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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

<2001年7月16日>

蚊帳が守る子どもたちの幸せ
<モザンビーク>

「子どもたちが安全でありさえすれば、私は満足です。私たちおとなはマラリアと戦うことができます。でも子どもたちは体力がないので、死んでしまうかもしれません」

蚊帳を手にするアデリノとペドリト6歳のアデリノと、そのいとこで同じ6歳のペドリトにとっての「家」とは、一時居住センターにひしめきあうテントのひとつ。そして「学校」は、軍から支給されたテントで、ふつうの部屋ほどの広さに30人の子どもたちが詰めこまれます。それでも2人は幸せを感じています。

なぜでしょう? 2人は今、真新しい蚊帳を持っているからです。蚊帳を持つのはもちろん、見るのも生まれて初めてです。「もう蚊に刺されなくてすむ」アデリノは力強く言います。彼はペドリトといっしょにベッドによじのぼり、蚊が侵入しないようマットの下に蚊帳のネットのすそをたくしこむやりかたを実演してくれました。「これでもう、悪い蚊は入ってこないんだ!」ペドリトもうなずきます。アデリノの母親で、ドナ・マリー・トマスはうれしそうに子どもたちを見守っています。4か月前に蚊帳が手に入ってからというもの、家族をマラリアから守ってくれるこの「魔法」をすっかり頼りにしています。

「子どもたちが安全でありさえすれば、私は満足です。私たちおとなはマラリアと戦うことができます。でも子どもたちは体力がないので、死んでしまうかもしれません」45歳のドナは夫と離婚し、全部で5人の子どもを育てています。蚊帳はひとつしかないので、そのなかで寝られるのは末の2人といとこのペドリトだけです。

4か月前、モザンビーク中央部を襲った集中豪雨は、農地を水浸しにし、作物と家畜に壊滅的な被害を与えました。稲作を営むドナ・マリー・トマスと子どもたちは、大勢の村人とともに住み慣れた家を後にしました。

2001年のこの豪雨は、前年よりはひどくなかったとはいえ、それでも50万もの人々が家を失いました。そのうち20万人は臨時シェルターや一時居住センターに身を寄せています。ザンベジア州の州都ケリマネから数キロのところにあるサンペネもそのひとつで、アデリノとペドリトもここで暮らしています。離散していた避難民が、一時的にせよこうしたシェルターに集結した機会を利用し、モザンビーク政府はユニセフをはじめとする国際機関の支援を受けながら、殺虫剤処理をした蚊帳の普及などマラリア予防の手段を講じています。

アフリカのサハラ以南はたいていそうですが、モザンビークでも死因の1位はマラリアです。1年間に病院を訪れる外来患者の40%、また入院する乳幼児の60%はマラリアが原因なので、マラリアはこの国の保健における最大の課題と言えます。モザンビークを構成する11の州で人口が最大のザンベジア州でも、マラリアが猛威をふるっています。亜熱帯性の気候に加えて、ザンベジ川の支流が何本も蛇行する地形は、熱帯マラリアを媒介するアノフェレスという蚊の絶好の住みかなのです。人口350万人のザンベジア州の病院や診療所では、昨年だけで45万3,000人のマラリア患者を受け入れました。

1999年、政府が全国規模のマラリア追放作戦を開始したときも、ザンベジア州は重点地域になっていました。この作戦には2つの目的があります。ひとつは殺虫剤処理をした蚊帳を普及させること、そしてもうひとつは蚊とマラリアに関する知識を広め、コミュニティレベルで治療や薬を利用しやすくすることです。

ユニセフはこの取り組みで指導的な役割を果たしていますが、とくに重点を置いているのは、妊娠中や授乳期の女性と5歳以下の子どもをマラリアから守り、また治療することです。「マラリアを発病した子どもは、24時間以内に治療を開始しないと死んでしまう」と語るのは、ユニセフと連携して州の保健局で働くニコラス・セロン医師です。

蚊帳を使うことを勧めるユニセフのポスター昨年(2000年)ユニセフは、モザンビーク政府に12万個の蚊帳と治療キットを提供しました。今年は5万個の蚊帳を提供し、ワールド・ビジョンをはじめとするNGOの協力で配布される予定です。アデリノとペドリトに安らかな眠りと幸福をもたらしているのは、こうして提供された蚊帳のひとつなのです。

しかし無償で提供できる蚊帳の数には限りがあります。アデリノの母親のドナ・マリー・トマスや他の兄弟たちには蚊帳がありません。サンペネをはじめ、60か所にある一時居住キャンプの家族全員に、ひとつずつ蚊帳が行き渡るわけではないのです。ユニセフはすでに保健省と協力して、地元の商店などで蚊帳が手ごろな価格で買えるようにしています。ザンベジア州の場合、蚊帳はひとつ6万メティカル(3ドル)で売られています。地元の多くの住民にとって安いとはいえない値段ですが、長持ちする品をなるべく安く提供するためには、この価格がぎりぎりです。

またユニセフは保健省やNGOと協力して、出来るだけ多くの人が蚊帳を使えるよう、信用制度や地域貯蓄ファンド、妊娠中の女性や孤児への助成金といった体制作りも行なっています。

モザンビーク政府のマラリア追放作戦は、「ひとりの子どもにひとつの蚊帳を」をスローガンに掲げています。これを実現するのは生易しいことではありません。しかしユニセフは、さまざまな関係者がこの作戦を積極的に支援し、努力を重ねることで、目標を達成できると信じています。

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