|
|
伝統と闘って勉強を続ける女の子サミア
|
エチオピアでは女子教育への取り組みが進みつつあります。(写真は本文の登場人物とは関係ありません) |
18歳のサミア・サディックはサベアン中等学校に通う9年生です。ここはエチオピア東部のディレ・ダワという街。サミア自身はハラ村に住んでいて、ほかの2人の男学生とともに、毎朝、12キロの道のりを歩いてこの学校に通っています。
「9年生まで学校に通っているのは、ハラ村では私ひとり」とサミア。彼女の名前は、近隣の村にまで知られています。「ほかの女の子たちも私を応援してくれているの。人生のゴールをめざして頑張ってねって。私をお手本にしたいってみんなが言ってくれるから、私も頑張らないと。女の子も自分の意思で、もっといい人生や生活が送れるようにならないといけないと思うわ。それには教育が大切なの。私自身は医者になるのが夢なのよ」
そういうサミアは、学校を続けるために涙ぐましい努力をしてきました。そう…、エチオピアで続く早婚という長い伝統と闘ったのです。「14歳のときのことだったわ。まだ4年生だった。見も知らぬ男性がうちの両親のところに来て、私と結婚させてください、と申し入れてきたの。このあたりの伝統や習慣では、女の子の意思はどうでもいいの。結婚を決めるのは親で、娘ではないのよ。私は結婚なんかいやだと言ったわ。その代わり学校を続けたいって。でも、親は聞き入れてくれなかった。女の子には何の権利もないから、私が何を言おうと関係なかったのよ」
でも、サミアはあきらめませんでした。「結局、男の元から逃げ出したわ。でも、茂みの中で隠れているところを家族に見つかってしまって、連れ戻されたの。でも、私はあきらめなかった。何度も何度も逃げ出したのよ、それもまったく違う方向にね。自分ではどこに逃げたらいいかも分からなかったし、ひとりだったし…。結局、逃げては捕まりを4回繰り返して。挙句の果てに先生たちに助けを求めたの」
ウォルデ・ギロは、ハラ小学校の校長先生です。サミアを助けたひとりです。「サミアはとても頭のいい子です」とウォルデ。「学習意欲があって、成績もいい。学校が面白くてたまらないみたいですよ。それなのに、ご両親は彼女を結婚させようとしたようです。サミアは何度も相手から逃げたと言っていました。そこで、私たちはディレ・ダワにある女性問題事務所に連絡を入れて、事情を話したところ、事務所のほうで農村協会と会合を持ってくれたようです。彼女には権利があり、学校に行く権利もあるのだ、ということを話してくれました。結局、ご両親も理解してくださり、結婚のために男性が支払ったお金を返し、サミアが学校に行くのを許したんです」
サミアのこの話は、近隣でも注目を浴び、ハラ村とその近隣の村では、ロール・モデル(生き方のお手本)になっています。ハラ小学校には6学年までしかなかったので、サミアはハラ小学校から15分の距離にあるジェロ・ベリーナ学校に入って勉強を続けました。ここも8学年までしかない学校です。サミアが伝統的な結婚を拒否して、学校に通いつづけている話は、近隣にまで広まっています。
ルソ・ユスフ(13歳)は、ジェロ・ベリーナ学校の3年生です。昨年、一緒に住んでいるルソの叔母が、やはり同じように近隣の村に住む男性からのルソへの結婚の申し出を、受けてしまいました。ルソもまた、結婚を拒み、学校に逃げ込んだのです。結局、ルソの兄が助けに乗り出して、お金を男に返し、この結婚話はなくなりました。
「サミアが伝統と闘って、学校を続けている話は知っていますよ。すべて解決して、学校もずいぶん頑張って、賞もとったらしいですね」とルソ。「いつも彼女のことを考えています。私が頑張れるのも、彼女がお手本になっているからなんです」
サミア、ルソ、そして、そのほかの女の子たち、みんなが「女の子の教育」の実現を目指して頑張っています。2001/2002年には、全国レベルでの小学校総就学率は61.6%で、51.2%が女の子、71.7%が男の子でした。2005年までに小学校・中学校で男女の格差をなくそうという世界的なキャンペーン「2005年までに25カ国を」が、ユニセフの主導のもとで展開されていますが、エチオピアはその25カ国のひとつに入っています。
