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母乳とHIV/エイズの微妙な関係
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HIV陽性の母親から生まれた子どもの母乳育児と、HIV/エイズの母乳への影響について討議する会議が9月20日から21日までタンザニアのアルーシャで開かれました。
母乳育児世界行動連盟(WABA)とユニセフが共催したこの会議では、母乳育児とHIV/エイズの専門家が集まり、母乳育児を採用しない場合のリスクの高さと、母乳に代わるものについての可能性をさぐる討議がなされました。
「母子にとっては母乳育児が計り知れないほどの恩恵があることは分かっています。でも、その一方で、エイズ感染が多い国の女性たちはジレンマを抱えています。母乳育児を押し通して、HIV/エイズ感染のリスクを冒すか、あるいは、母乳育児を捨てて、環境が整備されない中で、汚い水や哺乳瓶を使って、乳児が下痢性疾患、呼吸器疾患症、そのほかの感染症にかかって、最悪の場合は、死亡するのを見過ごしてしまうのか…。究極の選択を迫られているからです」WABA側でこの会議のコーディネーター役をしたテッド・グレイナーは言います。「このジレンマをどうやって解決するか。研究と知識の共有を通して探求して行く責任が医学界・薬学界にはあると思います」
この会議の基調講演を行ったのは、アフリカのHIV/エイズの国連事務総長特別代表であるスティーブン・ルイス。そのほかの会議参加者たちは、国連機関、NGO、そして学会からの参加者でした。
HIVの母子感染をどのように減らすか。2001年末に、HIV陽性の0〜14歳までの子どもが260万人いると推測されているサハラ以南のアフリカでは、特に大きな問題です。2001年の推定では、15歳未満の子どもの感染のうち、72万人が母子感染だったと推定されています。解決方法が見出せない中で、HIV陽性の子どもの15〜30%が、妊娠中に、あるいは出産時にHIVに感染し、10〜15%が母乳を通して感染しています。
それでも、妊娠中、出産時のHIV感染のリスクを少なくする努力は身を結びつつあります。妊娠中の36週目からAZTのような抗HIV薬を投与し続けたり、出産時にネビラピンを1回投与すれば、子どもへのHIV感染率は約50%減らすことができます。しかし、母乳を通してHIV感染する可能性があるとなると、せっかくの努力も水の泡です。母乳を通しての母子感染を予防するには広報が大切になります。母乳だけ、あるいは環境が整った中で人工乳だけに徹して育児をするのに比べて、母乳とほかの食品を組み合わせて子どもに与えるほうが、感染のリスクが高い----このことを知らせるしか方法がないのです。
「無料のボランティアによるカウンセリングやHIV検査の機会を増やすのがカギです。そうすればHIV感染を劇的に減らすことができるのです」ユニセフの東部・南部アフリカの地域事務所代表であるアーバン・ジョンソンは言います。「カウンセリングや検査を受ければ、もっと多くの母親たちが自分たちの状況を知ることができるようになります。そうすればたとえHIV陽性であっても、適切なアドバイスを受けることができます。HIV陽性かどうか分からない人、HIV陰性の人は、最低6カ月は母乳だけで子どもを育てるべきだというアドバイスも受けることができるでしょうし」
さまざまな研究の結果、HIV陽性の母親でも、HIVエイズを感染させないために、どうしたらよいかが分かってきています。生後半年間は、母乳だけで子どもを育てることが推奨されていますが、その他の代替食料の調達が可能で、安全に子どもに提供できる場合は、母乳でなくてよいのです。HIV感染の可能性があるお母さんが、子どもに母乳を与えてよいのかどうか…この微妙な問題に対処するため、多くの国々では、HIVと母乳育児についてのガイドラインを設置しました。これらのガイドラインは、新しい情報が入るたびに、改訂され新しくされています。
母乳育児とHIVに関するミーティングの後には、9月23日〜27日まで、アルーシャ国際会議場で行われる第2回WABAグローバル・フォーラムが予定されています。フォーラムには250のコミュニティ・グループあるいは個人が来場し、グローバリゼーションや、子どもにとって安全で安価なオプションへのニーズが高まっている中で、母乳育児をいかに推進して行くかが話し合われます。
注)現在のところ、母親がHIV陽性であっても、最低6カ月、完全に母乳だけで育てられるならば、母乳によるHIV感染の可能性は低いことが分かっています。また一方、母乳を完全に断つ環境ができあがっているのであれば(代替乳があり、きれいな水、煮沸した哺乳瓶など、衛生的な条件がそろっているのであれば)、母乳は断ち切った方がよく、この場合の母乳によるHIV感染は防ぐことができます。
ナイロビ、2002年 9月20日