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<<2004年2月24日 信濃毎日新聞掲載>> 出生登録ないロマ人の子
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予防接種を受ける5歳の男の子 |
セルビア・モンテネグロの首都ベオグラードの北西70キロにあるパリュヴィ村。 一見、ごく普通の村のように見えます。けれども、ここはジプシーと呼ばれることもあるロマ人居住区。多くの子どもたちは出生登録されていないため、公式に存在しません。公式な統計によると、セルビア人の予防接種率は約90%。しかし、この数字は出生登録書と医療記録がある子どもだけの数字であり、ロマ人の多くの子どもたちは含まれていません。
「孫たちがいつ生まれたのか知らないんです。ベオグラードで生まれたことは知っているんですが。ただ、今まで予防接種を受けていないのは知っています」5人の孫を持つドラガナさんは、孫たちの出生証明書の提示を求められたとき、お医者さんにこう言いました。息子の代わりに孫の面倒をみているドラガナさんの家は小さな部屋が二つだけ。ここに、6人のおとなと5人の子どもがに住んでいます。
医療チームは、寒い廊下に入っていくと、ゆっくりと家族が集まりました。 「注射なんか怖くないよ」と5歳のドラガンが誇らしげに言います。小さな弟たちは何が起こっているのか見たくて押し合います。
「子どもたちにとってすべてが楽しいんですよ。子どもたちは村中、家から家へずっと私たちについてきます」と小児科医のアニツァはいいます。「先週、別のロマ居住区で予防接種活動したのですが、私たちが指定した家には誰も来ませんでした。ですので、一軒一軒訪ねて家族を説得したのです」
公式の統計では、ロマ人の人口は10万8000人。しかし、多くは出生登録しておらず、実数はもっと多いと考えられます。そして大部分の子どもたちは、これまで保健などの社会サービスを受けてきませんでした。
そこで、ユニセフは、全国予防接種キャンペーンを実施する際、この取り残された子どもを探し出し予防接種することを重視しています。そのためにも重要なのが出生登録。セルビア公衆衛生研究所とユニセフは、ロマ人を中心に14歳以下の1万446人の子どもの出生を登録しました。登録したうち予防接種を受けたことがあったのは3人に1人だけ。ユニセフは統計からもれてしまった子どもたちにも手をさしのべることができるよう今後も活動を続けます。