「男女の就学率の格差が20ポイント以上あるので、女の子の教育に力を入れているのです」と説明するのは、ユニセフ・エチオピア事務所の教育担当責任者、アリーヌ・ボリー・アダムズです。「2015年までにはすべての子どもに教育を、という目標を達成したいと思っているのです。もうひとつ大切なのは、女の子の教育を阻む要因を克服する努力です。それは経済的、政治的、文化的な壁などを意味します。この中には早婚の問題も入っています」エチオピアの女の子の60%近くが18歳前に結婚していると見られています。
女の子の教育に力を入れると、その効果は、教育を受けた女の子だけでなく、その家族や社会、その未来にまで広がります。経済生産性が高まり、幼児死亡率や病気の罹患率は低下。女性の妊娠回数も減り、男女双方の平均余命も長くなります。さらに、母親が教育を受けていると、子どもも教育を受ける割合が高まります。
「子どもを学校に行かせようとするとき、一番問題になるのが母親の意思です」とウォルデは説明します。「コミュニティの中に入り、子どもを学校に行かせるよう人々を説得していますが、反対するのはたいがい母親です。娘がいい人と結婚して、子どもを産むのを良しとしているからです」
「サミアがまさかここまで頑張るとは思ってもみませんでした」と語るのはサミアの母親ザハラ・アリエです。「彼女が小さいとき、女の子に教育など必要ないと思っていました。ですから、学校に行く時間が無駄に思えて、早く結婚して、家庭を持って、子どもを産んでほしかったんです。でも、今は考え方が変わりました。女の子も自由な意志で結婚して、自分たちが結婚したいときに結婚するべきだと思っています」
イムル・タバはサミアが8年生を終えたジェロ・ベリーナ学校の校長先生です。コミュニティには、まだ男女を平等に見る眼が育っていない、と彼は認識しています。「重要なこと、価値のあるものは真っ先に男の子に与えられるのです。男の子が教育を受けてから初めて、女の子にもそのチャンスが回ってきます。男の子が卒業するまでに、女の子は大きくなってしまって、結婚年齢を迎えてしまい、学校に行くチャンスを失ってしまうのです」
学校側はこの問題に目を向け、この課題に取り組む女性問題担当の部署を作りました。「これらの問題に対処するために、地域の教育委員会、女性問題事務所、ユニセフなどの支援を受けて、女子教育を推進するための新しい戦略を実施しているところです」とイムル。「定期的にセミナーとワークショップを開いて、女子教育の利点について教えています。女性問題の担当者も決めました。女性教師たちが積極的に関わってくださるので、目の前にお手本がいるようで、女子教育がどれほど大きな意味があるのか説得力があります。親は、自分たちの娘も、教育さえ受ければ、先生や医者、そのほかどんな職業にでも就こうと思えば就けるのだ、ということが分かってきたようです。励みの材料として、各学年の女生徒3人が、毎年、ディレ・ダワの女性問題事務所から賞をいただいているんです」
課題に挑戦しているのは、サミアが学校に通い出したハラ村だけではありません。ディレ・ダワ管理委員会が管轄するすべての地域で、この問題への挑戦が始まっています。「村長と村の長老たちを集めて、教育の大切さを訴えています」とウォルド。「この点では、村長たちも協力的です。女性問題事務所と一緒にいろいろな活動をしていて、変化がもたらされています。女の子の就学率も毎年上がっています。そういう意味で、サミアはかけがえのない存在になっています。学習意欲も高いし、みんなに尊敬されています。教育の大切さを分かってもらうという意味では、本当に良いお手本だと言えるでしょう。 サミアは、8年生を修了した初めての女の子です。彼女が勉強を続けて、本当に医者になったら、もっとすごいロール・モデルになるでしょう。そうなったら、彼女の後に続きたいという女の子がぐんと増えるでしょうね」
2003年12月11日
アジス・アベバ、エチオピア
(ユニセフ・エチオピア事務所)