<2002年2月25日信濃毎日新聞夕刊掲載>
毎朝何か期待し目覚める生活
<バングラデシュ>
14歳のマリアムは、これまでの人生の半分を住み込みのお手伝いとして働いています。食事や着るものは粗末ですが、与えられています。でも、一日に14時間、多い日には21時間働いても給料はもらえません。
両親も親せきも、だれもマリアムの様子を気にかけてくれる人はいません。仕事が遅い、何か壊しただろう、と雇い主はしばしばマリアムの髪を引っぱって虐待します。友達を持つことも、だれかに会いに出かけたり散歩したりすることも許されません。もし首にされたらひとりぼっちになってしまう。それが恐ろしくて、言いつけに背くことなど考えられません。
バングラデシュでは、690万人以上の子どもたちが、毎日フルタイムの労働に従事しています。住み込みのお手伝い、溶接工、自動車工、皮なめし、れんが割り、ごみ拾い、屋台の店員など、都会では300種類以上の仕事に子どもたちが従事しています。そのうち47種類は、ILO(国際労働機関)によって有害と定められているものです。都会で働く子どもの多くは、その状況を正しく認識されないまま、教育の機会を得ることも難しい状況に置かれています。
1997年からユニセフとバングラデシュ教育省により、都会の働く子どもたちに教育の機会を広げる事業が進められています。ダッカ、チッタゴンなど6都市圏で、8歳から14歳までの子どもたちを対象にした学習センターが設置されています。センターでは2年間の学校外教育が行われ、小学3年程度の学力と基本的な生活能力を身につけられるようにしています。
選ばれた35のNGOが事業の実施にあたっており、昨年8月現在、18万人以上の子どもたちが、6210ヵ所の学習センターで教育を受けることができました。2003年6月までに、センターの数を1万1700ヵ所に増やすことが計画されています。
教育によって、子どもたちは次第に自尊心が生まれます。センターに通う子どものひとり、9歳のバラットは「読み書きができて、自分が誇らしく思える」と話します。
マリアムは、学習センターに毎日2時間通うことが許されました。学校に行ける日が来るなんて想像もしていなかったマリアムでしたが、生まれて初めて、毎朝何かを期待して目覚める生活が始まりました。「きょうは学校に行くんだわ」。マリアムにも希望が生まれているようです。
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