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<2002年5月13日 信濃毎日新聞掲載> 「生存の知識」
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ハリーポッターほどの話題にはなりませんが、20数年前に初めて出版されてこのかた、215の言葉で翻訳され、1500万部以上も読まれている世界的ベストセラーがあります。「Facts
for Life(生存の知識)」です。今地球上で5歳の誕生日を迎えることなく死んでいく子どもが、年間1100万人います。主要な死因は肺炎、下痢、麻疹(ましん)、マラリアそして栄養不良ですが、予防と治療の知識があれば助かるものばかりです。
1989年、この年は子どもの権利条約が成立した年ですが、ユニセフはWHO(世界保健機関)、ユネスコ、国連人口基金と協力して、家族の健康を増進するのに必要な基本的な知識を分かりやすく解説した112ページの英語版を出版しました。
この本は、マラリアが蚊によって伝染することを教え、それを防ぐには化学薬品を染み込ませた蚊帳の使用が有効であることを教えました。下痢をおこした子どもには水分の補給を止めるのではなく、水分を多いに補い、食事も与えることを伝えています。また下痢によって生じる急性脱水症を防ぐ経口補水塩(ORS)の作り方も教えています。
このようにして、これまで知らなかったために家族(特に子どもたち)の健康が損なわれたり、命を失っていたのが、知ることにより、そしてその知識が行動に転化することにより家族の健康が保たれるようになりました。
「生存の知識」は、医療従事者の必携書だけではありません。ガールスカウトがこの小冊子の教えを忠実に守る競争をする(パキスタン)、青年仏僧連盟の暗記試験の問題に出る(ミャンマー)、保母のガイドブックとなる(ミャンマー)、女性と女の子対象の識字教室の教材となる(ギニア)など、さまざまのグループで活用され、そのメッセージが実践されています。
この3月、世界銀行や世界食料計画などが加わって、災害、緊急事態、HIV/エイズの項目を追加した改訂版ができました。「生存の知識」がもっともっと普及することが望まれます。