<2003年10月3日掲載>
女の子が学校に通うのに必要なこと
<モロッコ>
アイチャはモロッコに住む11歳の少女。彼女はこのたび、家族の女性たちが今まで成し遂げられなかったことをやり遂げました。そう、小学4年生に進級したのです。実際、彼女は家族の中で学校に通うことができた唯一の女の子です。
姉のメリエム(現在16歳)が小さい頃は、女の子が学校に通うのは夢のまた夢でした。貧しい上に、弟や妹の面倒を見なければならなかったからです。それに、学校に通うことができたとしても、一番近い学校までは6キロもあり、モロッコの熱い太陽のもと、歩いていかなければなりませんでした。
でも、時代は変わりました。一番小さな妹、アイチャは7歳で小学校に入学(普通より1年遅れではありますが)、順調に学校に通いつづけています。家庭の貧しさを考えると、アイチャが落第することもなく順調に学業を続けられているのは驚異的です。両親としてはアイチャに学校を続けてほしいと思っています。学校に通わせる決心も決して容易ではありませんでした。教育にはお金がかかるからです。でも、アイチャの両親は字が読めないほうがよほど高くつくと思ったのです。だからこそ、アイチャを学校に通わせる決心をしたのです。アイチャが学校を続けられるのも、彼女ひとりの努力の賜物ではありません。村中の応援があってこそ実現しているのです。
アイチャが通っている学校は、村の中にあります。彼女が入学した年、コミュニティはユニセフの支援のもと、村の水汲み場を学校内に設置しました。家の近くに水汲み場があれば、女性や子どもが水汲みにかける時間も少なくてすむからです。今までは、毎日何キロもの道のりを何度も往復して水汲みをしてきたのです。一方、女性の識字クラスの先生は、村人たちに、より近代的な料理用かまどを導入し、薪集めにかける時間を減らすようすすめました。
学校側も協力的でした。出生登録がないアイチャの入学を許可し、出生登録をしていないほかの子どもたちの登録を手伝ってくれたのです。
アイチャの家族は8人。とても貧しい家庭です。痩せた土地を耕し、不安定な収入で生活しています。アイチャは、モロッコ政府と世界銀行の支援のおかげで、教材と教科書がつまった通学かばんを受け取ることができました。飢饉が続いたここ数年は、政府と世界食糧計画イニシアチブを通じて、一家には緊急用の乾燥食糧も提供されました。
また、政府が行っている別のプログラムを通して、学校では給食が行われるようになりました。始めは、学校の砂ぼこりが舞う校庭でサンドイッチが配られました。今はもっと充実した食事です。おかげで、アイチャのお腹が鳴ることはなくなりました。教室でも集中力を欠くことがありません。
村の学校に女性の先生がきたことで、両親も安心してアイチャを学校に通わせることができるようになりました。学校に男女別々のトイレが設置されたのも、両親がアイチャが学校に行くことを認めた大きな要素でした。
夢と決意
学校が「子どもにやさしい」環境を作り出しているとは言え(安全、清潔、活気に満ちた学校)、アイチャの教育を妨げる原因がないわけではありません。今年は、長らく待ち望んでいた雨が大地を潤し、畑を緑に変えています。モロッコにとっては嬉しいニュースなのですが、アイチャにとっては心配なことでもあります。というのも、畑で労働力が必要になり、アイチャが駆り出される可能性があるからです。畑仕事をしたり、家事をしたり、小さな子どもたちの面倒を見る必要性も出てきます。友達の多くがすでに教室から姿を消しました。裕福な家族のもとで働くために、大きな都市に出され、村を出て行った女の子たちもいます。
アイチャは小学校を卒業したいと思っています。雑事をこなすために、今より早く起きなければいけないとしても、卒業だけはしたいと思っているのです。教育を受けることによって夢が持てるようになったからです。朝から晩まで働いているお母さんやお姉さんよりもいい生活がしたい。そう思うようになったのです。モロッコでは、結婚が許される最少年齢は15歳。彼女とあまり年が違わない叔母が最初の子どもの出産で死亡したのを覚えています。でも、学校に行くようになって、違う生き方があるのだというのが分かりました。アイチャは、結婚を遅らせて、できれば先生になりたいと思っています。
小学校はアイチャに夢以上のものも与えてくれました。コミュニティ全体が、男の子と女の子の教育に向けて一丸となってまとまってくれたのです。おかげで、おとなたちも学校に来て勉強するようになりました。
学校の教室も、夜にはおとなの識字クラスに。そして、午後にはお母さんたちの機織場となっています。学校の生徒には保健サービスも提供されています。学校の先生は、ユニセフ、モロッコの保健省、教育省が実施している保健ケアの研修を受け、子どもたちの衛生環境をモニターし、病気の徴候がないかどうか監視し、親たちには20キロほど離れた保健センターに子どもたちを連れて行くよう指導しています。
アイチャの夢が実現するまでにはまだまだ道のりが遠い。でも、その長い道のりをアイチャはひとりで歩んでいるわけではありません。家族もコミュニティも、モロッコ政府やユニセフ、そのほかパートナーたちと一緒になって、女の子、男の子両方にとって最適な学習環境を作れるよう努力しています。その基本となるコツは…「安全できれいな学校を建てる。教育、水、衛生、保健ケアをこれに加える。そして最後に子どもたちを入れる」ということなのです。
2003年9月10日
ユニセフ・ラバト事務所(モロッコ)
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