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報告会レポートユニセフ本部 大井佳子(2004年7月9日)
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スワジランドはアフリカの南部にある小さな国です。大きさは四国と同じくらいで、人口は約100万人。絶対王政の国で、王様が統治している国です。王様はお后が11人もいるということで有名です。
スワジランドは1968年にイギリスから独立しました。国内総生産は一人あたり約4,900ドル、これは世界に231カ国ある中で127位という、実は中位にある豊かな国です。しかしこの国では、非常に大きい貧富の差が問題となっています。スワジランドの首都ムババネには高いビルがいくつかあり、スーパーでは南アフリカから入ってくるものが何でも揃い、日常生活で困ることはありません。きれいな高速道路も走っています。一方、スワジランドの田舎に行けば貧しい農民の家がどこででも見られるのです。
アフリカのHIV/エイズが原因で孤児になった15歳以下の子どもの数は1400万人、そのうち15%が5歳以下です。2010年には約2倍になると言われています。HIV/エイズに感染した方はすぐに亡くなってしまう訳ではありません。感染した方はエイズを発症して死に至るまでおよそ10年位かかるといわれています。そこから推定すると、10年後の2010年にはHIV/エイズで亡くなる方が、ちょうど今HIV/エイズにかかってる方と同じくらいになり、そしてその方たちの子どもが孤児になる結果、孤児の数が急激に増えると予測されているのです。
スワジランドのHIV/エイズの感染率はなんと38.6%。大体5人に2人が感染しているという恐ろしい状況になっています。2002年にはボツワナが世界で一番感染率の高い国でしたが、それを追い越してしまいました。それに伴い孤児の数が急増しています。2003年の段階で10万2,000人。2010年には13万人が孤児になると予想されています。これだけ孤児が増えるとどうなってしまうのでしょうか。今まで、スワジランドというのはコミュニティがしっかりしていて、その中で皆が助け合うという社会でした。そのため、孤児がいても、大家族制が孤児を吸収して面倒をみて自分たちの子どものように育てるという文化だったので、特に問題はありませんでした。ですが、最近はそういった大家族制が崩壊してきています。あまりに孤児の数が多く、これ以上吸収できない状況に到っているのです。もう一つの原因としては、経済の問題があります。若いお父さんやお母さんたちが南アフリカのマーケットに子どもを置いて働きにいってしまうと、子どもは放っておかれ、自分のコミュニティを大切にしようという気持ちがなくなってきます。そのために大家族制が崩壊して、結果として、子どもだけの家庭や老人と子どもだけの家庭が増えてきているのです。そのような家庭では、子どもが水汲みなどの大変な労働を強いられます。生活があるために子どもの面倒も十分に見れません。
孤児になるとどういう風に大変なのでしょうか? 1つ目に、一家の大黒柱がいないために子どもの面倒をみる人がいなくなってしまう。基本的な生活水準が満足に満たされず、食べるものが十分でなくなり栄養失調などになりますし、水汲みなども子どもだけでは十分にできず、非衛生的な環境での生活を余儀なくされます。その結果、病気になり易くなります。
2つ目は、孤児になると、虐待や性的虐待の対象になりやすくなります。物のない農村地帯で食べ物に困ると、そういう状況につけこんで心無い大人が性的搾取をするケースがかなり多いのです。十分に性交渉に耐えられるだけに成長していない身体は、傷が付いて、そこからHIV/エイズに感染しやすくなります。性的虐待によるHIV/エイズの感染が非常に多くあります。
3つ目は教育です。日本のように学校教育が完全に無料の国と異なり、スワジランドは学費が必要なので、学費を払うことができず、必然的に子どもが学校に行けなくなります。ユニセフは学費を無料にするように働きかけていますが、まだうまくいっていません。
