|
|
パレスチナ自治区:教育と安全=全ての子どもが持つ権利【2012年9月18日 パレスチナ自治区発】 パエスチナ自治区に暮らす120万人の子どもたちにとって、先週の新学期の再開は、素晴らしい出来事でした。しかし、ヨルダン川西岸のヤノウン村の子どもたちにとって、学校に戻ることは、単純に喜べる出来事ではありませんでした。 「また学校で勉強できるのは嬉しいです。でも、厳しい1年になることは、もう分かっています」こう話すのは、今にも崩れそうな急な10段の階段を駆け上がって、狭い教室に向かっていたラザンちゃん(12歳)です。「私たちの学校は‘設備’が整っていません。遊ぶ場所もありませんし、コンピューター室もありません。トイレだってないんです」 日常の中の暴力
高台に位置するヤノウン村は、平屋の石造りの家がいくつも集まった集落。周囲の緑の中には、イスラエル人入植者の建物が点在しています。ヤノウン村の人々は、"暴力"が、子どもたちを含め村人の日常生活の中にあると言います。 村議会代表のラシュド・マラルさんは、入植地の方を指差し、村の境界からたった10メートル程外に出るだけのことが、どんなに危険なことかを次のように話しました。「入植者の中には、石や棒を手に、私たちの村の周辺を巡回しながら威嚇する人たちがいます。中には、私たちの家に入り込んで来る連中もいるのです。子どもたちや年配の方々は、とても脅えています。もし襲われたら、逃げ足が遅くて逃げ切れないことを知っているのです」 ラザンちゃんも、かつて他の子どもたちと一緒に、入植者の犬に襲われたことがありました。それから、通学路を不安に感じるようになりました。「また襲われるんじゃないかって、いつも怖いの」ラザンちゃんは、小さな声でこう話しました。 学校に辿り着くことさえ難しい現実
村で開かれた新学期を祝う式典では、パレスチナ自治政府のラミス・アル・アラミ教育大臣が、全ての子どもたちに教育の機会を提供するにあたって直面している課題を、次のように訴えました。「今年、私たちは、『バック・トゥ・スクール(学校へ戻ろう)』キャンペーンを、パレスチナ自治区で最も小さく最も貧しいこの学校でスタートしました。子どもたちには教育を受ける権利があること、私たちはそれを守る責任があることを国際社会に思い出してほしかったのです」 ヤノウンは、ヨルダン川西岸のイスラエルが統治するC地区に位置しています。この場所では、原則、パレスチナ人による建造物の建設は認められています。しかし、実際には、その許可を得ることは大変難しい状態です。このため、村の人々は、新しい家を建てたり、この手狭な学校に新たな教室を作ったりすることはできないと話します。ヤノウン村では、2002年には17世帯が暮らしていましたが、2012年には、その半数以下の7世帯にまで減少しました。 ヤノウン村の学校では、現在、9人の子どもたちが狭い二つの教室で、身を寄せ合って勉強しています。二つの異なる学年の子どもたちが、一つの教室で学ばざるを得ない状況です。このため、本来ならばこの学校に通うはずだった32人の子どもたちは、他の村の学校に通っています。このため、通学の際に、暴力に巻き込まれるというリスクにさらされているのです。 教育と安全=全ての子どもが持つ権利ユニセフは、子どもたちの安全と教育を受ける権利を守るため、日本政府の支援を受けて、子どもたちが安全に学校に通えるよう、スクールバスを提供しました。また、子どもたちの安全を確保するため、地元のボランティアの方々が通学する子どもたちに同伴し、入植者からの嫌がらせや暴力を抑止します。 「教育を受ける権利をはじめとする子どもたちの権利を守るために果たされているユニセフの主導的な役割に、大変感謝しております」「日本政府ならびに日本国民は、パレスチナの子どもたちの教育を受ける権利を守るために、これからも尽力してまいります」 山本英明対パレスチナ暫定自治政府日本国政府代表事務所副所長は、こう話しました。 「たとえどこに住んでいようと、パレスチナ自治区の全ての子どもたちには、安全な環境の中で学ぶ権利があります。これは、子どもたちの権利であり、私たちには、この権利を守る共同の義務があるのです」「最も厳しい立場の子どもたちを含む全ての子どもたちが、質の高い教育を受けられる環境を整えることは、私たちの最優先課題でなければなりません。私たちに許された時間はありません。猶予はありません。子どもたちの将来は、今、作られているのですから」(ジーン = ゴッホ パレスチナ自治区特別代表) |