ポリオ根絶まであと一息
<パキスタン>
「さぁ、早く。もうすぐそこですから」と19歳のファラナは笑います。パキスタン北西部の辺境にある彼女の村へ続く道は、ぬかるんで足場が悪くなっています。後方には、アフガニスタンとの国境になっている山々が午後の熱気にぼうっとゆらめいて見えます。
村の子どもたちが寄ってきます。好奇心に目を輝かせた子どもたちは、すべったり、転びそうになったりしている私達を指さしてけらけらと笑います。ポリオの予防接種状況の調査に訪れたチームをガイドするファラナは、まだあどけない少女の顔を残しています。しかし、彼女に課された責任は大きなものです。パキスタンにおけるポリオ根絶プログラムに参加する予防接種員として、彼女は、朝6時から、険しい山道を、肩にワクチンボックスを担いで、休みなく歩きまわっているのです。ワクチンボックスには母と子のイラストが描かれています。パキスタンの予防接種プログラムのシンボルマークです。中には、ガラスの容器に保存された大切な経口ポリオワクチンがおさめられています。今日、ファラナは225人の子どもたちひとりひとりに、このワクチンを2滴ずつ与えるのです。
難しい課題の数々
この北西部の辺境地でポリオの予防接種員をすることは、大変なことです。なぜなら、この地域は、世界で野生株ポリオウィルスが残された5つの地域のひとつだからです。ここでは、年8回、ポリオの予防接種キャンペーンが実施されます。それぞれのキャンペーン期間は3日間で、ファラナや同僚の予防接種員達は、キャンペーンのたびに、熱い太陽の下、何マイルもの遠い道のりを歩いてまわり、100件以上の家を訪れ、時にはキャンペーンに好意的でない人びとからのいくつもの質問に答えるのです。仕事でどんな状況に出会おうとも、ファラナは、忍耐強くならなければなりません。それだけではなく、うまく懐柔し、粘り強く説得し続けなければなりません。彼女の肩には、コミュニティの信頼とポリオの世界的根絶がかかっているのです。
ポリオは、先進工業国ではもう過去の悪夢にすぎません。しかし、ファラナの暮らすパキスタン北西部のマルデンでは、2003年の2月にも、ひとりの子どもがポリオにかかり、足の麻痺という障害を負いました。このことは、コミュニティ全体を震撼させ、ファラナは、今回の予防接種キャンペーンで、村の子どもをひとりも漏らさずにワクチンを与えようと決意しました。
「私は、村、そして私の友人や家族の間から、この病気をなくしたいのです。それは、どんなに暑さが激しかろうと、一軒一軒を訪問して、5歳未満のすべての子どもにポリオワクチンを届けなければならないということなのです」とファラナは話してくれました。
ファラナのような人がいなければ、ポリオはいまだに1年に35万人の子どもの四肢の自由を奪っていたことでしょう。ファラナ、そして何百万人もの保健員たちの努力により、ポリオはあと7カ国を残すところまで減ってきたのです。2003年は、10月までの間に406件の症例が報告されていますが、これらの96%は、ナイジェリア、インド、そしてパキスタンで発生しています。
世界的なポリオ根絶運動により、2005年までにポリオ感染を完全になくすことができると期待されています。しかし、今日、パキスタンは、この根絶実現の最前線にあり、ファラナたち予防接種員がしなければならないことがたくさんあります。ファラナは、そのための仕事なら何でも大歓迎と言います。
「村の家々を訪ねると、母親達は私を喜んで迎え入れてくれます。みんな私のことを知っていますから。そして、子どもにワクチンはすごくいいんですよ、と説明すれば、母親たちは、子どもたちにワクチンを与えさせてくれます。そして、6週間後にもう一度訪問して、ワクチンを再接種するのです。これが、ポリオを村や地域、そしてパキスタンから追い出すために私たちがやっている方法なのです」
しかし、すべての子どもたちを見つけ出すのはたやすいことではありません。「母親は忙しく、子どもたちは外で遊びたがるので、訪問したときに誰もいないことが多いのです。時には、せっかく眠ってくれた赤ちゃんを起こしたくないと言われたりもします。また、ワクチンが子どもによくないというような風説を聞いている時には、予防接種を恐れて子どもを連れてこないようなこともあります」とファラナは言います。
予防接種を受けさせられなかった子どもたちを記録できるように、地区の保健チームが記録用紙を提供しています。予防接種キャンペーンの期間中、彼女は、訪問したすべての家にチョークでマークをつけ、予防接種を受けた子どもの数と、後でフォローしなければならない子どもを記録します。
長い1日の終わりには、もう一度、予防接種を“しそこなった”子どもたちをつかまえに戻ります。丘の頂上にたどりつく頃、どうしてそんなに一生懸命なのかとたずねると、ファラナは、いつもの恥ずかしそうな顔からはずんだ笑顔になって、こう答えました。
「私は、私の村を誇りに思っているのです。そして、もしポリオを村から根絶することができたら、もっと誇りに思うでしょう。だって、女性が村のために何かをやり遂げることができたと、みんなにわかってもらえるから。私が、保健員として一人前に見てもらえて、近隣の人々を助けることができたら、村のほかの女の子たちだって、同じことができると思ってくれると思うのです」
2003年10月16日
マルデン、パキスタン
ユニセフ・パキスタン
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