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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

<2003年1月8日掲載>

校舎改築で子どもたちを学校に呼び戻せ
<イラク>


古代から有名なあのユーフラテス河近くにあるアル・カラマ小学校。改築されたばかりの教室で、子どもたちは算数や科学の教科書に見入っています。1年前、この子どもたちが警察のじめじめした狭い留置所の中で授業を受けていたとは想像もできません。

フセイン・カディム校長先生

2年前、アル・カラマ(「威厳」という意味)小学校の校舎はあまりにひどい状態だったため、学校長のフセイン・カジムは、学校の隣にある警察所の建物を借りて、授業を開いたほうが子どもたちにとっては安全だと判断したのでした。
「学校の屋根は落ちてきそうでしたし、子どもたちの身の安全が保証できませんでした。ですから仕方なく、警察の留置所で勉強することになったんです」
バグダッドから南へ300キロのムサナ地区に小学校は位置しています。「留置所ですから、小学校の校舎には適してはいませんでした。ぎゅうぎゅう詰めで授業をしなくてはならないし、湿気が多くてじめじめとしていましたからね。でも、子どもや先生方の安全を考えると、そのほうが良かったんです」

20年に及ぶ紛争と1991年からの経済制裁で、イラクの学校の70%は早急な修繕を要する状態でした。学校の出席率も急激に落ち込み、今では4人に1人が学校に行っていません。これが中等教育になるとさらにひどくなります。
環境の悪さは、子どもたちの学習意欲を削ぎ、健康にまで害を及ぼし始めました。

修復前のアル・ルマイサ小学校の校庭 冬場は校庭が水浸しの状態になります。窓にガラスが入っていない教室には、雨が吹き込みます。言うまでもなく暖房はありません。トイレと手洗い場は壊れ、安全な飲み水にも事欠く状態なのです。
「おたふく風邪、呼吸器系疾患、下痢、胃腸病が増えましたね」と語るのは、アル・ルマイサ小学校の保健担当ファリス・カデアです。この小学校も同じムサナ地区にあります。

しかし、2002年中頃から、ムサナ地区の小学校には朗報が届くようになりました。ユニセフが9つの学校の校舎修繕を支援し始めたのです。9校合わせて2,500人の子どもたちがその恩恵を受けられるようになりました。
オランダの支援者から贈られた122,500米ドルで、ユニセフでは、学校を全面的に修復しました。教室、職員室、トイレ、水飲み場、そのほかの必須施設が修復されました。

アル・ルマイサ小学校の修復を終えた教室で ユニセフの調査によると、修復された学校の出席率は35%も高いことが分かっています。12歳のナビール・アリドはそういう生徒の1人です。
「昔に比べて、学校に来るのが楽しくなったよ。だからきちんと来るし、休まない」ナビールの夢はパイロットになることですが、たぶん、お父さんの跡をついで農業に従事することになるだろうと思っています。
「水飲み場はあるし、校庭でサッカーもできるようになった」とナビール。アル・ルマイサ小学校では、校庭が修復されたので、運動も遊びも思う存分できるようになったのです。

バクダッドから35キロの所にあるアル・マダーイン地区では、6つの小学校、2,200人の子どもや先生方が、84,500米ドル相当の改修工事の完成を待っています。これもユニセフのオランダ国内委員会に寄せられた募金で行われている修復です。
「きれいになる学校がすごく楽しみです」と語るのはアーメッド・カリーム(9歳)です。じめじめして汚れた教室を直す工事が始まっているのです。水浸しの校庭や、壊れて汚れたトイレの修繕も行われています。
「先生たちによると、あと45日で、校舎がきれいになり、僕たちもきれいな教室で勉強できるようになるらしいよ」とアーメッドは語ります。彼の得意科目は算数。夢はエンジニアになることです。

教室が修繕されるのを心待ちにするアーメッド・カリーム 校舎の修繕は楽しみなことですが、すべてが順調というわけでもありません。 10歳になるラワ・フセインは、友人のラシャに会えなくて寂しい思いをしています。ラシャは、家事に専念して弟たちの面倒を見てほしいという両親の希望で、学校に来れなくなってしまったのです。
「ラシャは頭が良くて成績も良かったのに…。でも、バヤン先生は、両親を説得して、彼女が学校に通えるようにしてみせるって言ってたわ」と細身で顔色のさえないラワは説明します。
ラワの母親は3カ月前に、お産の途中で亡くなったばかり。ラワ自身も、そのうち学校に通えなくなるのではないかと心配しているのです。イラクの女の子たち3人に1人がそうなるのと同じように…。

学校を修繕することに加えて、ユニセフでは、学校に必要な備品を提供したり、教育担当官の能力開発を促進して学校制度を改善したり、教師の研修を支援したりしています。教師の給料はここでは1カ月に3〜5米ドルです。

女の子にとっては教育のハードルが高い ユニセフは、学校を中途退学した若者、特に女の子たちの学校外教育をも支援しています。
小学校5年生のサジャ・ハイダーは、改築を終えたムサナ地区のスマー小学校に戻っています。彼女は両親の希望で、1年間、家で家事を手伝って過ごし、学校に来ていなかったのです。
「悲しかったわ、とても。特に友達が学校に行っているのを見て、希望も何もなくなってしまった感じだった。お父さんは、読み書きができれば、もうそれで充分だと言ってました」11歳になるサジャが学校に戻れるように、両親を説得してくれたのは校長先生でした。

「いつも学校の先生になりたいと思っていたわ。教壇に立って、みんなの前で黒板を指しながら、子どもたちに教えるの」とサジャは言います。
ユニセフの支援があるからこそ、サジャとほかのイラクの子どもたちは、学校を続け、素敵な未来を描くことができるのです。

教室が修繕されるのを心待ちにするアーメッド・カリーム ザラ・アリの従姉妹たちはみんな学校を卒業する前に中途退学してしまいました。でも、12歳になる人なつっこいザラは、バグダッドから35キロに位置するアル・マダーイン地区の小学校アル・ナジューム(星の意味)で勉強を続けられるようがんばっています。勉強のほかに、ザラは2歳になる双子の兄妹の面倒を見て、家族のためにお料理を作っています。イラクの女の子の3人に1人は、お母さんが家計を助けるために働きに出ると、家で家事に専念するために、学校を中途退学してしまうのです。
ユニセフは、ザラが通っている学校の教室や職員室を改築し、校庭が水浸しにならないように校庭を直し、トイレや水飲み場を設置しています。調査によると、修繕を施した学校では、出席率が35%も高いことがわかっています。1997年以来、ユニセフはイラクの南部と中央部で400校以上を修復しています。そうすることで、300,000人以上のイラクの子どもたちが学校をやめずにすんでいるのです。

バグダッド2002年12月18日発

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