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日本ユニセフ協会
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ユニセフ・シアター・シリーズ「子どもたちの世界」
映画『キッツ先生の子供たち』
上映会・トークイベントを開催しました

【2020年1月10日  東京発】

日本ユニセフ協会は2019年11月15日(金)、映画『キッツ先生の子供たち』の上映会を東京都港区のユニセフハウスで開催しました。

©日本ユニセフ協会/2019

上映後のトークイベントの様子

子どもの権利条約が国連で採択されてから30年を迎えた2019年、日本ユニセフ協会は「子ども」を主題にした映画13作品を5月から12月にかけて連続上映する、ユニセフ・シアター・シリーズ「子どもたちの世界」と題したイベントを開催しました。第11回目となる11月15日は、「そもそも子どもとは」という視点から、教師とオランダにやってきた移民・難民の子どもたちの日々を、カメラに収めたドキュメンタリー『キッツ先生の子供たち』を上映しました。

上映後には、国立映画アーカイブ主任研究員の岡田秀則さんに、「記録映画の中の子どもたち」についてお話しいただきました。以下は、お話しいただいた内容の要約です。

 

学校の先生についての映画

© 2016 Lataster Films

『キッツ先生の子供たち』作中画像

『キッツ先生の子供たち』は、2018年、国立映画アーカイブで上映した映画です。EUフィルムデーズ 2018のオランダ代表映画でした。オランダ大使館の方々がこの作品を選ばれたのは、今オランダで起きているさまざまなことが分かる作品で、オランダ国内でも大変評判の高い作品だったからです(日本では劇場公開されていません)。

作品では、オランダにおける移民の子どもたちが描かれています。そして、子どもたちと学校、教育の姿が見える作品です。監督ご夫妻に話を伺いましたら、本作品は移民の子どもに関する作品であるということ以上に、学校の先生についての映画だと話されていました。つまり、オランダというのは多くの移民を受け入れてきましたが、新しい移民の時代が来て、先生に求められる課題が増えている。そのなかで、キッツ先生のように、粘り強く取り組んでいる先生方の努力を見せるための作品であると。

 

子どもたちの世界を味わう

© 2016 Lataster Films

『キッツ先生の子供たち』作中画像

撮影について焦点を当ててみると、特徴的なこととして音が挙げられます。通常ドキュメンタリーには、音声、音楽、ナレーションがつけられますが、本作は声のみで成り立っています。音楽は誘導的な効果を持ってしまうので、それなしに、子どもたちと先生の声だけで、教室の世界が豊かに表現されていると思いました。子どもたちの生き生きとした姿を捉えるということは、撮る側からすると、簡単なことではありません。例えば、ハヤやジョルジといった子どもたち。ハヤは、最初は泣き虫でしたが、人にちょっかいを出したりする。ジョルジも、もともと面白い子ですが、だんだんいろいろと本音が出てくる。そうした子どもたちの世界を、私たちは映画を通して味わうことができます。おそらく、この映画が作られる前には、カメラを回すまでに、非常に長い、監督と教室の間の時間があったはずです。子どもたちを撮って、子どもたちがそれを受け入れて、撮影された空間として成り立つまでは、おそらく簡単なことではないと思うのです。また、映像を選ぶ過程で、子どもたちの世界を一番よく表すシーンを考えに考え抜いて選んでいるのだと思います。ドキュメンタリーは、単純にカメラを持ち込んで、撮影して、それをまとめて完成するのではなく、非常に複雑な過程でつくられている。それが、この作品のもつ自然さを作り出しているんだと思います。

 

日本の記録映画の歴史

映画というものは、19世紀の終わりに発明されました。アーカイブで働いていると、「明治の終わりや大正時代に子どもたちが遊んでいるシーンはありますか?」という問い合わせを受けることもあります。しかし、そのような映像はほとんどありません。子役として演じている子どもはいても、初期のこの時期、子どもらしく遊んでいる子どもは撮影の対象ではなかったということが分かります。一方で、子どもたちが遊んでいる映像が見られるのは「ホームムービー」という分野です。家庭で撮られた映像を指すのですが、当初(大正の終わりごろから)は裕福な家庭が、映画のフィルムを使って撮影していました。

 

映画のなかにいない“子どもたち”

@神戸映画資料館

映画『蜂の巣の子供たち』作中画像

映画のなかに“子どもたち”が意外といないのだ、というなかで、昭和に入ると戦争の影がさしてくることもあって、国に尽くす子どもたちといった、子どもたちを型にはめていく形で、学校生活などを映すものが増えてきます。日本の映画監督で、清水宏という監督がいます。日本ユニセフ協会のシリーズでも、2019年9月に清水監督の作品『蜂の巣の子供たち』という映画を上映されていましたが、これは日本映画の中でも特徴的な、興味深い作品です。清水監督は、もともと松竹という大手の映画撮影所で活躍していました。スタジオ内で撮影し、脚本がかっちりと決まっており、役者さんに演じてもらう作品が当たり前だったこの時代に、突然、全編外でのロケーションをメインとする撮影を始め、世の中にいる普通の子どもたちを主人公にして映画を撮るようになりました。当時このようなことを実践するのは清水監督しかいませんでした。その後清水監督は松竹を辞め、戦後には、戦争孤児を引き取ってともに暮らし始め、彼らを主人公にして映画を撮るという独自の映画づくりを始めます。その第1作が『蜂の巣の子供たち』です。「蜂の巣」とは、その孤児たちの暮らしている場所の名前です。清水監督は、本作を含め3本の戦争孤児たちの映画を制作しました。生き生きとした子どもたちの姿が見え、親を失った子どもたちの気持ちが透けて見える、そういった作品です。それは当時からすると非常に型破りなことでした。

