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<信濃毎日新聞 2003年12月16日掲載> 始まった遊牧民のための教育
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マリャム(六つ)は、アフリカ大陸北東部の国、スーダンの北コルドファン州エル・オベイドという砂漠地帯に住む、遊牧民の女の子です。小さな体つきからは、マリャムが1日にどれだけ多くの仕事をこなしているのか、誰も想像できないでしょう。
「日の出とともに起きて、妹のファティマと水くみ場まで歩くの。昼間は、気温が45度にもなって、水くみに2時間歩くのは暑すぎるから。薪を拾ったり、お茶を用意したり。それから、ヤギの世話もしないといけないし。母さんは食事の支度をして、私はお皿を洗うの。弟の面倒をみて、洗濯もするわ」
家事をこなしながら長い1日を過ごすマリャムですが、妹と一緒に毎日学校に通っています。学校は草ぶきの小屋で、男の子も女の子も床に座って勉強しています。
この学校で教えるオスマン先生は、教育省とユニセフが行っている研修を受け、3交替制で94人の子どもを教えています。「子どもたちは明るくて、学ぶことに一生懸命です。学校ができてから、子どもたちからいろいろな情報が家族に届くようになりました。多くの家庭がトイレをつくり、衛生習慣が広がっています。下痢も寄生虫病も減っています」
ダンボールに書かれた小さな文字が、マリャムの家のわらぶき屋根にはり付けてあります。「マリャム、ファティマとそのきょうだい」とアラビア語で書かれています。両親は読み書きができません。「私が書いたの」と、マリャムは誇らしげです。「私は全部の文字を読めるのよ」
国民の8%が遊牧で暮らすスーダンでは、読み書きできることが牛の世話に必要なのかと考えられ、学校に通っている遊牧民の男子は15%、女子は10%にとどまっています。1993年に教育省とユニセフは、遊牧民のための教育プログラムを始めました。
先生には、コミュニティーから雌牛か雌のラクダと20匹の羊、住居と食料が提供されます。遊牧民の子どもにとって、学校は学ぶだけでなく、ほかの子どもと遊ぶ唯一の場です。特に、家事に拘束されることの多い女子にとって、こうした機会は貴重です。
教育が遊牧民の文化や伝統を壊してしまうのではないかという議論もありますが、北コルドファン州教育委員会のアブダラ・モハメド・エル・ツハミ氏はこう話します。「遊牧民の子ども一人ひとりが、外の世界を知る権利を持っています。子どもたちはまず知って、それから決断するべきです。彼らはコミュニティーにたくさん貢献することができるでしょう」