【2017年12月25日 東京発】
ユニセフ事務局長アンソニー・レークが12月13日(水)、ユニセフハウス(東京)で行われた「世界子供白書2017」発表会に登壇。インターネット上の危険から子どもたちを守るとともに、デジタル技術を最大限に活用するためにはどのような取り組みが必要なのか、ユニセフの提言を伝えるとともに、日本の学生たちと対話しました。
©UNICEF Japan/2017/Chizuka |
「情報通信技術のリスクと恩恵」が、世界子供白書2017のテーマです。良くも悪くもデジタル技術は、私たちの生活になくてはならないものとなっています。そうしたデジタル世界で、私たちが直面している二重の課題は、すべての子どもたちにとって、インターネット上での被害を防止するとともに、インターネットの恩恵を拡大することです。
そうするために何が必要か、ユニセフの提言を申し上げる前に、私たちが当たり前のように受けているデジタル技術の恩恵を、一人の女の子が初めて受けた時のお話を紹介させてください。
女の子の名前はワイバイ・ブカさん。カメルーン北端部に暮らしています。ワイバイさんや家族、そして多くの同級生たちは、ボコ・ハラムによる紛争で家を追われました。
ワイバイさんは、最近まで、世界で3億4600万人の若者と同じように、インターネットに接続することができませんでした。世界の若者の3人に1人は、インターネットに接続していません。そしてそうした若者の多くが、アフリカで暮らしています。
今年初め、ワイバイさんは、ConnectMySchoolというユニセフのプログラムによって、12歳になって初めてインターネットに接続することができました。インターネットは教育を受け続けるために必要であると同時に、子どもに戻れる方法でもあります。
© UNICEF/UN0143516/Prinsloo |
例えば、ワイバイさんはインターネットで「ケンケンパ」の遊び方を学びました。暴力と恐怖から逃れてきた彼女と友達は、今では校庭で楽しく遊べるようになりました。すべての子どもたちが必要とする「子ども時代」を、ワイバイさんたちは取り戻しているのです。
これはとても小さな出来事のようですが、とても大きなインパクトがあります。テクノロジーによって、遊び方を教わり、紛争で負った傷を遊びで癒しているのです。テクノロジーによって、彼らの世界はその分だけ大きくなり、将来はその分だけ明るくなるのです。なぜなら、テクノロジーは、子どもたちの学びを助け、学力と想像力を向上させるきっかけとなるからです。
© UNICEF/UN045976/Gilbertson VII Photo |
デジタル技術はこのように大きな可能性を秘めていますが、その一方で負の側面もあります。インターネットに接続することは、子どもたちが日常で直面するリスクを増幅する可能性があるからです。ネット上には数多くの危険があります。例えば、ネットいじめ、個人情報の不正使用、有害なコンテンツへの接触などです。最悪の場合には、犯罪者が性的虐待の目的を隠しながら巧妙な手口で子どもに近づいたり、人身売買のために誘惑することもあります。
デジタル技術は、個々人の子どもたちに被害を及ぼすだけでなく、大規模に暴力を先導して、子どもに危害を及ぼしたり、危険に晒したりすることもあります。
一つの恐ろしい事例が、ミャンマーで今年行われたソーシャルメディアキャンペーンです。ロヒンギャの人たちに対する恐ろしい暴力を引き起こす一因になり、子どもに対する計画的な傷害や殺害も行われました。
これらは複雑な問題ですが、時に、シンプルな方法によって、解決ができます。各国政府やICT(情報通信技術)関連企業が、最も不利な立場に置かれた子どもたちにできることはたくさんあるのです。『世界子供白書2017』でユニセフは、下記の実践的で実行可能な提言を行っています。
日本ユニセフ協会は、この分野のリーダーです。協会は、インターネット業界と協力して、児童ポルノのブロッキングの導入に成功しました。また、2014年の児童ポルノ単純所持を処罰化する児童ポルノ禁止法の改正にも、重要な役割を果たしました。
そうした保護は、子どもの安全と、健康的で幸せな暮らしにとって重要です。そのため、政府、そしてデジタル政策に関わる人々への最後の提言は、それらの政策が子どもたちをどのように守れているのか、常に自らに問うということです。
デジタル技術は子どもたちの人生や未来に、ますます大きな影響を与えています。それゆえデジタル政策は、子どもたちのニーズ、考え方、声を反映するべきなのです。
必要な機会とスキルを与えられれば、子どもたちは、“つながること”を最大限に活かすでしょう。
実際のストーリーをお話ししましょう。
ベトナムのハノイで暮らすクリスタルは、現在22歳になりますが、骨の疾患を患っていて、車いすで生活しています。彼女はインターネットを通じて、同じ病気を抱えるロンドンで暮らす女の子に出会いました。彼女たちは親友となり、インターネットを通じて互いの話を共有したり、励まし合うことができています。
また、世界で約300万人の子どもたちが「U-Reporter(ユー・レポーター)」としてユニセフとともに活動してくれています。U-Reporterたちは、インターネットや携帯電話を通じて、自分が暮らすコミュニティが抱えている課題などをユニセフの現地事務所に報告します。そうした報告を基に、ユニセフは政府とともに、コミュニティの状況改善を図ることができます。これは、10、20年前では想像できなかったことです。
こうした素晴らしいストーリーがある一方で、何億人もの子どもたちが、そうした技術の恩恵を受けられずに取り残されていたり、ネット上で保護されずにいたりします。ワイバイさんや彼女の友だちのように、すべての子どもたちが、デジタル技術の恩恵を受けるに値します。自分の世界を広げるために、そして、新しいことや役にたつこと、面白そうなことを学ぶために。
すべての子どもがそのチャンスを得るかどうかは、私たち一人ひとりにかかっているのです。
(アンソニー・レーク事務局長 登壇スピーチ)
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世界子供白書2017「デジタル世界の子どもたち」発表会 開催報告はこちら
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