 

ありのままの子どもたちの姿をとらえるために

戦後、この状況がどう変わっていったのか、という例をご紹介したいと思います。

例えば、1947年に『こども議会』(監督:丸山章治)という作品が制作されています。東京の千駄ヶ谷あたりの小学校で撮られた作品なのですが、上から押し付けられた規則に従うのではなく、子どもたちが自分たちで考えて学校を良くしていくんだという新時代の教育の在り方を世の中に知らしめるための映画です。子どもたちも新たに権利を持つようになったという明るい内容である一方、子どもたちのぎこちない演技からは大人の作った脚本や演出に縛られていることが見え見えで、民主化の時代になっても引き続き子どもたちの姿は上から形づくられていると言わざるを得ません。

ところが、それから10年経つと、映画にも新しい時代が生まれてきます。羽仁進監督の作品『教室の子供たち』(1954年)と『絵を描く子どもたち』(1956年)は当時、非常に新鮮で面白い作品として評価されました。それまでの日本のノンフィクションは、最初から表現する内容が決まっているのが普通でした。しかし羽仁監督は、子どもたちの動きは予想ができないからいいんだという前提に立ち、小学校に入ったばかりの子どもたちが、どのように学校に慣れていくかについて、できる限りありのままの姿を描きました。カメラを前にした人間は、カメラがないときと違うのではないか、というドキュメンタリーの課題が常にありますが、羽仁監督によると、子どもたちはけっこう早々と慣れてしまったそうです。教室というのは、先生がいて、撮影のおじさんやお姉さんがいるものだという風に瞬く間に受け入れてしまい、それによって子どもたちの自然さが映画の中でも保たれたそうです。

その後も、子どもたちの自然さをとらえるための努力をした記録映画の作家の方々がいます。時枝俊江監督という方の場合は、また独自の方法論を持っていました。映画は、画と音で構成され、画に音が従属するものと考えがちですが、時枝監督は、子どもたちをとらえるには声が大切であり、はっきりしゃべっている声だけでなく、ひとりでぶつぶつつぶやいている声も、子どもたちの世界にとって大切なのだと考えました。時枝監督の映画は何げない子どもたちの声を拾うことで豊かな作品となっており、児童教育映画の専門家としてご活躍されました。

このように、日本にも、生き生きとした子どもたちをとらえようと努力した監督たちが何人もいたことを知っていただければと思います。今でも、記録映画のなかで子どもたちを取り上げた作品は多くあります。俳優の演技する映画だけをつい「映画」と考えてしまいがちですが、記録映画にはそれだけでない豊かさがあります。今後も教育の現場や、自然な子どもたちの姿をどうとらえようと世界の映画作家たちが奮闘しているかを、考えながら観ていただけると幸いです。

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ご参加いただいた皆さまからも、多くのお声を頂戴しました。

・「子ども目線でのドキュメンタリーは、初めて見たので興味深かったです。とても良い作品でした」

・「キッツ先生の子どもたちへの関わり方がとても印象的でした。先生が細やかに一人一人の子どもをよく見ていることに驚かされます。設定はオランダの移民クラスの話ですが、先生と生徒の関係、子どもとどう関わるのかについて多く語られていると感じました。キッツ先生の教師としての対応や態度に感動しました」

・「未来のある全ての子どもたちがきちんとした教育を受けられる世の中になってほしい。キッツ先生の姿、日本の先生に見てもらいたい」

・「(トークイベントを通じて)日本の映画史の中で、子どもがどう描かれてきたのかその変遷を分かりやすく学ぶことができ興味深かったです。子どもが自然に撮られていることは、実は記録史料として価値が高いと知り、目からウロコが落ちました」

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◇ユニセフ・シアター・シリーズ「子どもたちの世界」とは…

子どもの権利条約が採択されてから30年を迎えるにあたり、「子ども」を主題とした作品を5月~12月にかけて毎月連続で上映する日本ユニセフ協会主催の映画上映会です。「子どもたちの世界」を基調テーマに、「そもそも子どもとは?」「それでも生きていく子どもたち」「子どもを取り巻く世界」「女の子・女性の権利」という4つの視点から選んだドキュメンタリーとフィクション計13作品を上映しました。

※過去の上映報告についてはこちら

 

◇ 映画『キッツ先生の子供たち』

監督:ペトラ・ラタスター・ジッシュ&ペーター・ラタスター

「EUフィルムデーズ2018」上映作品

2016年 / 113 分 / オランダ

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