氏名:玉村 文平
派遣先:インド・ムンバイ地域事務所(HIV/AIDS)
派遣期間:2007年7月〜8月
「学校に行きたくないんだ。」HIV/AIDS治療を行うムンバイ市内の病院で出会った少年が話してくれた言葉です。10歳にも満たない彼は学校に行く代わりに、ボランティアとして病院内で医師・カウンセラーたちの補佐業務を行っていました。彼もCLWHA (Children living with HIV/AIDS) の一人です。
インドではNACO(インド国家エイズ管理機構)主導の元、過去十年以上 HIV/AIDS対策を推進して来ました。2007年7月、NACP(国家エイズ管理プログラム第三期)が発足し、UNICEFは政府、NGO等とより緊密なパートナーシップを結び、特に子ども・若い女性たちへのHIV感染防止対策強化に乗り出しました。
マハラシュトラ州ムンバイに位置するUNICEF地域事務所も例外ではなく、HIV母子感染防止や青少年たちへのHIV/AIDS教育を中心に啓蒙活動を全国展開しています。インドも含め、世界的にHIV感染防止対策に重点が置かれる中で、今回のインターンでは敢えて「子どものHIV/AIDS治療」に焦点を絞り、実際にHIV/AIDS治療を受ける子どもたちが抱える問題点を探ることを目的としました。
NACPの元ではHIV/AIDS治療薬は無償で提供されます。無料で治療を受けられる利点がある中で、数々の問題点も存在します。それは、HIV治療の難しさそのものよりも、HIVに暴露しやすい社会的に弱い立場にいる子どもたち、女性たちが抱える問題でした。経済的貧困、男女格差、教育格差、情報格差、そしてここ数十年の急激な経済発展がHIV/AIDS問題に深く関与し、HIV/AIDS蔓延を助長すると同時に、HIV/AIDS問題それ自体がさらに貧困・種々の問題を拡大する要因と考えられています。
子どもたち (CLWHA) にインタビューをする中で、AIDSで両親を亡くした子どもたち、家族を支えるために学校を辞めて働かざるを得ない子どもたちなど、胸が痛くなるような話を何度も聞かされました。彼らのクオリティーオブライフを向上させるHIV治療(+感染症防止対策)を行うと同時に、一刻も早く精神的ケア・保護を充実させる事が今後の課題です。HIV/AIDSに対する差別・偏見が根強く残る社会では、病院で出会った少年のような、厳しい現実と向き合う子どもたちが大勢いるのです。
二ヶ月間、毎日のように自分の頭を悩ませたHIV/AIDS問題。色々な目線で、UNICEF、政府、病院のスタッフ、そして子どもたちの目線でHIV/AIDSを捉える事で見えて来た事があります。HIV/AIDS問題を終結させるためには、 HIV/AIDSに対する一人一人の意識改革も重要ですが、社会・コミュニティ全体の意識が変わる必要があるということです。そのためには、政府、 NGO、UNICEF等が個々に動くのではなく、全てが「一つのチーム」として機能する必要があると感じました。「誰のために動くのか?」ここでは、プライオリティは「大人」ではなく、「子ども」なのです。 |