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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

ユニセフ・グアテマラ事務所 篭嶋副代表による報告
「赤ちゃんの命と人の一生に大切な最初の1000日」
慢性栄養不良は、社会の不平等の表れ

【2014年6月26日 東京発】

2014年6月26日、ユニセフ・グアテマラ事務所 篭嶋真理子副代表が、グアテマラの子どもの発育に大きな影響を与える慢性栄養不良の問題とユニセフの取り組みについて報告しました。

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先住民の子どもの身長を測る看護師
© UNICEF/Guatamala2010/Anthony Asael
先住民の子どもの身長を測る看護師。

豊かな自然とコーヒーの産地として知られるグアテマラ。都市部には高層ビルが立ち並び、経済の発展がみられます。しかし、依然として国民の約53%は1日1.25米ドル以下の貧困ライン下で生活しています。都市部から一歩外に出ると、水を手に入れることにも苦労する、貧しい生活を送る人たちがたくさんいるのです。特に、国民の4割を占め、多くが農村部で生活をする先住民の子どもは81%が貧困状態、32%は極貧状態にあるという、深刻な状況です。

社会の不平等を映し出す、慢性栄養不良の子どもたち

中所得国でありながら貧富の差が大きいグアテマラでは、49.8%の5歳未満児が慢性的な栄養不良状態に陥っています。これは、世界ワースト6位、ラテンアメリカ・中央アメリカ地域では、ワースト1位の数値です。篭嶋副代表は、「慢性栄養不良は社会の不平等の表れ」だと語ります。慢性栄養不良で苦しむ5歳未満児のデータを詳しく見ていくと、グアテマラの社会の現状が浮き彫りになっていくのです。たとえば、慢性栄養不良状態にある非先住民の5歳未満児は世界平均に近い36.2%であるの対して、先住民の子どもは65.9%にも上り、世界ワースト1位の国(約60%)を超えてしまいます。また、高等教育を受けている親の子どもが約14%なのに対し、教育を受けていない親の子どもの約70%が慢性栄養不良状態です。

子どもたちが慢性栄養不良に陥る原因は、貧困や文化的習慣などが起因した様々な要因があると篭嶋副代表が語ります。おなかの中の赤ちゃんにとっては、母親の健康と栄養状態が頼りです。この赤ちゃんの発育に重要な妊娠期間中の重労働や妊娠以前の栄養不良、低年齢での出産などが、低出生体重児が生まれる原因になっています。また、新生児における栄養不良は不十分な食物摂取だけではなく、保健サービスへのアクセスの欠如、正しい育児や衛生に関する知識不足などがあげられます。篭嶋副代表によると、なかでも特に問題なのが不十分な離乳食に関する知識や習慣です。最貧困層の住民は離乳食を作るために薪から火を焚いて料理をする余裕がなく、赤ちゃんを背負い、仕事をしながらトウモロコシを口に入れてあげるだけということが多いために栄養が偏るうえ、1日5回離乳食を与える習慣がないということも影響しています。母親が赤ちゃんと目線を合わせることがないので、実際に子どもがどれぐらい食べているかも分からないことは問題だと語ります。

人の一生に大切な最初の1000日

ユニセフ・グアテマラ事務所篭嶋真理子副代表
© 日本ユニセフ協会/2014
ユニセフ・グアテマラ事務所篭嶋真理子副代表。

やせ細って飢餓状態にある急性栄養不良とは異なり、慢性栄養不良の子どもは身長が低いという症状はあるものの、その深刻さを見た目で判断するのは困難です。そのためグアテマラでも長い間、慢性栄養不良についての理解が乏しく、「グアテマラ人はただ身長が低いだけだ」と思っている人が多かったと篭嶋副代表が語ります。しかし、急性栄養不良は治療により回復が見込めますが、慢性栄養不良は一度なってしまうと治療することが非常に難しい、深刻な事態です。栄養不良児の脳のスキャンでも明らかなように、栄養が十分得られないことで脳が十分に発達できず、認知的な発達が遅れてしまうのです。学校の勉強にもついていけず、留年・退学率が高まり、貧困のサイクルから抜け出すことが難しくなってしまいます。

