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<2001年7月2日信濃毎日新聞夕刊掲載> 遊牧民のための学校プロジェクト(その2)
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最近学校を開設したある遊牧民コミュニティでは、視察に来た北コルドファン州の遊牧民教育部長の前で、誇らしげに生徒たちを行進させました。しかし生徒は全員が男子で、女子の姿はひとりも見えません。
「これはどういうことですか?」教育部長のモハメド・イドリスはたずねました。「どうしてみなさんの学校に女子生徒はいないんでしょう? 女の子も学校に入れないといけませんよ!」
コミュニティのリーダーは、みんなの前で批判されてびっくりし、口ごもりながら答えました。「それは・・・・・・こういう学校しか作っていないもので」
「え、どういうことですか?」とモハメド・イドリスは聞き返します。
「男の子の学校しか作っていないんです」リーダーは言いました。
「このやりとりを聞いていた人たちは、とても困った顔をしていました」と教育部長はあとで話していました。「私はリーダーを脇に呼んで言いました。しばらくしたらもう一度やってくるから、そのときは学校に男の子だけでなく女の子の姿を見せてもらいたいと。それから1か月後に再訪問した時には、生徒のおよそ3分の1は女の子に増えていました。私はリーダーに言いましたよ。『"男の子じゃない"生徒も入れたんですね。とてもいいことです!』」
ほとんどのコミュニティでは、いまだに女の子への教育を男の子ほど重視していません。「学校が開いた日はどんな様子でしたか?」とたずねると、コミュニティの人や教師はたいてい「父親が息子を連れて手続きに来ましたよ」と答えます。
「女の子は?」
「ああ、女の子も来ました」
教室では、教師が政府の方針に従って、男の子と女の子を分けて座らせます。ある教室では、男の子の列と女の子の列をたがいちがいに配置していました。別の教室では、男の子の席と女の子の席を左右に分けて、あいだに1メートルほど間隔を空けていました。教師によると、これはコミュニティ側の強い要望だそうです—学校に通う子どもたちは、全員が親戚関係なのですが。
生徒をいくつかのチームに分け、数学やアラビア語のテストをして競わせる教師もいますが、訪れた学校ではどこでも男女別のチームになっていました。女の子は男の子と同じチームになるのは変だし、いっしょになりたくないと話しました。
話を聞いた子どもたちは口を揃えて、男子は数学が得意だし、アラビア語は女子が得意だと話します。話を聞くことのできた唯一の女性教師、エル・ラディアだけは、女の子のほうが男の子より頭の回転が速く、能力が高いと言いました。
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子どもたちを学校から遠ざける要因はほかにもあります。遊牧民の家庭では、年長の子どもほど重労働を担っています。学校に行く前や帰ってきてから、やぎの乳をしぼり、家畜に水を飲ませに行き、帰ってくるのは暗くなってからです。女の子はその他にも、お茶を入れ、家を掃除し、水をくみ、まきを拾いに行くなど、多くの仕事を担っています。
家でも勉強しますか?という質問に、男の子の中には勉強していると答えた子もいましたが、女の子は勉強のためなど自分が自由に使える時間はあまりないようでした。
また、遊牧民の社会では、未婚の女の子が結婚する前に妊娠してしまうことは、その家族だけでなく部族全体の恥と考えられています。そのため、他部族の目に触れるような場所にある学校へ未婚の女の子を通わせようとする家族はあまりありません。ひとつの部族が支配している地域で、自分のコミュニティ内の学校に娘を通わせることにはあまり問題ありません。同じ部族の男子は、もし女の子の妊娠騒ぎがあれば自分たちの名誉も汚される、ということをわかっているからです。しかし、それらの学校もほとんどが4年生までで、その学校に行くためにはコミュニティを出なければなりません。多くの部族が、この問題を解決するためには、それぞれのコミュニティに5年生以上を教える学校をつくることだ、と訴えています。これまで遊牧民の子どもたちには寄宿学校が一般的でしたが、そうするとそれぞれの部族が寄宿学校を持つ必要が出てきます。いくつもの国際機関が支援を約束していますが、この問題には持続性などの観点から多くの課題が残されています。
女の子も教育を受け、大学に行ったり職業を持ったりすべきだ、というようなオープンな考えを持つコミュニティもあります。その違いは主にそのコミュニティのリーダーの教育レベルによるようです。しかし、女の子が適齢期(14〜15歳)になり、親類の息子から求婚されたら、それを拒むことは難しいようです。ある親は、「娘の教育が終わるまで待ってくれということはできるかもしれません。でも、相手がそれはいやだと言えばどうしようもないのです。それはとても恥ずべきことですから。」と語りました。より豊かで力を持っている遊牧民の親ほど、そうした伝統を重んじ、娘を早くに結婚させようとする傾向があるようです。
私の家には子どもが10人います。女の子が7人、男の子が3人です。いちばん上は14歳の姉で、いちばん下はまだ7か月の赤ちゃんです。私たち大きい子どもは、たくさん手伝いをします。私は洗濯や皿洗いをしたり、家を掃除したり、弟や妹の面倒を見たり、ヒツジやヤギの世話を手伝ったりします。ヒツジやヤギの子どもがちゃんと乳を飲んでいるか確かめたり、子どもに乳を全部飲まれてしまわないよう、乳首を縛ったりするのは私の仕事です。どんな風にすればいいか、お父さんが見せてくれました。とても簡単です。 私が8歳のとき、このコミュニティに学校ができるとお父さんから聞きました。ほかの4人の兄弟たちといっしょに、私も学校に通うことになりました。姉さんたちは行きませんでした。家で母さんの手伝いをしなければならないからです。でも午後の識字教室には通うことができました。 学校というのは、子どもが読み書きを学ぶところだと知っていましたが、私はそれまで一度も通ったことがありませんでした。私たちの先生は、ウム・ラワバから来た女の人で、私たちのコミュニティといっしょに生活しています。私たちが移動するときも、先生はついてきます。とてもいい先生で、私たちはたくさんのことを教わりました。私たちは基礎学校で勉強する子どもよりよくできる、と先生は言います。基礎学校はここから何キロも離れています。このコミュニティからそこに通う男の子は何人かいましたが、女の子はひとりもいませんでした。 私はいま4年生です。学校は大好きです。教育というのは科学のことで、科学というのは自分の頭を使ってたくさん考えることです。私は考えたり本を読んだりするのが好きなので、教育を続けたいです。でもこのコミュニティのなかで続けたい。遠くへ行くのはいやです。家族のそばにいたい。 私は先生やお父さん、お母さんによく聞きます。「4年生が終わったあとはどうなるの?どうすれば勉強を続けられるの?」はっきりした答えは返ってきませんが、アラーの思し召しがあればだいじょうぶ、とみんな言ってくれます。 |
ハルツーム、2002年3月11日(ユニセフ)
サラ・キャメロン