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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

≪2002年8月14日掲載≫

セックスが死を招く——自分の生命を自分で守ろう
<コンゴ>

  • 妻を殴らない夫は、妻を愛していないか?
  • コンドーム、貞節、禁欲。HIV/エイズを予防するいちばん良い方法は3つのうちどれ?
  • HIV/エイズは、アフリカの男性が女性に引きおこした問題、それともアフリカの女性自身が引きおこした問題?
  • 5-9-1-0の法則について学ぼう。5分の快楽、9か月の妊娠、1人の子ども、でも父親はなし。
    (コンゴのPresiecプロジェクトに参加した若者たちによって討議されたテーマの一部。)

 Presiecプロジェクトとは、「コンゴの学校でHIV/エイズを予防する運動」のことです。Presiecプロジェクトの共同創設者のひとりであるブレンダ・ボウマンは、次のように語っています。
 「Presiecはコンゴの学校に通う若者たちに、HIV/エイズへの意識を高めてもらうプロジェクトとして始まりました。しかし若者たちの熱心な参加のおかげで、ジェンダーや虐待、自尊心、感情の効果的なコントロールといった幅広い問題を扱うまでに成長しました」

 コンゴの若者たちがいま直面している問題は、世界中の若者が抱えている問題と同じです。彼らもそのことを認識しています。しかしコンゴには、彼らの生活をいっそう困難にしている特有の事情があります。たとえば、HIV/エイズの罹患率は非常に高く、国内紛争が最近勃発し、それによって社会は不安定になっています。また教育や医療といった社会福祉は遅れが著しく、貧困が蔓延しています。紛争地から逃げ、住む場所を失った人びともいます。それでもコンゴの若者たちは、難しい状況から目をそらしてはいません。真剣に議論を重ね、正面から取り組もうとしています。

 16歳のメレスはこう話してくれました。「Presiecは私の生活に大きな影響を与えました。HIV/エイズについていろんなことを知ったし、自分の気持ちをどうやってコントロールするかも学ぶことができました。それまではすぐにいらいらして、両親や兄弟、姉妹に当たり散らしていたけど、いまは自分の気持ちをうまく伝えなければって思うの。だから忍耐強くなって、相手のものの見かたを理解しようと努力しているわ。私の見かたとは違うかもしれないけど。いまは家族の誰ともうまくやっているし、家族みんなが仲良くなった」

 Presiecは保健省と教育省と協力体制にあり、さらにUNDP、WHO、WFP、UNICEFなどの機関を通じて国連からも支援を受けています。
このプロジェクトが始まってまだ1年半しかたっていませんが、最近では2002年7月26〜28日の3日間、首都ブラザビルで国際青少年会議が開催されました。コンゴとコンゴ民主共和国から10〜20歳の若者300名が参加し、HIV/エイズに関する民間情報とタブー、どうやってノーと言うか、ストレス管理、感情に対処する、子どもの権利、HIV/エイズと成長など、実にさまざまな議題について話しあいが行なわれました。

 会議に参加した19歳のイゴールは言います。「会議では、コンゴのいろんな地域だけでなく、コンゴ民主共和国から来たほかの若者たちの経験談を聞くことができました。HIV/エイズを打ちまかすには—無論私たちはそのつもりですが—、まず私たちひとりひとりが行動を起こす必要があります。みんなで協力すれば、コンゴにおけるHIV/エイズの状況を良い方向に逆転できるはずです」

 現在、コンゴ住民のHIV感染率は、ブラザビルで14%、ポアントノワールでは20%と推測されます。2001年8月に国連の資金援助で実施された調査では、都市部にある病院では、ベッド数の35%をHIV/エイズ患者が占めていることがわかりました。なかでも15〜24歳の若者が多く、しかもその大半は女の子です。当初HIV/エイズは、公衆衛生上の単純な問題だと思われていましたが、実はコンゴのような国の発展に深刻な悪影響を及ぼしていることがわかってきました。コンゴでは全人口の55%が18歳未満の若者なのです。

 「青少年会議では、HIV/エイズとか、家庭内暴力といった問題には、みんなが同じやりかたで取り組む必要はないことがわかりました」と言うのは、10代の少女です。「ひとつの問題にも、いろいろな解決方法があります。私の父は何人もの女性と結婚していますが、姉妹も私もそれは嫌いです。だって私たちのお母さんはひとりだけなのに、ほかの奥さんたちまで私たちにあれこれ指図するからです。いままでは父に大声をあげ、自分の部屋に入って戸を乱暴に閉めるだけでした。でも、父と気持ちを伝えあう方法を学んでからは、ずいぶん楽になりました」

 ブレンダ・ボウマンは話します。「HIV/エイズの蔓延を食いとめるだけでなく、その他の困難を解消できるかどうか、そのカギは若者たちが握っています。Presiecでは、彼らが学ぶよりも、私たちが学ばせてもらっているようなものです」

