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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

<ジュネーブ/ニューヨーク 2002年4月4日>

ユニセフは、子どもたちのために
暴力をただちにやめるよう中東指導者たちに求めます。
— キャロル・ベラミー ユニセフ事務局長の声明 —
<ヨルダン川西岸とガザ地区>


 現在、イスラエルとパレスチナ間の紛争が、かつてない勢いで加速しています。両勢力による容赦ない暴力行為が、子どもたちに及ぼす短期的・長期的な悪影響に対し、ユニセフ(国連児童基金)は深い憂慮を禁じえません。この数週間、イスラエルとパレスチナは、一般住居だけでなく、学校、医療施設など子どもたちのいる公共施設にも関係なく攻撃を行なっています。過熱する暴力は子どもたちの権利と幸福を脅かしており、その打撃は広範囲にわたるばかりか、長く尾を引くでしょう。

 ユニセフは、ただちに暴力をやめるよう求めます。武力衝突が子どもたちに及ぼす心理的、社会的影響は計り知れません。家族や友人が負傷したり生命を落とす、家が一軒一軒しらみつぶしに捜索される、父親や兄弟が容赦なく呼び出され、拘留されるといったできごとを目の当たりにした子どもたちは、心に深い傷を受けます。子どもたちはもはやおとなを信頼しなくなり、未来への希望を持てずに、暴力で問題解決を図ろうとするでしょう。そんな土台の上に恒久的な平和が築けるはずがありません。

 即時停戦の見通しがたたない現在、ユニセフは両勢力に対して、子どもの権利条約をはじめとする国際人権法の遵守を強く求めます。すべての当事者は、あらゆる状況において子どもたちが標的とならず、保護を受けられるよう配慮する必要があります。また、子どもたちに対する武器弾薬の使用はもちろんのこと、住居や学校、医療施設の破壊もただちにやめるべきです。

 外出禁止令が出されているパレスチナ自治区では、多くの家族が水や電気、ガスの供給を止められたまま自宅に閉じ込められており、食料も底を尽きつつあります。子どもたちは医療サービスを受けることができず、学校に通ったり、社会活動に参加することもできません。ユニセフは、外出禁止令の解除を求めるとともに、女性と子どもが水や食料、医療サービス、教育などの基本的ニーズを安全に手に入れられるよう、イスラエル当局の全面的な協力を要請します。

 現在は、ユニセフをはじめとする国連機関および国際機関が、パレスチナ占領地区で任務を果たすこともままならない状況です。国連の人道支援機関は、紛争の被害を受けているパレスチナ側地区に安全に立ち入ることができず、緊急支援の提供が困難になっています。ユニセフは、軍事侵攻が行なわれ、外出禁止令が出ている地域への立ち入りを即刻可能にすることを求めます。

 イスラエル、パレスチナ両陣営は、現在の行動が中東に暮らすすべての子どもたちに悲劇をもたらしていることを、いま一度真剣に考えるべきです。いま子どもたちが、信頼と寛容と正義を大切にする空気のなかで成長する機会を奪われると、この地域の安定は望むべくもありません。暴力をはっきりと否定し、平和的解決に向けて動きだすことは、イスラエルとパレスチナのおとな全員が負うべき責任であり、それが子どもたちや未来の世代に対して、真の希望を与えることになるのです。

ヨルダン川西岸地区とガザの現状とユニセフの活動

エルサレム、2002年3月8日(ユニセフ)

 1年5か月に及ぶパレスチナとイスラエルの衝突によって、生命を落とした子どもは258人を超えます。内訳はパレスチナ人が211人、イスラエル人が46人、外国人が1名。負傷したパレスチナ人の子どもは7,000人以上で、そのうち530人は一生体が不自由になるような障害を負っています。またイスラエルには、12〜18歳のパレスチナ人が約155名拘留されています。ユニセフは、特定地域内や国際的に発生する子どもたちの死亡やけが、拘留に関して懸念を深めています。ここ最近悪化しているヨルダン川西岸やガザ地区での衝突は非常に痛ましい事態であり、ユニセフは子どもたちの権利と暮らしを守るために早急に対策を取るべきだとすべての関係者に今、再び呼びかけています。

 現在の対立が始まってから、子どもの生活、行動、態度は大きく変わりました。おとなを対象に調査を実施したところ、現在の対立以前と比べ、子どもたちが感情面での問題に直面していると答えた割合は75%にのぼりました。ユニセフはこの1年間、子どもをはじめ、家族や社会の支援ネットワークの代表者たちが対立状態から受ける心理的、社会的影響に対処することを最大の目標に置いてきましたが、この調査結果はユニセフの着眼点が正しかったことを裏付けています。


 パレスチナの子どもたちが成長していくための長期的な需要に対して、ユニセフはパレスチナ国家建設の一環として戦略的に関わっており、すでに着手されている救済活動によって、国家の総合的な発達プロセスを補完するべく、あらゆる努力を払っています。


