<2003年9月29日掲載>
「撃て!応戦しろ!撃て!」
ゲート3、カンパニーCの子ども兵士達と話して…
<リベリア>
私たちは止まりました。10代の男の子がAK‐47を手に近づいてきます。私たちは微笑みかけ、車のウィンドウを下げました。「どこに行くんだ?」少年がたずねました。「ブカナンに行くんだ。ユニセフから来たんだよ。そこの子どもたちを助けにね」
「ユニセフ…」彼は運転席をチェックしながらゆっくりと言いました。意図的ではなく気にとめないようすで。「ユニセフ」彼は繰り返しました。「ユニセフ」彼はじっと見つめたまま何も言わず、私たちが行っていいかどうかも言いません。彼は車のウィンドウに手をかけていました。少し途方に暮れて、寂しそうに、そしてつまらなそうに。気まずい沈黙の後、私たちが移動すべきかこのままここにいるべきか何も指示がなかったので、「ここで何やってるんだい?」と尋ねました。少年は一瞬我に返ったように「ぼく?ぼくがどうしてるかだって?すごく疲れているよ。食べ物がほしい。すごくお腹がすいてるんだ。食べ物がなくてね。」
私たちは反政府軍であるリベリア民主運動(MODEL)のゲート3のチェックポイントにいました。そこはカンパニーCの10人の少年が配置されており、彼らは紛争の時に使われる名前で呼ばれたがっていました。“2トントラブル”、“ルシファー司令官”、“プリンス”、“MODELベイビー”などです。しかし、しばらくすると彼らは本名を、それもかなりありふれた名前を言い始めました。パトリック、ミカエル、アルバート、ジェームス…
「おれたちはリベリア民主運動の特殊部隊なんだ。撃って、応戦して、撃って」カンパニーCの指揮官プリンスは、言い切ります。「もう1年間以上も戦っているんだ。あの悪いテイラーを退陣させるためにね」「でもそうしたら、もう君達は勝ったんじゃないか。テイラーはリベリアにはいないよ。君たちは戦争を止められるよ」と私たちは言いました。
「ああ、多分そうだね。」少しの沈黙の後、まっすぐ見てプリンスは言いました。なんだかその理屈に少し戸惑ったようでした。「でも、どちらにしろおれたちは戦争が終わるまでここにいろと命令を受けたんだ。あの悪党テイラーと悪の政府軍からリベリアとリベリア人を解放するんだ!」
この時までに残りのカンパニーCが私たちの周りに集まってきていたので、私たちはもうすでに車から降りていました。彼らは少し話をして2本の幹線道路をまたぐみすぼらしい検問所を示す薄いボロボロの線を守る単調な仕事を忘れたがっていました。そして私のカメラを見て、自分たちの写真を撮ってほしがっていました。
「君たちは何歳なの?」とたずねると「おれたちは立派なおとなだよ!」とAK‐47を振りかざして“2トントラブル”が言いました。それは威嚇というよりも自己満足のように見えました。「立派なおとなだってことはわかってるけど、何歳なの?」少しの沈黙の後、26、22、21、20という数字が出てきました。少年達の瞳は年のわりには非情で、絶望的にも見えましたが、実際には14〜17歳ほどに見えました。“MODELベイビー”だけは正直に答えてくれました。「ぼくは17歳になるよ。2年前まで学校に通っていたけど、戦争がはじまって戦いに連れて来られたんだ。」
リベリアにはパトリック、ミカエル、アルバート、ジェームズのような子どもたちがおよそ1万5000人います。彼らはリベリアの少年兵です。彼らは政府軍、リベリア和解・民主連合(LURD)の反政府軍、リベリア民主運動の反政府軍で戦っています。大部分が戦争中の軍隊から無理やり兵士として招集されました。子どもの兵士達は貧しい家庭や避難民出身である場合が多く、教育を受けていない子どもや中途退学者もいます。他に、村で捕らえられたり、家族が死の恐怖に脅されたりして、子どもたちは入隊します。そして、しばしば子どもの兵士は麻薬によって勇敢になり、感覚が鈍って服従するようになります。麻薬は口に出せないほど彼らを奮い立たせると同時に怖れや寂しさを和らげます。
「林の中で戦うってどういう感じなの?」とたずねると「林の中はどうだって?戦う?あんたバカじゃないの。すっごく大変だよ!」“プリンス”は言いました。「林の中で汚い土の上で寝るのはちっとも楽しくなんかないし、疲れるし、濡れるし、時には病気になるよ。でもおれたちには選択肢なんかない。生きるか死ぬかだ。立派なおとなだからね、全然怖くないよ!」
「林の中は大変だよ」その地位にも関わらず“ルシファー指揮官”はプリンスに指図されています。「奴らはいつもぼくたちを狙っているんだ。」彼の目は感染症で赤くなっていて、膿で皮が硬くなっていました。「林の中でぼくたちの方法で戦っているんだ。ジー川、シノエ、メリーランド、セス川や、いろんなところまで。ぼくたちはリベリアを守るためならいつでも準備ができてるよ。」彼は汚いTシャツの袖で目をぬぐいました。
