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コンゴ民主共和国:コレラとの戦い【2012年1月16日 コンゴ民主共和国発】
「最初は、ただの下痢だと思っていましたが、ずっと吐き続けていたので、娘を病院に連れて行きました。そこで、コレラではないかと言われたんです。」ゲトウ・ボファラさん(35歳)は話します。 ゲトウさんは、この12時間、ほとんど目を開けることができないほど衰弱した娘のリハンナちゃん(1歳)のベッドの横に寄り添い続けました。 激しい脱水症状を引き起こし、適切な治療が施されなければ命を落とす危険もあるコレラ。リハンナちゃんは、ユニセフやWHO(世界保健機関)、NGO等の支援で運営されているムバンダカのコレラ治療センター(CTC)のスタッフの尽力で、再び笑顔を取り戻しました。 コレラ治療センターには、12時間のシフトで、6人の看護師と2人の医者が常勤。一度に最大80人のコレラ患者に対応しています。また、センターの衛生状態を常時維持するため、6名の衛生担当者が、代わる代わるセンター内のあらゆる所に消毒用スプレーを噴霧して回っています。 「(消毒用の)塩素の匂いが薄らいできたら、改めてもう一度消毒する必要があります。バクテリアを常に除去し続けることが重要です。」「この消毒活動かきちんと行われるか否かが、死活問題なのです。」治療センターの看護師、エスペランス・ンザボンゴさんはこう話しました。 感染リスクの高い環境
ムバンダカは、2011年にコンゴ民主共和国でコレラが最も流行したエクアトゥール州に位置しています。同年、この州で発生したコレラの件数は3,000件を超え、命を落とした人の数は165人に上ります。国全体では、2万1,500件以上。少なくとも575人が亡くなっています。 上下水道のシステムが整った先進工業国では、コレラは事実上、根絶された病気です。しかし、貧困や自然災害などによって、適切な衛生施設(トイレ)も無く、人口が密集した状況での暮らしを強いられているような地域では、いまだに頻発している感染症なのです。最新のユニセフの調査(複数指標クラスター調査−MICS)によると、コンゴ民主共和国では、安全な飲料水を利用している人の割合は、総人口の半数程度。トイレを利用していない人々の割合は、72パーセントにも達します。農村部では、この数値はさらに高い状況です。 「多くの人々が、川から汲んできた水をそのまま飲むのは良くないことを知っています。しかし、他に選択肢がないのです。」ムバンダカで活動しているユニセフのクリスチャン・ボロンド緊急飲料水支援担当官はこう話します。「アクアタブと呼ばれる浄水剤一錠で、水20リットルを浄化できますが、これに掛かる費用は50コンゴフラン。生活用水全てに施すことができるほど余裕のある人は、多くありません。さらに、人々は、水を沸騰させれば消毒できることを知っているのですが、彼らは、火を点けるのに必要な薪を手に入れるためにお金を使いたくないし、また実際そんなお金も持っていないのです。」 モトキ・キタロさん(27歳)は、劣悪な水と衛生がもたらした“結果”に苦しんできました。コレラ治療センターに3日間入院したモトキさんは、丁度、自宅に戻るところでした。「近所の人が1週間前にコレラに感染しました。私の家族12人は、その人と同じトイレを使っているのです。」 モトキさんとリハンナちゃんは、手遅れになる前に治療を受けることができましたが、多くの人々はそんなに幸運ではありません。「多くの人は、コレラに感染しても、初めのうちは家で様子をみていて、深刻な状況に陥ってからはじめて病院を探し始めるのです。そうした方の多くが、病院に来る途中で命を落としています。コレラ治療センターに辿り着く体力も残っていないのです。」センターに勤務するエリ医師はこのように話しました。 衛生習慣の普及を
ユニセフは、コレラ患者が今緊急に必要としている支援だけでなく、長期的な視野に立ったコレラ対策も支援しています。コレラ治療センターの活動を支援しながら、衛生習慣の重要性を訴える大規模な広報キャンペーンを実施しています。また、2011年に症例が92件確認された、コンゴ共和国で懸念されているもうひとつ感染症のポリオの根絶のために長年にわたって構築された様々な団体やグループとのパートナーシップも活用し、地元の宗教界のリーダーや、お父さんやお母さん方、そして、各地の地方自治体が先頭にたって保健習慣を広めるためのキャンペーンも支援しています。 コレラ感染リスクの高い地域に住む人々に対しては、浄水済みの水や、浄水剤の無償提供なども行っています。また、政府がユニセフの支援を受けて展開している「健康な村々」プログラムでも、水道設備の改善や衛生習慣の普及を図っています。 国内の他の地域から新たなコレラの症例が報告され続けていますが、流行が最も激しかった地域では、その数は徐々に減り始めています。 「とりあえず、最悪な状態は脱したように思われます。」と言いうエリ医師ですが、油断は禁物とも語っています。「適切な衛生習慣を続けなければ、これまで達成したことも全て無になってしまうのです。」 |