≪信濃毎日新聞 2004年1月13日掲載≫
大地震 計り知れぬ心の傷
<イラン>
昨年12月26日、イラン南東部バムを大地震が揺るがしました。砂漠地帯にあるバムの200km四方に大きな町はありません。地震は、砂漠ではなく、まさに町の中心部を襲いました。それも早朝、人々がまだ眠っているときに。
死者およそ3万人。負傷者およそ3万人。町の建物の85%が倒壊し、家を失った人は、45,000〜75,000人と推定されています。イランの人口の半分以上は18歳未満ですから、被害者の半分以上が子どもたちであると考えられます。
隣国アフガニスタンのユニセフ事務所から到着した緊急支援担当スタッフのエザトゥラ・マジードは、「一般的に、こうした災害の際には、負傷者より死亡者の方が少ないものです。しかし今回は、地震のたて揺れの力と発生のタイミング、建物の構造の弱さなどによって、甚大な被害になったと考えられます」と話します。
人々は、文字通り茫然自失の状態にあります。家族をすべて失った人、家族の安否が明らかになった人の中には、親類や知人を頼って町を出る人も多くいます。一方、政府や支援機関が用意している避難民キャンプには、なかなか人が集まりません。残った人々は、崩れた自宅近くに立てたテントで寝起きし、がれきの中から家財道具をひっぱり出そうとしています。自分の持ち物の痕跡の近くにいた方が、“すべてを失った”と感じずにすむといいます。
ユニセフは、地震直後、医薬品や医療用具、毛布、浄水剤、水タンク、簡易発電機、テントなどの緊急支援物資を即座に届けました。現在は、状況調査を進めながら、子どもの保護、教育、水と衛生の分野において支援活動を主導しています。
1歳半のナージちゃんと8歳のサマリアちゃん、2人の娘を連れたビビジャンさんは、「16歳になる娘が亡くなりました」と話します。「ナージを医者に診せたいのですが、サマリアを置いて行けません。地震以来、私のもとから離れようとしないのです。」 サマリアちゃんは母親にしがみつくようにして、質問されても一言も話しません。「学校へ早くもどりたい?」とたずねたときに一瞬だけ、その顔に明るさがよぎったようでした。
地震で両親を失った子どもは1800人、片親を失った子どもは5,000人という推計もあります。子どもたちが心に負ったトラウマの深さは計り知れません。ユニセフは、子どもたちがレクリエーションを楽しみ、心理的な支援を行うためのテントを設置し、学校用キットを届けるなど教育の再開へ努力を続けています。しかし、町に131校あった学校は、ほぼすべてが壊滅しており、どこに仮設学校を建てられるのか、何人の教員が残っているのかなど、課題が山積しています。
バムで生き残った子どもたちは、今後長期間にわたる支援を必要としています。町の再建に時間がかかるのと同様に、子どもたちの生活を立て直すにも時間がかかります。
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