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2003年10月16日掲載 洪水と暮らす人々
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デイケア・センターから数百メートル。通りに面して開口部がある建物の中で女性たちが集まっています。色鮮やかなゴザに座って、元気のいい30代半ばのフィエンさんが帳簿とローンの返金について話しています。彼女は、洪水で被害に遭った女性たちの立ち直りを支援し、子どもを学校に留まらせる少額融資事業の委員長なのです。今までに、アンジアン省とドンタップ省のデルタ地帯の女性たち800人以上がこの事業によって助けられています。
フィエンさんとその友人たちは貧しい暮らしをしています。魚の養殖をしたり、牛や豚を育てたり、稲作、縫製、自転車修理、地元の市場で野菜を売ったりして生計を立てています。昔は、毎年の洪水のせいで、利子の高いお金を借りてどうにかやりくりしてきましたが、多くの場合、子どもたちが学校を辞めざるを得なくなっていました。フィエンさんのグループでは10人の子どもたちが学校を辞めました。
少額融資事業が始まって以来、女性たちは1,000万ドン(約7,000円)を銀行から借りることができるようになりました。貸し付け条件は、子どもたちが学校に戻り、学校を辞めないことです。今までのところ成果は上々です。最高95%の子どもが学校に留まっています。さらに、女性たちの自尊心や自信が大きく育ちました。「うちでは、子ども1人をケアセンターに通わせています。魚の養殖で生計を立てているんですよ」ヒエンさんの隣に座っているホンさんが言います。
こうした会合は月に1回行われ、お金のことばかりでなく、洪水の防ぎ方や畑の耕し方、学校に子どもたちをとどめる方法、子どもの人身売買の防止方法などについて話し合います。アンジアン省はカンボジアと国境を接していて、人身売買が問題になりつつあります。女性たちは月々、お金を貯蓄するよう指導されていますが、ひとりでもローンを返すことができないと、全員で助け合って返済することになっています。ヒエンさんのグループはすでに100万ドン分のローンを返却し、次の2年間用に200万ドンを借りたところです。「できればもっとお金を借りて、このグループを大きくしたいの。ほかの多くの女性たちが参加したいと言ってきているのよ」ヒエンさんが言います。
タン・チャウ地区の人民委員会本部のダン副議長は、洪水のモニタリング担当でもあります。今までのところ洪水は大したことはなさそうです。「水位は昨年度より1メートル低く、中国、ラオス、カンボジアで豪雨がなければ、洪水の季節もうまく乗り切れるかもしれません」ダン副議長は言います。河に目をやると、土色をしたメコン河の水位が上昇しているのが見え、このまま安心していられないことは容易に想像がつきました。
高速のスピードボートに乗り込み、30分もしないうちに小さな村にたどり着きます。ぬかるんだ土手にしがみつくような形で木造の小さな家が建っています。河の上には巨大な漁獲網が吊ってあり、魚が来たときにはいつでも下ろせるようになっています。ユニセフの青い文字を冠した大型の白い船が見えてきました。プーロック・コミューンに停泊した船の前で、数十人が炎天下の中並んでいます。女性、男性、子ども。ありとあらゆる年齢の人たちです。
移動型の保健クリニックがコミューンを訪れたのは初めてのことです。ボートのエンジンが良くなり、河のこの部分の地域にも来られるようになったのです。洪水の間、こうした船がコミューンを訪れます。緊急事態のときはさらに訪問回数が増えます。洪水のない季節には、貧しい地域や遠隔地に住む人たちに医療サービスを届けます。プーロック・コミューンの人々は今まで良質の保健サービスを受けたことがありません。だからこそ、大きな期待を持ってユニセフの医療船を迎えたのです。
医療船には、診察室が1室、8床のベッドを備えた患者の部屋が4つ、婦人科診察室の部屋が1室あります。通常は医者と看護婦6人が乗り込んでいます。ユニセフは緊急医療用キットを提供しています。タン・チャウ保健サービス・センター所長のタムさんによると、医療費は無料で、一番多い病気は急性呼吸器疾患と汚い水を飲むことから起きる病気だと言います。医療船で生まれた子どもは、今までに4人います。
川岸で、ムオンさんは初めての子どもラムちゃん(8カ月)と一緒に、診察の順番を待っています。ラムちゃんはまるまると太っていて元気そうですが、ムオンさんは、目とお腹の調子が悪いので心配だと言います。「村にお医者さんと医療船が来たのは初めてです。ラムのことが少し心配で来てみました。夫は漁師で、私は稲作をしています。村は毎年洪水に見舞われて、この時期はたいがい、もっと高い位置にある避難所に逃げています」
プーロック・コミューンからもう少し下流にいったところに、ムオンさんとその一家が使っている避難所がありました。タンチャウ地区では、3,000世帯を収容できる26の洪水避難所があります。始めは、緊急事態のときにだけ使っていましたが、洪水が慢性化しているために、政府では人々にここに留まるようすすめ、こうした施設を「再定住地域」と呼ぶようになりました。人々をここに留まらせようと、政府は1家族に基礎となる床材と家用の枠組みを提供しています。費用は1,700万ドン(約11万9,000円)、10年で返却することになっています。これが洪水の被害を受けたコミュニティにとって一番いい解決方法かどうかは分かりません。人々は強制的にこの避難所に残されているという見方もあります。他方、これをきちんと計画立て、サービスの提供まで行えば、有効な代替手段とも言えます。短期間的に見れば、コミュニティの3分の1がきれいな水を手に入れられない今、緊急に必要とされているのは水と衛生面での基礎サービスです。
デムさんは未亡人で、ロン・アン・コミューン避難所に1年近く住んでいます。家は質素そのものです。壁の一部には拾ってきたラタンが貼られ、床は土のまま。デムさんが植えた花や木が入り口を飾ります。ゴミを拾ってそれをリサイクルに回すことでデムさんは生計を立てています。長女が女の子を出産したので、こうして家に滞在して子どもの面倒を見ているのです。家の中にビスケットなどを売る一角を作ったのですが、商売にはなっていません。キム・ローン(13歳)とタン・ポン(15歳)は、すでに学校を卒業し、定職はありませんが働いています。7歳のドゥィ・プンはまだ学校に行っています。家族の合計収入は1日20,000ドン(約140円)。電気がないのでケロシンに頼っていますが、水は新しくできた水道があるので大丈夫です。「ここにいられて幸せだわ。少なくともここならば家があるから…。でも、家族を養うために定職を持たないとね。家のローンが気になるのも確かよ」とデムさんは語ってくれました。
頭の上で、怪しい雲が出てきました。雷を伴った豪雨の気配です。メコン流域の人々は次なる洪水シーズンに備えなければなりません。
2003年10月9日 スー・スペンサー/広報官/ユニセフ・ベトナム事務所
ベトナム、ハノイ市