<2001年7月2日>
武器を取ることをやめた17歳のジャヤブ
<ヨルダン川西岸とガザ地区>
ラマッラとその周辺地域に比べれば、ヨルダン川西岸地区やガザの町はいくらか穏やかに見えます。しかし、若者が希望を持てないでいる現状に変わりはありません。祖国を守りたいという気持ちが強いいっぽう、彼らはもろく傷つきやすいのです。親が何と言おうと、自分も武器を取ってイスラエル兵と戦いたいという衝動は抑えられません。彼らは大人たち、とくに政治家に裏切られたと感じています。男の子は罪の意識にさいなまれ、いらだちを募らせており、女の子は感情や不安を表に現さないことで、悲しみを隠そうとします。青年組織の指導者たちも、自分たちの活動に疑問を抱きはじめており、いまの若者たちを支援し、導いていく有効な手だてを見つけられずにいます。
17歳のジャヤブは、ユニセフが支援する「カナーン子ども議会」に3年前から参加し、積極的に活動してきました。ここでの活動を通じて、ジャヤブは寛容の精神と民主主義について学び、人々の間の衝突を平和な手段で解決するやりかたを身につけてきました。聡明で創造性に富み、意志の強いジャヤブは、将来の指導者にふさわしい「資質」を持っています。しかしそんな彼も、この年代の男の子らしく不正には激しい怒りを覚えています。
ジャヤブの父親は、イスラエルで何年も投獄されていた元抑留者です。だからジャヤブは、同じような不当な仕打ちがガザで繰り返されることが許せません。今度は自分が行動する番だと彼は考えています。ジャヤブのいらだちと怒りが大きくなっていくのを、彼の両親は不安な気持ちで見守っています。たとえ父母が戦うことを禁じても、ジャヤブは聞く耳を持ちません。
ある日、その衝動が抑えきれなくなったジャヤブは、学校を抜けだしてガザ北部のエレッツに近いベート・ハノーンで若者の集団に加わりました。ジャヤブがそこに着いたとき、すでに多くの子どもたちが負傷していましたが、救急車が来る気配はありませんでした。持っていた携帯電話で連絡をしたら、さっそく救急車が衝突現場に向かうことになりました。ところがジャヤブ自身が足に銃弾を受けてしまいます。彼は救急車に乗せられましたが、両親に叱られることを恐れて車を降り、すぐに現場へ戻りました。怒りに燃えた彼は、自分を撃った兵士に接近します。兵士はふたたび引き金を引き、銃弾はジャヤブの腰から腹部を貫通しました。今度こそジャヤブは救急車で運ばれることになりました。兵士との距離は10メートル、射殺されてもおかしくなかった近さです。
病院に収容されて3日後、ジャヤブは順調に回復しており、両親も息子が幸運にも死なずにすんでほっとした様子でした。病院には、同じように傷ついた人たちがたくさんいました。ジャヤブの友人たちからは、花やチョコレートが届けられています。まだ傷が痛むジャヤブですが、ユニセフのスタッフとの話に応じてくれました。
「退院したらどうするの?」率直な質問を彼にぶつけてみました。「戻ってまた戦うよ」「どうしてあそこに行ったの?」「子どもを撃つのはフェアじゃないし、恥ずべきことだと兵士たちに伝えたかった」
こうして彼の両親や友人たちもいる前で、ユニセフのスタッフとジャヤブは1時間ほど議論しました。おたがいの理想を否定することなく知恵を出しあうことや、危機のときに他人の役に立つためには、生き続けることが大事だという話をしました。ジャヤブは自分の負った傷を不服そうに眺めていました。しかし、必要なときに連絡できるユニセフスタッフの携帯電話の番号を彼に教え、また子どもを撃つことがいかに不当かを世界に訴えるために、もっと効果的な方法をいっしょに考えようと説得したところ、ジャヤブはとうとう、戦いには戻らないことを約束してくれました。
ジャヤブがこの約束を守りぬくには、友人はもちろんですが、私たちのような大人の支援も必要です。ジャヤブは頭が良く、意志の強い若者なので、きっと効果的な打開策を見つけるでしょう。「カナーン子ども議会」とユニセフはその機会を彼に与え、ガザに暮らす人びとの苦悩をやわらげるために力を合わせて努力していきます。
「カナーン子ども議会」は、ガザ地区の子ども60名を招集して、ガザの現状と、それが地域におよぼす影響について話しあう場を設けました。コミュニティ・トレーニング・センターは、親たち、若者、幼稚園教師、負傷者の家族を対象にした地域活動を支援する活動を行なっており、そうした活動への参加を通じて若者たちに解決策を模索させています。青少年スポーツ省は、若いボランティアを対象に救急措置の講習会を開いており、これもまた、危機的状況に対してパレスチナの若者が前向きな役目を果たす機会を提供しています。
ファラヤは、ユニセフがジャーナリズムや子どもの権利条約についての研修を行なっている若者向けNGOです。ここでは、危機的状況に際して若者が声をあげるための確実な手段として、自分自身のことを文章にしたり、記者会見を開くことを勧めています。しかし実際には、そこまでしないことがほとんどです。たった1時間議論するだけで、若者たちは意識と意欲を新たにし、自力で解決策を見つけだし、創造力を発揮して行動に移そうとするからです。
危険のまっただなかにあるジャヤブやその友人たちが、自分の考えを堂々と述べ、建設的な活動に参加するようになれば、彼らはあえて生命を危険にさらすことなく自信を取りもどし、平和な未来を期待するようになるでしょう。そう信じて行動するすべての人を支援するのが、ユニセフの役目です。
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