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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

<2001年2月19日 信濃毎日新聞掲載>

アフガニスタン人の憧れの英雄:国連平和大使モハメド・アリが来訪
<アフガニスタン>

 国連平和大使のモハメド・アリ氏は、23年間内戦に苦しんだ国、アフガニスタンを訪れました。社会の復興のようすを視察し、国際社会に支援を呼びかけようと、ユニセフとWFP(世界食糧計画)がコーディネートして、3日間にわたるアリ氏の訪問を実現しました。
 ボクシング界のかつてのヘビー級チャンピオンは、さっそくカブール市内にあるカルティー・シー・ハイスクールを訪れ、女子生徒たちから花びらと歌の大歓迎を受けました。カルティー・シー・ハイスクールはユニセフの支援で修復を終え、平日は3交代制の授業が行われており、7,000人の男女生徒が通っている学校です。

 前日、アリ氏は、アフガニスタンの暫定政府大統領ハミッド・カルザイ氏の招待で、カブールの大統領宮殿にて、非公式なイフタール(一日の断食が終わった直後の夕食)に臨みました。「あなたは多くの人にとっての英雄です。アフガニスタンの人たちもよく知っています。特に私たちの世代は全員があなたのことを知っていますよ。」カルザイ大統領はこう言って、アリ氏と一行を公式に歓迎しました。 二人はあいさつを交わし、アフガニスタンの状況について短いながらも話をしました。アリ氏は、なるべく多くの時間をアフガニスタンですごしたいと、大統領に伝えました。
 国際支援があるにも関わらず、支援金が足りない状態にあるアフガニスタンに、少しでも国際社会の注目が集まるようにと、アリ氏は願っています。たとえば、ユニセフが必要としている支援、1億9,100万米(約229億2,000万円)ドルの内、10月までに約束されているのは72%のみ。5,350万米ドル(約64億2,000万円)が不足している状態で、すべての仕事に影響が出ています。学校に戻ったばかりの子どもたちのニーズを満たすには、さらに2,470万米ドル(約29億6,400万円)が必要となります。

 カルティー・シー・ハイスクールは破壊の激しい地区に建っている学校です。ユニセフは学校の修理を支援していますが、19,000米ドル(228万円)相当の支援金は、窓、ドア、屋根の修理、水と電気の供給システムの修理にあてられています。2階建ての校舎は、生徒全員を収容するには小さく、ユニセフは15の大型学校用テントを提供し、急ごしらえの教室を設置しました。
 アリ氏は、女生徒たちの「儀杖隊」の歓迎を受け、教室を見て回りました。生徒たちは年末の試験の準備に必死です。タリバン政権下では女子の教育が禁止されていましたから、この生徒たちにとっては、久しぶりに受ける試験となります。アリ氏は次に、テント教室を見て回り、実際に生徒たちに交じって授業を受け、困難な状況の中で学ぶ子どもたちの気持ちを実体験しました。アリ氏は、サインに応じ、学校を去る前に、子どもたちにバレーボールやなわとびをプレゼントし、子どもたちは、逆に、今回の思い出として、教科書や文具が入ったユニセフのスクール・バッグを贈呈しました。

 アリ氏はその後、WFP(世界食糧計画)が支援するベーカリーNo.5にてパンの配給の手伝いをしました。カブールでも最も破壊が激しかった地区にある配給所です。女性のパン焼き職人たち(ほとんどが未亡人)から、パン1斤を贈呈されたアリ氏。彼はパンの配給を受けた人たちと話をし、カブールの中でも一番困っている人たちから、直接声を聞くことができました。今ではWFPの看板事業でもあるベーカリー・プログラムを通して、WFPはアフガニスタンの主要な都市部に住む、困窮した人たちに向けて毎日、パンを25万人分配給しています。
 また、その日の午後遅く、アリ氏は、自らの意思で、カブールのボクシング・クラブを訪れました。そこで、彼は若いスポーツマンたちに会い、運動器具を提供しました。

 3日目の最後の日、アリ氏はカブール西部の、大きな被害を受けた地区を見て回りました。旧王宮に足を運んだ彼は、カブールの市長やアフガニスタン・オリンピック委員会委員長、元国王の孫らに迎えられました。

 アリ氏がカブールを発つ際、ユニセフ・アフガニスタン事務所のアンジェラ・キアニーはこんな言葉を贈りました。(アリ氏の訪問は)「人々にとって自信を取り戻させるきっかけとなりましたが、何よりも、アフガニスタンの子どもたちにとっては大きな力となりました」「ユニセフが支援する学校で、あなたが女子生徒ばかりの教室で、彼女達と一緒に座ることさえ以前は考えられなかったことです」と。

モハメド・アリ国連平和大使から
アフガニスタンの子どもと若者たちへのメッセージ


若者たちよ、
 あなたがたの未来がどれほど明るいか、私の考えをみなさんと共有させてください。私の人生とその成功は、私が若いとき、アメリカの貧しい一角で育ったときの心構えの上に成り立っているものだと思います。ですから、みなさんが次の3つのことを念頭に置いて人生を生きていくならば、必ずや、私と同じような人生の成功を勝ち取ることができるはずです。

  1. 信仰心を篤く持ち、よきムスリムであることを心がけましょう。どんなにつらいときでも、信仰をもっていれば、それを切り抜けることができるはずです。
  2. 人生のチャレンジに備えて、頭脳を鍛えましょう。教育は人生の重要な部分になるはずです。一生懸命勉強し、教師を尊敬し、彼らの指導に従いましょう。
  3. 体育やスポーツを通して身体を備えましょう。なぜならスポーツは仲間同士の連帯を深め、性格を鍛え、自主独立性を鍛えてくれるからです。今はそういう機会さえないときかもしれません。そういう意味ではスポーツや運動に参加することさえ困難でしょう。しかし、私たちは一緒になって、もっとこういう機会を作り出して行くよう努力しなければなりません。

 あなたがたの国を離れるにあたって、私がこのように述べるのは、国連平和大使として過ごしたこの3日間が、私にとって非常に名誉なことであり、喜びであったからです。この旅こそ、私が長きにわたり夢見てきたことです。そして、その旅が予期した以上にすばらしいものになったことを感謝いたします。
 アフガニスタンでは、人道問題に関心を持つ団体や組織がアフガニスタン政府やその国民と一緒になって、多くのことを成し遂げてきたと思います。私はその成果を自らの目で、見て参りました。ユニセフ支援の学校で、女の子の間に座りながらそれを感じました。長年にわたって教育から疎外されてきた女の子たちが一生懸命勉強している姿を見て、私は大いなる感動を覚えたのです。
 カブール市内で困難な状況にある人たちが、WFPの支援を受けているのを見ることもできました。女性によるベーカリー・プログラムを通して、未亡人に収入が入り、大事な食糧が、一番困っている人たちにも行き届いているのを見ることができました。
 しかし、何よりも、私は、みなさんのような若者の中に、今のアフガニスタンばかりではなく、将来のアフガニスタンを見ることができました。その「将来」はあなたがたのものです。世界はその「将来」の期待を裏切ってはなりません。世界の大人たちが、みなさんの人生をより良くできるとしたらこの部分です。そう、みなさんの祖国の再建に力を注ぎ続けることによって大いなる貢献ができるはずです。
 我が愛しい友たちよ。国が直面している困難にも関わらず、強く生き抜いているあなたたちの力強さを見せてくれてありがとう。その力を持ちつづけてください。より明るい将来に希望を持ち続けてください。あなたがたこそ、アフガニスタンの生活と魂そのものなのですから。
愛を込めて

モハメド・アリ

<カブール、2002年11月18日>

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