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「このままでは、世界は子どもの命を守る約束を達成できない」ユニセフの最新のレポート『子どもたちのための前進』(Progress for Children)は、世界に警鐘を鳴らしています。 2000年にニューヨークで開かれた「ミレニアム・サミット」で約束された「ミレニアム開発目標」。重要目標の一つ「2015年までに乳幼児死亡率を3分の2削減する」から、98カ国が取り残されています。 ニューヨーク 予防接種のように、低コストで効果が実証された方策があるにもかかわらず、子どもの死を削減する目標への前進が遅々として進んでいない。——このような憂うべき現状が今日ユニセフが発表した調査によって浮き彫りになりました。90カ国は2015年までに乳幼児死亡率を3分の2削減するという目標を達成できそうなものの、98カ国は達成できる状況になく、また世界全体を見ても、改善の速度があまりにも遅すぎるとユニセフは訴えています。 改善速度が現在のままだと、5歳未満児死亡率は世界平均で、2015年までにおよそ4分の1しか削減されません。この数値は、「ミレニアム開発目標」で世界の指導者たちが合意した「3分の2」という目標に遠く及びません。 「子どもの生きる権利は平等、可能性、そして自由をはかる第一の指標です」、ニューヨークで行われた『子どもたちのための前進』発行記者会見の席上、ユニセフ事務局長のキャロル・ベラミーは述べています。「すばらしい技術と医学の時代に、子どもたち、特に貧しい人々や社会の周辺に追いやられた人々の生存がたくさんの場所で危機にさらされていることは信じがたいことです。私たちは、現状をもっと良くすることができるはずです」 『子どもたちのための前進』では、「ミレニアム開発目標」として各国の政府が合意した目標のうち、1990年を基準年として2015年までに乳幼児死亡率を3分の2削減するという目標について、各国ごとに1990年からの改善状況の年間平均値を算出し、ランクづけをしています。 乳幼児死亡率とは、5歳の誕生日を迎える前に死亡する子どもの数を指し、1000人あたりの人数で表されます。例えば2002年、先進国では平均して1000人に7人の乳幼児が死亡しました。一方、後発開発途上国では1000人に158人が死亡しています。ユニセフは乳幼児死亡率を国家の発展をはかる基本的な指標としています。 報告書には、1990年から2002年までの各国の乳幼児死亡率の進歩を比較した、東アジア・北アフリカ等の地域別の一覧表が掲載されています。3分の2の削減目標を達成するためには、1990年から2015年の間に毎年およそ4.4%の改善が必要です。50カ国近くがその水準に達したものの、地域としてはその水準に達したところは一つもありませんでした。また78カ国では、乳幼児死亡率を毎年平均2%改善することすら達成できませんでした。 この10余年の間に十分な改善が出来なかったこれらの国々では、今さらに困難な課題を抱えています。少なくとも39カ国が、2015年の目標を達成するため、今後10年弱に、乳幼児死亡率を毎年平均8%改善していかなければなりません。 |先頭に戻る| さらに悪化してしまった国々と地域間格差年間の改善率がマイナスになってしまった国が最も気がかりです。いくつかの国は、乳幼児死亡率が上昇するという、改善とは全く反対の方向に進んでいるのです。サハラ以南のアフリカ地域や独立国家共同体(CIS)の一部の国々では1990年より子どもが5歳の誕生日を迎えることが難しくなっています。 特にサハラ以南のアフリカ地域では、HIV/エイズは、乳幼児死亡率の動向に影響を与える主な要因の一つとなっています。乳幼児死亡率の上昇が、ボツワナが世界で2番目、ジンバブエが3番目、スワジランドが4番目に高いのは、各国が37%、25%、39%、と世界で最も高い率でHIVが流行している国だからです。乳幼児死亡率の急上昇に影響を与えている他の要因として、イラクやアフガニスタンなどに見られる武力紛争や社会不安の存在が挙げられます。 わずかな改善があったものの、依然としてシエラレオネは世界で最も乳幼児死亡率が高い国で、5歳になる前に4人に1人以上の子どもが死亡しています(年間1000人につき284人死亡)。 ラテンアメリカ・カリブ海諸島地域は最も改善した地域でした。しかし、地域内の国々の間で差が開いてきているのが気がかりです。貧困や差別によって、これらの国々に住む大勢の子どもたちが基礎的なサービスを利用できずにいます。 マレーシア、マルタ、エジプトが最も劇的な改善をしました。ただエジプトはまだポリオの根絶ができていません。イラクが1990年から最も悪化した国です。 何が悪いのか?出産時の環境が不適切であるために、多くの守れたはずの命が失われています。母親・妊産婦への保健医療サービスが殆ど、または全く整備されていなかったり、出産に熟練した助産婦が足りなかったりするからです。下痢や肺炎などの急性呼吸器疾患に続き、マラリアやはしかなどの感染症や寄生虫症が、大きな死亡原因になっています。急性呼吸器疾患や下痢は、乳幼児の死因の3分の1を占めています。 また、栄養不良の蔓延がその根底にあります。死亡した乳幼児の半数以上が栄養不良状態でした。不衛生な飲料水や不十分な衛生状態もまた同じように子どもたちの死に関っています。 