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東日本大震災復興支援 第199報
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© 日本ユニセフ協会/2013 |
「被災父子家庭を頂点とする(様々な形態の)父親支援のピラミッドのすべてを対象に、私たちの約10年間の父親支援のエッセンスを提供する内容となりました。」(NPO法人新座子育てネットワークの坂本代表) |
被災各地が復興に向けた歩みを進める中、“働き盛り”や“子育て真っ最中”の方々の負担の長期化が問題になっています。しかし、お母さん方のそうした負担には関心が向けられる一方、お父さん方の負担の問題には、あまり焦点が当てられていません。日本ユニセフ協会は、子どもの保護支援事業として、NPO法人新座子育てネットワークや各地の自治体と連携して、お父さんへの支援を通して、養育放棄や子どもを巻き込むDV、児童虐待などの予防を目指す「父子家庭+父親支援プロジェクト」を2011年から展開。今年度から活動を本格化させた福島県で、6月19日、日本ユニセフ協会としては福島県内では初めて、教育や福祉の現場で活躍される方々を対象にした父親支援のための研修会を開催しました。
福島県男女共生センターや福島県子育て支援課と共催し、二本松市の福島県男女共生センター「女と男の未来館」で開催した「お父さん支援のための研修会」には、自治体職員、民生委員、教員、NPO関係者など、26名の方々が参加。これまでに300名を超える方々が受講された宮城県と岩手県の研修会では、沿岸部被災地域の震災による父子家庭への支援を中心に、震災前からの父子家庭や被災した父親たちの子育て支援も応援することに重点を置いた内容の研修会を実施しましたが、震災を直接的な背景に持つ父子家庭の数が少ない一方で、放射線の問題により母子避難を余儀なくされ県内に父親が一人残るようなケースも多い福島県では、複合的な父親支援のあり方に関わる研修ニーズが高いことから、今回の研修会も、“父子家庭支援”よりも“父親支援”に重点を置いた内容で実施されました。
「男女共同参画の視点から、女性のみならず男性への支援も課題になっています。これまでも母子家庭に比べて制度の充実が少なかった父子家庭への支援は大切です」 福島県男女共生センターの中野伸介副館長は、開会にあたり、本研修会の重要性を訴えられました。
2時間半にわたった研修では、全国の自治体などで父親支援を先駆的に実施している新座子育てネットワーク代表の坂本純子さんと佐野育子さんが、「父親支援の基礎知識」として、国内の父親支援全般にわたる現状と課題や、父親支援において気をつけるべきポイントなどを講義。続いて、「東日本大震災後」や「福島」に特徴的な課題を解説、いわゆる“震災父子家庭”や震災の影響で突如育児参加を余儀なくされている父親たちの問題が、もともと低かった日本の父親の育児参加に関わる問題の氷山の一角として表出していることや、“復興ストレス”の中で、父親による子どもへのネグレクトや暴力などの問題も出て来ていること、更に福島県については、一人離れてくらす父親たちへのサポートの必要性などが紹介・解説されました。
なかなか行事などに参加しにくいため支援が難しいお父さんたちをどう支援できるのか?異なるバックグラウンドを持つ経験豊かな参加者からは、「何でも完璧にしようとしがちなお父さんたちのための“手抜き料理講座”」、「週末に福島に母子を呼んで一緒に遊べるようなイベント」、「お父さんたちの職場見学」など、直ぐにでも実行に移せそうなアイディアが多く出されました。
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なかなか行事などに参加しにくいため支援が難しいお父さんたちをどう支援できるのか?「何でも完璧にしようとしがちなお父さんたちのための“手抜き料理講座”」、など、直ぐにでも実行に移せそうなアイディアが多く出されました。 |
日本ユニセフ協会では、今回の研修会に合わせ、これまで宮城県・岩手県向けに各自治体や関係する専門家らとともに製作・発行した各種の“お父さん支援ツール”の福島県版を、福島県と相馬市、南相馬市の3自治体の協力を得て製作。研修会では、宮城県や岩手県の実践で活用された事例なども紹介されました。無料で配付されているお父さん向けの「ガイドブック」には、県と相馬市、南相馬市を中心に、お父さんたちが使えそうな支援情報をまとめたほか、支援者向け「ハンドブック」には、研修受講者が、研修内容を復習できるよう、父親支援に関するデータや 資料などもまとめられています。
「県内でこのような情報発信ツール類が作成され、研修会が行われたことは画期的でした。サポートファイルについては、それぞれの自治体でも補足情報を足してぜひ活用していただきたい」と語るのは、福島県子育て支援課の佐藤伸司さん。研修会に参加された相馬市家庭児童相談員の星洋子さんは、「市内、県内の情報がまとまっていて大変使いやすいです。『お父さんの役割』の部分は、ぜひ仮設で子どもと暮らすお父さんたちにも伝えていきたい内容です。今後は(研修会の)相馬市での開催も楽しみです」という感想をくださいました。また、NPO法人ビーンズ福島で中央子ども支援センターの福島窓口も担当されている中鉢博之さんは、「データや資料がよく整理され、大変充実した研修でした。避難者支援を行っている団体はどうしても近視眼的になりがちなので、母親の立場、父親の立場でそれぞれどうなのか整理して状況を理解できたことで、お父さん支援の必要性をますます実感できました」と語っていました。
今回研修を実施した新座子育てネットワークの坂本代表は、「今回の研修会は、被災父子家庭を頂点とする(様々な形態の)父親支援のピラミッドのすべてを対象に、私たちの約10年間の父親支援のエッセンスを提供する内容となりました。このことは、福島のお父さんたちが置かれている状況の深さを物語るものでもあります。緒に就いたばかりの日本社会の父親への支援が、福島で加速しながら進むお手伝いを、ユニセフさんとともに取り組んでいきます」と今後の取り組みの意欲を語ってくださいました。