1人の少年が自信たっぷりに言います。10分後、8歳のロナウド、本名モハメド・シカブから激しいタックルを受け、そのジャッジに異議が唱えられます。速く、激しいペースで試合は進み、ボールがピッチの片方のエンドから、もう一方のエンドへと飛ぶように動きます。観戦にやってきた100名ほどのサポーターの悲鳴やどよめきがスタンドにあふれています。試合は真剣そのもので、両チームのエネルギッシュなプレイが続きますが、雰囲気は友好的です。試合全体で、ファウルはわずか3つだけ、審判がカードに手をのばすことは一度もありませんでした。このスタジアムで、タリバン政権による死刑執行や公開処刑が行われていたときから、まだ1年もたっていません。今日、そうした恐怖の舞台が、友好的な競技、チームワーク、友情の舞台に生まれ変わったのです。

 ”カブール・ワールドカップ”は、アイルランドのNGOゴールが企画し、開催されました。ゴールは今年3月以降、カブール市のリーグでプレイさせるために、市内の8歳から15歳の子どもたちを集めました。ユニセフの支援を得て、ゴールはピッチを修繕し、用具をそろえ、アフガニスタン代表チームのメンバー2名を含む地元のスポーツ好きの人たちとともに作業を続けてきました。若者たちに、ともに生きること、違いがあっても平和的に解決すること、そして競いあうことは必ずしも対立ではないことを理解し学んでもらいたいという願いのもとに、行われました。20年以上にわたる内戦によって荒廃した国で、ちょうど同じ週に、初めて国の将来について討議する大会議ロヤ・ジルガが開催されました。そんな時期に、このようなメッセージを発することは、この国の若者にとって非常に重要なものとなることでしょう。

 ユニセフ・アフガニスタン子どもの保護担当官、エルケ・ウィッシュは、こうしたプロジェクトが長期的な可能性を秘めていると考えています。「紛争の解決と相互理解の発展は、国家建設のプロセスに欠かせない要素です」彼女は語ります。「スポーツやレクリエーションは、特に、権利を奪われた若者や軍を離れた若者をひとつにまとめるのに有効な手段です。そうした若者たちに、建設的な環境でともに生きていくことを学んでもらえるからです。同様の活動は、女性のためにも企画することができます。アフガニスタンでは少女や若い女性の間でバレーボールが人気です。こうしたプログラムは、多くの人々にとっては夢でしかなかった、人生の楽しい一面を若者たちに示すことができるのです。」

 カブール・サッカーリーグは、モハメド・シカブの人生に新たな道を切り開いてくれました。モハメドは、父親にサッカーをすすめられました。父親は、スポーツが息子のためになることを期待していました。けれども、モハメドはそれ以上のものを得たのです。新しい技術も学びましたし、スピード感やゴールすることによる高揚感を知りました。また、市内の他の地域に住む新しい友だちも得ました。「入ったときは、知ってる子は2、3人しかいなかったんだ」モハメドは言います。「でも、新しい友だちができたんだ。一番の友だちはナヴィドだよ。その子とは、チームに入って知り合ったんだ。とてもうれしかったよ。」

 試合が終わると、モハメドとチームメイトは学校に向かいます。授業はサッカーと同じくらい大切です。リーグの少年のほとんどが、授業に出席しています。もちろん、サッカーは彼らの将来の目標にも影響を与えています。モハメドは大きくなったら、フォワードの選手になりたいそうです。

 カブール・スタジアムのピッチは、試合に適したレベルには程遠いものです。出番を待つ控えの選手が待機できるような日陰も、ダグアウトもありません。ゴールにはネットがなく、ピッチを示す白線がところどころ消えてしまっています。けれども今日、ここでプレーする少年たちは、真剣です。彼らは毎朝、日がのぼり、外出禁止令が解除されるとともにあらわれて、練習をします。コーチの話に熱心に耳を傾け、練習メニューを一生懸命こなします。試合が終わるごとに、チームは集まって、コーチのアドバイスを聞きます。それから、着替えて学校のカバンを手にする前に、手をつないで一斉にに声をあげます。このプログラムでは、協調と思いやりが指針となっているのです。

 今日のカブールスタイルのベッカムとロナウドの対戦はノーゴールに終わりましたが、子どもたちには平等に名誉が残り、両チームのプライドも守られました。去っていく両チームのまわりには、笑顔があふれていました。さて、本番の準決勝、金曜日の試合はどうなったでしょうか?


2002年6月19日
カブール、オリンピック・スタジアム
ユニセフ・アフガニスタン広報担当官 Edward Carwardine

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