 「コンゴが直面している問題について、意識が高まりました」と報告するのは、青少年クラブの会員で、先日の会議にも参加したサッジです。「あまりに問題が深刻で息苦しくなることもありましたが、コンゴの若者は強いのです。HIV/エイズを克服するだけでなく、貧困や教育、薬物、家庭内暴力、一夫多妻、それに内戦といった問題にも立ち向かっていくつもりです」

 コンゴでは全世帯の70%が1日1米ドル未満で生活しています。また以前から続く内戦も、孤児や避難民、5,000人もの子ども兵士など、有形無形の傷跡を人びとに残しています。国民全体の30%が、戦闘や情勢不安から何らかのトラウマに苦しんでいるという推計もあります。
 コンゴの若者を支援するPresiecプロジェクトは、次の3つの活動が柱になっています。

(1) ピア・エデュケーター制度:

 これまでに3,500人以上の若者がピア・エデュケーターの訓練を受けました。彼らは友人や家族と、HIV/エイズをはじめとする各種問題について話しあい、健康的な生活のお手本となります。学校では男女平等の実現に向けて活動するほか、実地研究に参加し、学校が誰でも学習できる安全な場所にするために努力しています。

(2) 青少年クラブ:

 ピア・エデュケーターはこれまでに75のクラブを設立しました。クラブは毎週1回会合を開いて、HIV/エイズの意識向上や予防、生活スキルの向上について議論するほか、文化的・社会的な活動やスポーツ、さらには収入を得るための活動も行なっています。

(3) 教師のトレーニング:

 コンゴ人のファシリテーター55名が、3日間の日程で教師のためのトレーニング講座を実施しています。対象となるのは小学校と中学校の教師で、生徒だけでなく他の教師にとっても指導者となり、役割モデルを務められるよう指導します。これまで2,000人の教師がこの講座を受講し、演技やロールプレイ、ディベートといった個人参加のテクニックを学びました。こうしたテクニックを生徒に伝えることで、生徒は家族や友人との意思疎通がスムーズになり、ストレスを自分で制御したり、健康的な生活が送れるようになるのです。

 ユニセフ・コンゴ事務所の代表を務めるレイモンド・ジャンセンはこう話します。「Presiecの戦略には優れた点がたくさんあります。まず、生死にかかわる真剣な活動に、若い人の積極的な参加をうながしていること。男の子も女の子もこうした活動に加わることで責任感が生まれ、自分の行動をきちんと説明できるようになります。また彼らが寄せてくれる具体的なアイデアを生かすことで、友人や家族、社会に働きかけるときの壁が低くなります」

 「私はいま、自分の学校でピア・エデュケーターをしているの」と明るく自信たっぷりに語るのは、ブラザビルのサンドリーヌです。「HIV/エイズなど、コンゴの若者たちが直面している問題について、学校の生徒たちにいろいろな情報を教えながら、オープンに話をしています。この活動は、私の自尊心を育ててくれたし、自信を与えてくれました」

 青少年クラブは、この種の活動を成功に結びつける有効な手段のひとつです。「私たちはいろんな問題について議論をしたあと、日常生活で抱える問題の解決策をドラマ仕立てにするために、劇を作ったの」と説明するのは20歳のベンバです。「コンゴでは、親は子どもとセックスの話をしたがりません。でも私たちは議論を重ねることで、親たちのそんな態度を変えようとしています。劇をやるのも、自分たち自身の微妙な問題を楽しく学び、情報を得るための手段だからです。Presiecの支援で自分たちの体験を伝え、みんなで協力しながら、自分たちの生活にどうやって責任を持つか、そしてコンゴの未来をもっと良いものにするにはどうすればいいかを学んでいます」
 「私たちは、いまこういう活動をしなければならないのです。だってコンゴでは、セックスで生命を落とすかもしれないのだから」と語る18歳のヴァレズは、楽天的ですが意志の強い少女です。

 ユニセフ・コンゴ事務所は、Presiecプロジェクトへの国連支援を通じてコンゴの若者たちを後押しするだけでなく、HIVの母子感染を防ぐ活動や、エイズ孤児を支援するプログラムにも積極的に参加しています。さらにコンゴ国内のすべての地域を網羅する53のNGOをネットワークで結ぶ活動も支援しています。これらのNGOは社会動員を通じて、HIV/エイズとその予防についての意識向上をはかっています。
 ユニセフ・コンゴは現在、コンゴNGOネットワークをはじめ、HIV/エイズ対策にたずさわる関係者と共同で利用できる、HIV/エイズ情報資料研究センターの候補地を探しています。

ブラザビル、2002年8月1日(ユニセフ)
ケント・ペイジ、ユニセフWCARO広報担当官

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