「ぼくたちは何度も戦争を見てきたんだ。」“2トントラブル”は言いました。「ものすごい数の戦いだよ。ぼくたちはみんな友達を戦いでなくした。撃たれて殺されたんだ。友達が殺されたときは、ぼくもものすごく辛かったよ。でも、前に進まなきゃいけないんだ。」バンダナ、野球帽(時には女性用のカツラ)を頭に、Tシャツを着て(デトロイトレッドウィングス、ケンタッキーワイルドキャッツ、ボブ・マーリーの柄)、弾丸、十字架、歯、その他のお守りを首にまとっています。「このぼくの首回りの弾丸はどんな敵の弾丸もはねつけるんだ。」“MODELベイビー”は静かに言いました。弾丸のお守りを指でいじりながら少年は真剣な顔つきで話しました。しかし彼の声は自信なさげで、彼自身に対しても説得力をもっていないようでした。多分彼は同じお守りを持って、撃たれた友人のことを考えていたのでしょう。
カンパニーCの少年たちはそれまで丁寧に質問に答えていましたが、まだ写真を撮ってほしがっていました。「おれが指揮官だ。だからおれはすべての写真にいなければならない」赤いバンダナを頭に巻いたプリンスは言いました。「おれたち3人がまず先だ。」彼は命令します。「その次が君たち2人、そして残りだ」私たちは写真をとりました。デジタルカメラだったので少年たちの姿がスクリーンに映し出されると、その規律や命令は一気に崩れました。「これぼくだよ!ぼくだよ!」カメラの小さなスクリーンを指さします。みんなが笑い、みんなが写真に収められています。少年たちの騒ぎを聞いて、強くて口の悪い反政府軍の少女も林の中から出てきて、写真を撮るように求めました。
突然、後ろから大声が聞こえました。兵士たちは10分から15分の間完全に検問所を忘れていました。カンパニーCの10番目のメンバーである副司令官が壊れた自転車で現れました。プリンスの命令で少年2人はすばやく走っていき、副司令官が通れるようにロープを下げました。その副司令官はすぐにグループに入り、自分の写真も撮るように求めました。
今年6月〜8月の紛争激化の前に(リベリアでは、第1次世界大戦、第2次世界大戦、第3次世界大戦として知られています)、ユニセフは兵士や性の奴隷として約1万5000人の子どもが紛争に巻き込まれていると推計しました。2003年6月には子どもの強制的な徴兵とレイプや性的暴力に関して、急激な深刻化が予測されました。ある武装グループは70%までが子ども兵士であると信じられており、そのうち80%が武装しています。
「もし司令官がすべてが終わった、平和だと言ったらどうする?君は何をする?」長い沈黙の後、“プリンス”が言いました。「おれが何をするかって?学校へ行きたいよ。先生になりたい。」他の兵士はふき出してお互いの背中を叩き合いながら笑い出しました。初めて“プリンス”が尊敬の念—なんらかの“信頼”−を失ったように見えました。
「おかしくなんかない!」プリンスはすぐにカンパニーCでの権威を回復しようと言いました。「先生になる人は賢い人だ」みんなは聞き入りました。おそらくプリンスは正しかったからでしょう。少年10人のうち、9人が学校へかえりたいと言います。“ルシファー司令官”だけが兵士のままでいたいと言いました。なぜ彼らは学校へ行きたいのでしょう。「機械工になるために、運転手になるために、政府になるために、教師になるために、防衛大臣になるために、NGOに入ってリベリアを発展させるために学びたい!」と彼らは言います。
ユニセフ・リベリア事務所はリベリアの子どもの保護活動のワーキンググループの議長を務めています。その団体はリベリアにおける子どもの保護の問題に組織的に効果的なアプローチをとる活動している政府、国連、NGOから成っています。最前線で、ユニセフ・リベリア事務所の子どもの保護に関する戦略は、子どもたちを早急に、かつ無条件で武装解除することを呼びかけています。武装解除と復帰プログラムは段階的に計画されており、子どもたちを適当な段階ごとで支援しています。元子どもの兵士のための生活技術訓練や少年達のコミュニティーへの復帰を行っています。武装解除と復帰プログラムは元子どもの兵士にも心理的サポート、職業訓練、保健衛生ケア、教育を提供しています。
「去年まで学校に通っていたんだ。」“MODELベイビー”はゆっくりと静かに言います。「学校が好きだったけど、リベリア民主運動に入ってこの国のために戦わなければならなかったんだ。でも今は、戦争が終って、ぼくたちが家へ帰れるように願うよ。学校へ戻りたい。学校にいるときのほうが林の中にいるときより良いよ。」“MODELベイビー”を笑う少年は誰もいませんでした。「ここにはラジオはないよ。本当に何が起こっているかわからないんだ。」“プリンス”は言います。「多分、おれたちの上官たちが戦争が本当に終わったってことを教えに来てくれるよ」
静かな不安の中、カンパニーCのほとんどの少年たちはビニールのサンダルや切れたスニーカーの足元の地面を見ていました。しかし、MODELベイビーこと“ジェームズ”は肩越しに遠くを見ていました。その目はいつかその道を通って家に帰れるであろう誰もいない道路を見つめていました。新しい未来のために、林を抜け出して、学校へ戻れる未来のために。結局のところ、ジェームズも先生になりたいのです。“プリンス”のように。
2003年9月18日
ユニセフ西・中央アフリカ地域事務所
広報官 ケント・ページ
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