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国連 初の「子どもに対する暴力 調査報告書」を発表国連事務総長の依頼により作成された、子どもに対する暴力の調査の最終報告書。2006年10月11日、国連総会の第三委員会にて、事務総長が任命した専門家パウロ・セルジオ・ピニェイロによって発表されました。 「子どもに対する暴力に関する調査研究」とは?
国連事務総長の「子どもに対する暴力に関する調査」とは、世界各地で子どもに対して行われている様々な形の暴力について、その内容、程度、そして原因について詳細に記述をするとともに、それらを未然に防ぎ、あるいは阻止するための対処方法を明確に提言するための世界的な試みです。 調査は、世界中で行われている子どもに対する暴力の現実を調べ、それを阻止するために行われている取り組みについて、初めて整理しました。調査の作業は、事務総長が任命した子どもに対する暴力に関する問題の専門家パウロ・セルジオ・ピニェイロ教授によって2003年から実施され、この間数千人に及ぶ人々が関わってきました。世界中で、子どもや青少年、国連機関、NGO、政府機関、研究者、ジャーナリストやアクティビストが、国や地域レベルでの調査やワーキンググループに参加し、アンケートに答え、さまざまな形で貢献してきました。 2006年10月11日、国連総会は、この調査研究の結果と提言について取り上げました。調査報告書の内容を更に詳述した本も発表されます。ニューヨークでは、子ども用に分かりやすくした報告書や、暴力に対して子どもや若者が取り組めることを説明した教材も発表されます。国連本部で開かれる展示会では、子どもや若者が、国連職員や各国代表や関係者らと、この問題について何ができるかを話し合います。10月12日には、若者の代表がピニエィロ教授をはじめとする専門家に質問を投げかけることができる円卓会議が開かれました。 調査では、子どもに対する暴力が、すべての国、すべての社会、そしてすべての社会的集団の中で起こっているということを結論付けています。子どもに対する許しがたい暴力行為は、ニュースの見出しに現れますが、日々繰り返される小さな暴力的行為によっても子どもたちは傷ついています。中には予期できない暴力行為もありますが、子どもに対する殆どの暴力行為は、子どもたちが知っている、本来なら信頼できるはずの立場の人たちによって行われています。たとえば、親、ボーイフレンドやガールフレンド、パートナー、同級生、教師や雇い主です。 子どもに対する暴力には、身体的な暴力と心理的な暴力があります。これらには、侮辱や屈辱、差別、無視、虐待などが含まれます。暴力が行われたことによる影響は、その暴力の内容や程度によってもさまざまですが、短期的にも長期的にも、しばしば深刻かつ有害なものです。
家庭や家族内の暴力
世界人権宣言では、家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位であるとしています。1989年の児童の権利条約は、家庭が、その構成員、特に子どもたちの成長と福祉にとって自然な環境であるという基本的な前提の上に成り立っています。これは即ち、家庭が子どもたちの保護、そして身体的・感情的な安全の確保を最も適切に行い得るものだという認識です。すべての社会において、家庭のプライバシーと自治性は重要視され、国際的な人権法には、個人が家庭生活を営む権利は保障されています。 しかし、今回の暴力に関する調査では、世界各地で多くの子どもたちが、閉じられたドアの向こう側で、家族や近しい人の手による暴力を経験していることについて、知識の蓄積が進み、またそれに対する認識も高まっていることが描かれています。 例えば、子どもの死亡が捜査の対象となる先進国では、1歳未満の乳児は、1歳〜4歳までの子どもの3倍、そして5歳から14歳までの子どもの4倍も殺される可能性が高いといいます。そして乳児の死は、殆ど例外なくその親によるものです。男の子を偏重する国では、女の子がしばしばネグレクト、虐待、そして意図的な危害の犠牲になります。 大抵小さな子どもに対して行われる体罰行為は、世界のすべての地域で広く行われ、時にとても厳しい形態でも行われています。辱めることやけなすことも、子どもたちにとって深刻なダメージを与えることがあります。 ここ数年、子どもに対する性的暴力についての認識は向上しており、調査の結果、殆どの性的虐待は子どもがよく知る人、しばしば同じ家族内の人によって行われていることが明らかにされています。 文化的あるいは伝統的な慣行という名目の子どもの健康や福祉を損ねる行為も、多くの場合、その家族により行われています。 暴力から守られるという子どもの権利は、家庭という壁の前で止められてしまうものであってはならない、とこの調査は主張します。親しい間柄における暴力を犯罪であると規定した法律は、今や社会全体に浸透しています。子どもたちも同様に、法律によって、暴力から保護される権利が保証されるべきです。それには、社会全体が、家庭や家族内における子どもへの暴力に対しても、同じように強く拒絶しなければいけません。 学校や教育現場における暴力
子どもたちは多くの時間を幼稚園、学校、職業訓練センターなど、学習するための場で大人の保護の下で過ごします。親と同様に、このような場所の責任者は、子どもたちの発達を促すために安全で保護的な環境を提供する義務があります。また、そこでの発達を通して子どもたちが、非暴力、差別をしないこと、ジェンダーの平等、寛容、互いに尊重しあう、といった価値観にのっとって行動する責任ある大人として生きる準備をする義務があります。 子どもたちに、質の高い教育の機会を与えることは、暴力から彼らを守る重要な手段となります。しかし現実には、何百万人もの子どもたちが、教育の場で暴力が振るわれることによって通学が難しくなったり、学校で効率的に学べなかったり、卒業できるまで通えずに終わり、教育から得られたはずの利益を受け取れなかったりしています。 教師などの職員による暴力は、身体的な暴力、屈辱的な心理的な罰、性的或いはジェンダー的な暴力、そしていじめが挙げられます。多くの国では、殴打や鞭打ちといった体罰は、ごく一般的なこととして行われています。102の国で体罰が禁止されているにも関わらず、その実態は国によってまちまちです。 子どもたちも、いじめによって苦痛を与えるなど、時に残酷なことをします。これは身体的なものだけではなく、日々繰り返される嫌がらせが、受けた子どもの心に大きな傷を残します。いじめの問題は学校当局にその重大性が認識されないため、子どもたちは自身のいじめの問題について相談や報告することに、消極的です。 大人でも子どもでも、学校での暴力はしばしば、ジェンダーの不平等と固定観念を作り出す「隠れたカリキュラム」とさえいえます。例えば、男の子たちは「男らしさ」がないことで互いをあざけり合い、女子に対して性的な内容の言葉、或いは身体的な行為で嫌がらせをします。男子への体罰は女子へのそれに比べ、より頻繁でまたその程度もより厳しいことが分かっています。男性の教師や男子による女子への性的な攻撃性は、しばしば「男だから仕方ない」と片付けられるのに対し、女子は「そうされるのを望んだ」と非難されます。このような行為があることで、学校は女子にとって居心地の悪い場所になります。そしてこの問題こそが、殆どの途上国において、思春期の女子が男子よりも学校に通えない大きな原因でもあります。
報告書が提供する主な数字
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