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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

<2004年6月8日信濃毎日新聞掲載>

まん延する人身売買から守る
<モルドバ>


故郷に戻り、再出発をした少女(左) 欧州の最貧国、モルドバの小さな村に住むデターニャは、16歳の時に家出をしました。アルコール中毒の両親が彼女に暴力をふるってばかりいたからです。ところが行くあてはなく、彼女の足は自然と首都・キシニョフ行きのバス乗り場へ。すると、優しそうなバスの運転手さんが「モスクワへ行けばいい仕事があるから、紹介してあげるよ」と話しかけてきました。不安でつぶれそうだった心に希望の光が差しこみ、すぐにバスへ乗りこみました。

 キシニョフへ着くとその運転手さんは、パスポートとモスクワ行きの電車の切符をくれました。明るい気持ちで列車に乗った彼女は、その1日半後、モスクワの駅で待っていた男の人に、モルドバの女の子が集まったアパートへ連れて行かれました。そして彼女は、その日から売春の仕事をさせられたのです。

 稼ぎが悪ければぶたれ、あざだらけの体になりましたが、決して休みはもらえませんでした。3回逃げようとして3回とも失敗。連れ戻されてはいつも、さらに激しい暴力を受けました。彼女自身に収入はなく、食事も満足にもらえない。そしてモスクワの寒空の下、薄着で立たされる生活が続きました。

 2年半ほどたったころ、デターニャは妊娠。「子どもだけは守りたい。」という一心で、ロシア人の友達を頼ってかくまってもらい、自分だけで出産しました。しかし、子どもは出生届けなしに国籍をもらえないので、彼女は勇気を出してモルドバの大使館に行きました。そこで身分が確認され、保護団体によってモルドバへ帰国できました。

 故郷の村の人々は、父親の分からない子を連れて戻ってきたデターニャに冷たく接します。でも、彼女はくじけずに、ユニセフが支援するリハビリセンターで傷ついた心のリハビリを受けながら、奨学金を頼りに学校へ通っています。いつかは専門学校へ行き、定職に就くのが夢なのです。

 人身売買は一種のウィルスのようなものです。抵抗力が最も弱い子どもや女性に狙いをつけて進化し、世界的な規模で蔓延しています。一番の“特効薬“は社会全体が人身売買への問題意識を常に高く持ち、子どもを守っていくことです。

 ユニセフはそうした社会の手助けを、積極的に行っています。デターニャがいるようなリハビリセンターや被害者が駆け込めるシェルター(避難所)の支援、政府と一緒になっての法律づくり、国際的な協力の呼びかけなどで、人身売買の予防や被害者のケアに貢献しています。

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