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コソボ:教育は、貧困の悪循環から抜け出す鍵【2009年6月29日 コソボ発】 コソボ・プリシュティナ郊外の荒涼とした街角で、男性が二人地面に座り、自転車を修理しています。この自転車は、彼らや家族の命綱です。 この自転車がないと、彼らは大家族を養うことができません。彼らは、日々、町の人々が捨てたゴミを集めて回って、僅かな収入を得ているのです。 「ゴミ捨て場で、空き缶、金属やアルミニウムの破片など、何でも見つけたものを集めています。」ベスニク・ハサニクさんは、悲しそうな笑顔を見せながら、こう言います。「時には、何も見つけられないこともあります。こうした仕事をしているのは、私だけではありませんから。」 社会からの孤立
ハサニクさんは、コソボに少なくとも3万人いるといわれる、国内で最も貧しい“ロマ”、“アッシュカリー”、“エジプト”と呼ばれる民族に属していると自覚しています。こうした人々の中には、一般市民に発給される、社会福祉、失業手当、就学などの社会的なサービスの恩恵を受けるために必要な書類を持たず、社会から孤立して生活しています。 ハサニクさんが弟さんとともに養っている19人の大家族は、3つの小さな家で窮屈な生活を送っています。黒い煙を噴き出す壁のオーブンでは、家族が食べるパンが焼かれています。ベスニクさんと弟さんが、多くのアパートが立ち並ぶプリシュティナの道沿いのゴミ捨て場で拾った古い靴やスニーカーが、オーブンの燃料に使われています。 6人の幼い子どもたちが、地面に座って、手作りのパンにケチャップをつけていました。このケチャップは、裕福な人々が使うゴミ捨て場の底の方から拾ってきたものです。 「私に何ができるでしょうか?」と、ハサニクさん。「生活は苦しいのです。こんなことをしたら、健康に悪いし、病気になるかもしれないこと位、みんな判っています。でも、他に食べ物を得る方法がないのです。これが私たちの唯一の選択肢です。」 貧困の悪循環コソボは今、セルビアからの独立を求め長年続いた武力紛争の後、再建に向けて取り組んでいます。しかし、こうした流れに取り残された少数民族の人々の多くは、出生証明書や市民権証明を発行してもらう術を知りません。 「多くの問題があります。出生登録がなされていないと、子どもたちは学校に行くことができないんです。数年も経てば、この子どもたちは成長し、結婚し、彼らの家庭を築くでしょう。そのとき彼らは、自分たちの子どもたちを登録するための書類を持っていません。彼らの子どもたちもまた、出生登録を受けることができないのです。」ソーシャルワーカーのバルジャム・モロルリさんはこのように話します。 ユニセフ・コソボ事務所のタニア・ゴールドナー臨時代表は、「貧困の悪循環」が起こっていると言います。 未来への希望
ロマ、アッシュカリー、エジプト民族の多くの人々は、より良い教育がこの悪循環を断ち切ってくれると理解しています。親が子どもたちを学校に通わせるために、そして入学したら子どもたち自身を支援するために、多くの組織が設立されました。その一部をユニセフも支援しています。 「ほとんどの人々は、教育の必要性を認識しています。ただ、極度の貧困の中で生活している人々が、教育がどんなに重要なものであるのかを知らないだけなんです。」 コミュニティセンターで子どもたちの宿題を手伝うボランティアとして働いているロマ民族のリドバン・ガシさんは、こう話します。 「その重要性を知らない人々は、仕事を探しに行ってしまいます。」「彼らは、物を無心したり、空き缶を集めにプリシュティナに行きます。教育のことなど考えていません。彼らの一番の心配事は、食べることです。食べる物が十分にないとき、教育について深く考えることはできません。」(ガシさん) 取り残された数千人の人々ハサニクさんは、こうした、ただ生きるために一生懸命の人々の一人です。子どもたちが学校に通うべきだと思っています。でも、子どもたちに教科書を買ってあげる余裕がないのだと言います。 ハサニクさんが今最も恐れていることは、政府がゴミ捨て場から物を集めることを禁止する計画を進めているという噂があることです。もし禁止されてしまったら、彼が持っている将来へのわずかな希望も消えてしまいます。 「(もしそうなったら)私たちに希望があるでしょうか?」ハサニクさんは絶望的な表情でこう尋ねます。「何も望みがありません。私だけでなく、私の子どもたちにも・・・。」 これは緊急に取り組まなければならない問題です。何万人もの人々がコソボで取り残され、彼らの絶望感は高まるばかりです。 |