ヨルダン川西岸およびガザ地区の現状に対応するにあたって、ユニセフは大きく3つの目標を掲げています。

  • パレスチナの子どもの権利を守り、促進する。
  • パレスチナの子どもたちに健康面での支援を行ない、学習の機会を提供し、心理社会的援助をする。
  • パレスチナの子どもたちが、安全かつ平穏に地域社会に参加し、自分自身を表現できる機会を提供する。


 これらの目標を達成するために、ユニセフは6つのプログラム分野でパレスチナの子どもを対象とした支援の内容を見直し、再強化しています。


1.支援

 ユニセフでは、現在の紛争に対応するために総合的な支援戦略を作り上げ、パレスチナの子どもたちが平和で安全に、また尊厳をもって暮らす権利を守るよう求めています。国内外でのメディア報道を通じて意識を高め、パートナーと提携して共通の懸念領域を強調し、若い人たちが現在の危機的状況について意見を述べる機会を作ることなどに力を入れています。

2.保健

 この分野でのユニセフの初期対応は、緊急支援と救急医療、また妊婦のための安全な出産といった活動に集中しています。この分野はさらに支援や援助が必要です。これまでにユニセフが実施した支援の主な成果は次の通りです。


*母親と妊産婦の安全と健康—閉鎖されている地域での出産環境を改善するため、ユニセフは保健省に助産キット180セットを提供しました。


*緊急用の設備と消耗品—外科手術の設備と消耗品をパレスチナ赤十字協会に提供しました。さらにパレスチナ国内に9か所ある血液銀行のために、血液サンプリングに使う化学薬品と試薬を保健省に提供しました。


*家族への物的支援—イスラエル軍によるベツレヘム再占領で困難に直面した150家族のために、ユニセフは食料パッケージを提供しました。


*緊急予防接種—西岸の遠隔地、とくに封鎖によって家族や医療スタッフの移動がいちじるしく制限されているベツレヘム、ラマラ、ヘブロンの各地区で、保健省によるポリオ予防接種キャンペーンを支援をしました。2001年10月から11月にかけて保健省が実施した同様のキャンペーンでも、ユニセフは支援をおこないました。予防接種を受けた子どもは約20万人にのぼり、そのなかには国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)との協力により、窮乏度が最も高い地域に暮らす難民の子どもたちへの支援も含まれていました。また軍事検問所や封鎖地域を通過する医療専門家や、ワクチンや医薬品などの供給品の輸送についてもユニセフは保健省を支援しています。移動に制限があるため、通常、医療専門家はこうした地域に入ることができません。


*緊急医療—ユニセフはパレスチナ当局の要請を受けて、学校や保育園、幼稚園、青少年センターに約2,500個の応急キットを配布しました。また教育関係者や青少年を対象に、応急手当ての訓練も実施しています。これまでに、紛争の影響を強く受けている地域の400の学校で、教師が応急手当てと避難手順の訓練を受けました。ガザとラファでも、396人の少年少女(女170人、男226人)がこうした訓練を受けています。

3.心理社会的カウンセリング

 暴力行為の急激な高まりを受けて、国の児童福祉に関わる機関や、国際協力省と協力して、心理社会的な支援活動が全国的に展開されるようになりました。

*活動の拡大—パレスチナのNGOが西岸およびガザ全域に危機介入チームを設置した際に、ユニセフはこれを支援をしました。

*トレーニング—現在の危機的状況において、子どもたちをどのように扱い、支援を与えるかについてのトレーニングを専門家を対象に実施しています。社会省のソーシャルワーカー200人、ディフェンス・フォー・チルドレン・インターナショナルのボランティア175人、それに青少年ボランティア140人がユニセフのトレーニングを受けました。また幼稚園の先生2,408人、スクールカウンセラー550人もトレーニングおよび再教育コースを受けました。紛争の影響が大きいベツレヘムでは、16の学校から320人の教師がトレーニングを受けました。現在までに6,750人の子ども(女子は45%)が、レクリエーションと自己表現のための心理社会的介入活動に参加しています。

*情報・教育・コミュニケーション—ユニセフが製作に関わった心理的支援に関する小冊子は、1万6,000人の教師と11万人の親に配布されました。また簡単な方法で親が子どもの心理的な支えになれるというメッセージを伝える13種類のテレビ広告も、ユニセフの支援で制作されています。

4.教育

 ユニセフでは、子どもたちが学校に通い続けるためのさまざまな試みを応援しています。現在のような紛争状態にあっても安全な環境を確保し、移動が制限されている封鎖地域で子どもたちが学習できるようにさまざまなアプローチを使って支援をおこなっています。

