<2004年7月20日信濃毎日新聞掲載>
放置された子の成長助ける
<ロシア>
モスクワ郊外、住む人のなくうち捨てられたアパート−。その中から聞こえる奇妙な音を不審に思った近所の人が警察に通報するまで、4歳のサブリナはそこでたったひとり、2昼夜を過ごしていました。彼女はお腹をすかせ、寒さと助けを求めて力なく泣いていたのです。
サブリナの父親は、彼女が生まれてすぐ家出。母親は酒におぼれ、2日間娘を放置したあげく、やはり姿を消しました。昨年秋のことです。医療、心理面で緊急な助けが必要だったサブリナは、そのすべてをモスクワ市内の「オートラドノエ未成年者社会リハビリセンター」で受けました。
1997年に設立された同センターは、これまでに2千人以上の子どもや青少年を支援してきました。ユニセフは、このセンターとともに活動し、多くの成果を挙げています。現在、ここで支援を受けているのは3歳から18歳の合わせて150人。いずれも悲しい境遇の子どもたちです。
「サブリナは望まれて生まれた子どもではありませんでした」と、センターの心理学者は話しています。母親に放置された彼女は年齢相応に発達できていませんでした。4歳半を過ぎてもスプーンやトイレの使い方も身につけていない、言葉はわかってもしゃべろうとしない−といったように。スタッフのナタリヤ・ヴラソバはその様子を「まるで狼に育てられた少女のよう」と表現しました。
最初の数カ月、スタッフのどんな働きかけにも応じなかったサブリナのケアはとても困難でした。しかし、スタッフはあきらめず粘り強く彼女に向き合いました。
やがてサブリナは話をし始めました。大声を出したり、物をわしづかみにする以外に感情を表す方法を見つけたサブリナに、新しい世界が開けたようです。それからは楽しみながら食事の仕方を学び、お絵かきやダンスが大好きになりました。1人で部屋の隅に縮こまらなくなり、ほかの子と遊んだり、センターを訪れる人々と目を合わせられるようにもなりました。
「“社会順応”のプロセスが始まったのです」ナタリヤは言います。ただ、人間の成長にとても重要な乳幼児期を失ったサブリナのリハビリには、まだ長い時間がかかるそうです。「彼女の成長を助けるために、われわれ専門家がやるべきことはたくさんあります」というナタリヤたちの努力はこの先も続きます。これから成長を続け、それぞれの人生を生きていくサブリナたちにとって、センターのスタッフたちはとても大きな存在です。
|トップページへ|コーナートップへ戻る|先頭に戻る|