「子どもの死亡率を改善する手段を、世界はすでに手にしています。問題はそれらの手段を行使しようという意志があるか否かです」とべラミーは述べました。「ワクチン、ビタミン剤、殺虫剤を染み込ませた蚊帳は高価なものではありませんが、何百万人もの子どもたちを救うことができます。しかし、これらのとても単純な命を守る道具や手段さえ、すべての子どもたちの手に行き渡っていません。これこそが変えてゆかなければならない状況です。子どもたちの状況の改善がほとんど進まないまま、10年間を手をこまねいて見過ごすことは、もう、どの政府にも許されません。世界の指導者たちは、合意した目標の達成に責任を持たなければいけません」。 中東・北アフリカ地域、ラテンアフリカ・カリブ諸島地域、東アジア・太平洋地域は目標を達成する軌道上にあります。しかし、中央・東ヨーロッパ地域、南アジア地域、サハラ以南のアフリカ地域では、目標に近づくため、思い切った対策が必要です。 ご案内 『子どもたちの前進』は、今後年2回(春・秋)発行され、「ミレニアム開発目標」の中の子どもに関わる目標をテーマに、それぞれの目標に対する世界各国の進捗状況を報告します。 報告書(英語版)は、ユニセフ本部のホームページ(www.unicef.org)でご覧いただけます。 現時点では、日本語版の作成・発行の予定はございません。ご了承ください。 |先頭に戻る| 2004年10月版『子どものための前進』
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国名 |
1990年から2002年までの 年間平均改善率 |
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1 | イラク |
-7.6%
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2 | ボツワナ |
-5.3%
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3 | ジンバブウェ |
-3.6%
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4 | スワジランド |
-2.5%
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5 | ケニヤ |
-1.9%
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6 | カンボジア |
-1.5%
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7 | カメルーン |
-1.5%
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8 | コートジボワール |
-1.1%
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9 | カザフスタン |
-1.1%
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10 | ウズベキスタン |
-0.8%
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国名 |
1990年から2002年までの 年間平均改善率 |
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---|---|---|
1 | マルタ |
8.6%
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2 | マレーシア |
8.0%
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3 | エジプト |
7.8%
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4 | ポルトガル |
7.6%
|
5 | オマーン |
7.0%
|
6 | デンマーク |
6.8%
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7 | ノルウェー |
6.8%
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8 | チェコ共和国 |
6.6% |
9 | ギリシャ |
6.6%
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10 | リビア |
6.6%
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国名 | ||
---|---|---|
1 | シエラレオネ | 284 |
2 | ニジェール | 265 |
3 | アンゴラ | 260 |
4 | アフガニスタン | 5歳未満乳幼児死亡率 世界平均:82 サハラ砂漠以南のアフリカ:174 先進国:7 |
5 | リベリア | |
6 | ソマリア | |
7 | マリ | |
8 | ギニアビサウ | |
9 | ブルキナファソ | |
10 | コンゴ民主共和国 |