子どもの脳の発達の実に8割は、妊娠期から2歳になるまでの最初の1000日で完了します。この時期に慢性栄養不良に陥ることで、身体の成長や脳の発達が阻害され、人の一生に取り返しがつかないダメージを受けてしまうのです。そのため、この時期に十分なケアを受け、栄養を摂取していることが極めて大切だと篭嶋副代表が訴えます。

人を通した横型の啓発活動

微量栄養素で栄養不良の治療を受ける子ども
© UNICEF/Guatamala2011/Rolando Chews Klee
微量栄養素で栄養不良の治療を受ける子ども。

グアテマラ政府は2012年から「ゼロ・ハンガー協定」のもと、この「最初の1000日」への取り組みを最優先国策の一つに位置付けています。ユニセフは、政府と協力しながら、栄養不良の子どもたちを減らすため、母乳育児や適切な離乳食の導入を促進させるための支援、栄養補給剤や虫下し剤の配布、急性栄養不良の原因になる下痢を防ぐための正しい手洗いや衛生習慣の啓発活動など、様々な活動を行っています。

栄養不良の支援活動の成果はすぐに現れるものではなく、毎日の食事や習慣など、日々の積み重ねが重要になってくるため、改善には時間がかかると篭嶋副代表が語ります。ユニセフは栄養に関する知識を各家庭に届け、日々の食生活を改善するための啓発活動にも力を入れています。各家庭にメッセージを届け、実際に行動に移してもらうためには、TVやラジオを通して中央から縦型に情報を広めるのではなく、助産師のトレーニングなどを実施し、助産師から妊産婦に伝えてもらうなど、人を通して地域に横型でメッセージを広めていくことが大切だと篭嶋副代表は言います。

また、問題の分析を行い、的確で分かりやすいメッセージを伝えていくことも重要です。たとえば、離乳食を1日5回与えるという習慣が広まらない原因を突き止めるために調査を行った結果、子どもに朝昼晩のご飯を与えているものの、親自身に間食が食べる習慣がないため、子どもにおやつを与えないということが分かったそうです。そこで、メッセージを「離乳食は1日5回あげてください」から、「10時にご飯をあげましたか?」「4時にバナナをあげましたか?」など、より分かりやすいものにして伝えることで、実行率が確実に上がったと篭嶋副代表が語ります。

国が自分の力で立っていけるように

粉末状の微量栄養素
© UNICEF/Guatamala2011/Rolando Chews Klee
粉末状の微量栄養素。

また、中所得国であるグアテマラでは、緊急事態が発生している国と異なり、政府への働きかけも重要です。ユニセフがグアテマラで行った支援活動の中でも大きな成果を収めたのが、ユニセフが5年前から毎日実施していた、微量栄養素が入った粉末を配布する活動です。政府がその効果を認め、今年から国が予算を取って自ら配布を始めたのです。「ユニセフの仕事は、ユニセフが支援を始め、その活動をずっと実施していくことではありません。政府がユニセフが始めた活動の効果を理解し、国が自分たちの力で続けていくことができるようになることが成功なのです」と、篭嶋副代表が語ります。特にグアテマラのように支援活動に集まる資金が少なく、ある程度国がお金を持っている中所得国の場合、国がお金を出して自分の力で実施していくように働きかけ、政策の策定を手助けし、交渉していくことが大切なのです。「時間がかかる仕事ですが、その国が自分たちの力で立っていけるように支援をすることが大切なのです」(篭嶋副代表)

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世界では、年間660万人もの子どもたちが5歳の誕生日を迎えることができません。しかし、もし子どもたちの最初の1000日を守ることができれば、この現状を変えていくことができます。皆様からのご支援をよろしくお願いいたします。

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