*教育活動の支持—ユニセフは2000〜2001年度、ヘブロンとハンユニスでコミュニティベースの教育プログラムづくりに参加しました。ヘブロンのH2地区では、封鎖されて通常の教育活動は中止状態に追い込まれましたが、このプログラムのおかげで1万2,000人の子どもたちがパレスチナのカリキュラムに沿った勉強を続けています。このプログラムには30の学校や子どもたちの親、地元テレビネットワーク、地域代表、600人以上の教師が関わっています。教師は230枚の自習用シートを作り、20のレッスンが地元テレビ局で放送されました。その結果、第1学年から第4学年の子どもたちが、補習を受けることができました。ユニセフはまた、6歳から10歳までの女の子200人を集めたサマーキャンプも支援しました。
 ハンユニスでは負傷した10歳から15歳の子どもたちが、学校を休んだ分を補うための教育を受け、さらに本人と家族に心理社会的支援が提供されています。さらに、ヘブロンでのプロジェクトで得られた教訓や、西岸およびガザ地区の他の地域でプロジェクトを実施する際の課題をもとに、ケーススタディも行なっています。

*「バック・トゥ・スクール」キャンペーン—ユニセフは西岸およびガザ地区の16学区の子どもたちに、女子用制服2,500着、男子用のシャツとズボン一式2,500揃い、それに通学用かばんを2,623個 提供しました。

*教師とスクールカウンセラーへのトレーニング—ベツレヘムにある16校に勤務する教師320人が、心理社会的支援のトレーニングを受けました。2,400人以上の幼稚園の先生、550人のスクールカウンセラーも同様のトレーニングを受けています。ベツレヘムでは2,000人の子どもたちが、レクリエーションや自己表現活動に参加しました。

*家族への物資支援—ガザ地区のラファおよびハンユニスで自宅が壊された子どものために、ユニセフは約180個の通学用かばんを提供しました。また、最近ラファで発生した破壊にも急遽対応し、追加で123個のかばんがすぐに配布されることになっています。

5.青少年の地域参加

ユニセフは、情報・教育・国家政治指導機関や青少年スポーツ省などの政府機関、NPA事務局、地元NGO、それにメディアと協力して、パレスチナの青少年が安全かつ平穏に参加する機会を積極的に作っています。

*サマーキャンプ—ユニセフが財政と物資両面から支援した2週間のサマーキャンプは、2001年に9回実施され、1,124人の青少年(男子578人、女子646人)が参加しました。サマーキャンプでは、子どもたちが思い切り遊ぶことができます。また寛容の精神や批判的な考え方、人の話を聞く、意志決定をおこなうといった能力を伸ばす機会でもあります。サマーキャンプ実施には、青少年スポーツ省や情報・教育・国家政治指導機関などが関わっています。ユニセフはパレスチナの省庁およびNGOを支援して2つのワークショップを実施し、サマーキャンプ国民宣言を作りあげました。すべてのサマーキャンプは平等と参加と非暴力、それに表現の自由を支持すること、また特殊なニーズのある場合を含めて、子どもを重視したアプローチを採用することを定めています。アラファト議長や文化情報相、国際機関、国連パレスチナ難民救済事業機関や欧州連合の代表、スウェーデン領事、カナダ国際開発庁がこの宣言を支持しています。

*子どものための、子どもによるメディア—ユニセフはさまざまなメディア活動を支援しています。パレスチナの青少年が、自分の目で見た今の状況を文章に書くことも、活動のひとつです。ユニセフはこのプログラムを通じて、彼らが書いた文章を一冊の本にまとめる予定です。地元NGOやメディアもユニセフと協力して、若い人たちがテレビやラジオ、印刷物で自分を表現する場を提供しています。

*ピア・トゥ・ピア・カウンセリング—2001年、ユニセフは西岸およびガザ地区の青少年リーダー110人へのトレーニングを支援しました。トレーニングを実施したのはコミュニティを基盤としたの地元のNGOで、西岸地区から24校、ガザ地区から34校の合計58の学校が参加しました。プログラム参加校のうちほぼ半数は女子校でした。(*Peer-to-peer counseling: お互いが対等の立場で行われるカウンセリングの方法)

6.子どもの拘留

 ディフェンス・フォー・チルドレン・インターナショナルのパレスチナ支部は、現在イスラエルの留置場に拘留されている151人のパレスチナ青少年に、法的支援を行なっています。ユニセフも最近この活動を支援するプログラムを発足させました。またこれまでに約160人の青少年拘留者に、衣類(トレーニングウェアの上下と下着)を支給しています。

 法律に抵触し、現在ベツレヘムとラマラのソーシャルケア・リハビリセンターに収容されている12歳から18歳の子どもたち23人にも、ユニセフは衣類を提供しました(上着、ズボン、トレーニングウェア、ブーツ、下着)。ユニセフは青少年司法委員会の一員として、法律に違反した子どもたちに対する取り組みについて、パレスチナ当局と協力して計画を立てています。

その他の緊急対応

 ユニセフは、西岸およびガザ地区で活動する他の開発機関とも協力して、地域のパレスチナ人共同体からの緊急支援要請にも対応しています。たとえば、最近、ガザ地区南部のラファで、58軒の家屋が強制的に破壊されたとき、ユニセフはトレーニングウェアやコート、帽子、靴といった冬用の防水衣類や通学かばんを提供しました。

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