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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

ガザの下水池—見えざる「死の罠」—

【2012年11月2日 パレスチナ自治区発】

© UNICEF occupied Palestinian territory/2012/El Baba
ガザ市北部郊外のサフタウィで、下水池の上に浮かぶゴミの山から、ペットボトルや金属など売れそうな物を集める子どもたち。

鏡のように滑らかな水面に低く飛び回る白い鳥たち。16歳のアメッド君はその光景が大好きです。「ここには、ガザの他の場所では見られない鳥たちがいるんだ。鳥のさえずりが聞こえるし、運が良ければ一羽捕まえて家に持って帰って、鳴かせることもできるよ。ここは、僕が今まで見た中で、一番綺麗な場所なんだ」とアメッド君。しかし、まわりのごみの山から明らかなように、この池は下水池(下水を溜めた池)なのです。

ベイト・ラヒヤにあるこの下水処理場は、ガザ地区北部の人口密集地から200メートルしか離れていません。周囲に漂う悪臭にもかかわらず、この地区で唯一の広場であること、様々な鳥たちが集まってくることから、子どもたちにとって、とても魅力的な遊び場になっています。

この異様な光景、一見安全そうに見える場所ですが、実はとても危険なところです。池の上に浮かぶゴミの層は鳥の重さには耐えられても、子どもたちの体重を支えることはできません。今年の2月には、鳥を追いかけていた11歳の男の子が、下水池に落ちて命を落としています。昨年12月にも、2歳と4歳の兄弟2人がガザ地区南の別の下水池で溺死しました。

2ヵ月内に3人の子どもが下水池で死亡

© UNICEF occupied Palestinian territory/2012/El Baba
フェンスもない下水池のすぐ隣にも人が暮らしている。ユニセフは、他人道支援団体と共に、ガザ地区のこうした地域の子どもたちを守るために支援している。

ガザ地区全体で、子どもたちの命を脅かす汚水槽が、53個もあると言われています。3分の1近くの世帯が下水道設備を持たないため、汚水槽が散在しているのです。2010年6月以降、水と衛生設備全体の改良・拡張のための素材や部品の輸入量は増加していますが、イスラエルの許可が下りないという理由で、小規模、中規模のプロジェクトは実施に至っていないのです。

子どもたちの命を守るため、ユニセフは水、衛生、保健(WASH)クラスターのメンバーである人道支援機関と共に合同で対策を発表しました。日本政府の支援を受けて、ユニセフは最も危険な下水池の16の地域に住む子どもたちとその家族に対して、意識向上キャンペーンを実施しました。

危険な下水池のほとりでごみを拾う子どもたち

© UNICEF occupied Palestinian territory/2012/El Baba
子どもたちのために下水池の危険性について啓発する看板。

ガザ地区のユニセフ関係者、および青少年センターに所属する10代のボランティアたちは、自分たちのコミュニティ内で啓蒙活動を行うにあたり、ワークショップに参加しました。ユニセフは、ガザ市北部郊外のサフタウィという貧困地域を含む、住宅のすぐそばに危険な下水池がある場所に警告板を立てました。

「今年6月には、親の目が離れた隙に3歳の子どもが家から外に出て、溺死しそうになったんだ」とフサン・ハッサンさんは言います。彼自身、18人の子どもを持つ父親で、彼の家も下水池からわずか20メートルのところにあります。

ハッサンさんと話している間も、子どもたちは池の反対側にある泥水近くの危険なごみの山の上を歩いています。彼の家族は、他の家との間の軒先の仮小屋に住み、売れそうな物ならなんでも拾って、生計を立てています。ハッサンさんは「この悪臭の中に暮らすのも、蚊にさされるのも大変だけれど、自分の家から数メートル先で、自分の子どもが下水池に落ちて死ぬ危険があると知りながら生活するほうがもっと難しい」と呟きました。

人道支援事業の一環として、11の下水池が柵で囲まれることになっています。サフタウィにある下水池もその1つですが、これはあくまでも一時的な解決策です。ハッサンさんは言います。「住宅地の真ん中に下水池がある状態を放置してはいけないと思う。汚水が溢れ出て、家の中まで入ってくることもある。子どもたちのために、本物の汚水処理設備を作る許可が必要だよ」

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