最後のポイントとして、予防接種があげられます。予防接種は主に乳幼児期の子どもに対して行われます。親がいないと子どもはひとりで予防接種に行くこともできず、結果として健康に重要な打撃を与えてしまうのです。
特に危機に瀕するのは0歳児から5歳児までの孤児です。人間は0歳から3歳までの間に脳細胞の80%ができます。視力、感情のコントロールをする能力、反応、社会的な能力、言語能力、理解能力のための脳細胞がおよそ0歳から3歳の間に発達します。そして、この時期を逃してしまうと、後で取り戻すことができません。この0歳から5歳の間に適切な栄養と適切な刺激を受けないと、長期的に心身の発達に影響が出てしまいます。0歳児から5歳児というのは後で取り戻すことができない、本当に大切な時なのです。
これらの問題に対するユニセフ・スワジランド事務所の活動は、4つのポイントに分かれます。まずひとつ目は、子どもの権利のためのコミュニティ活動というものです。孤児はもともと伝統的なコミュニティが吸収して面倒を見ていました。そういったパワーをコミュニティにもう一度取り戻してもらおうという活動です。住民集会を開いてHIV/エイズに関する啓発活動もしますが、一番大切なのは参加型開発とプランニングの一つの手法です。コミュニティの方々に「過去、自分たちが幸せだった瞬間はなんですか?」という質問をします。すると、過去にコミュニティの人々がお互いを助け合った頃の話が出てきて、「コミュニティって頑張れば何かできるんだ」という意識を高めることができるのです。その一つにマッピングというのがあります。地面にコミュニティの地図を書いて、自分たちのコミュニティはどこにどれだけの家があって、誰が住んでいて、孤児はどこにいるのかというのを皆で話し合う。そういう事を通じてコミュニティの中にどれだけサポートを必要としている孤児がいるかという事を把握できます。そういった活動の結果、孤児や援助を必要としている子どもを特定すると、コミュニティとしてどうしたらいいかということを話し合ってもらいます。そして活動プランを立てる。それがセットになっています。
その一つの例として、“ショルダー・トゥ・クライ・オン(つらいときに頼って泣ける肩)”という、「子ども110番」のようなものがあります。村の中の子どもが困った時に頼れる人を指名して、孤児に対するサポートをしてもらうという活動を考え出したコミュニティもあります。そういうものはスワジランドの伝統社会の中に長く存在していました。ここでは主に性的虐待を防いだりするために子ども110番的な役割を、主に女性が行うのです。他に、孤児に対する食糧や学費のサポート等を行っているコミュニティもあります。
2つ目の例に、コミュニティの孤児ケアポイントというものがあります。子ども110番のおばさんが、孤児の子どもたちを自発的に自分の家に集めて面倒を見ていた活動をユニセフが助けて、他のコミュニティにも広げていくことになりました。住民から推薦されたボランティアが、5歳以下の孤児を集めてデイケアを行うのです。そこでは、一日一回の食事、衛生的なケアと遊びの場を提供したり、保護をします。日中ひとりで誰もいない家にいると虐待の対象になる可能性があるので、そういうことがないように集団でなるべく長い時間を一緒に過ごすのです。ユニセフはボランティアの女性へのトレーニングを通じて支援を行っています。保健面、栄養面ではどういったことをしなければいけないか、教育ではどういう風にした方がいいのかという、子どもに対する包括的なニーズを体系的に学ぶトレーニングを行っています。それに加えて、石鹸だとか歯磨き等の基本的な衛生キットや調理器具を少量ですが配っています。
3つ目の例は、既に存在する基礎サービスの強化、絞り込みです。これまで連携なしにやられていた色々なサービスを、ケアポイントに全ての援助が集中するようにアレンジしています。保健の出張サービスや国連世界食糧計画(WFP)から配布される食料がケアポイントに届くようにアレンジしています。予防接種などもケアポイントにちゃんと届くようにとしています。
最後にHIV/エイズ教育です。人々にとって、これまでHIV/エイズは自分たちの問題だと思えませんでした。HIV/エイズの存在自体を否定するような風潮もあります。エイズにかかとすぐに死んでしまうという間違った認識が広まり、自暴自棄になってしまっている人が沢山います。自分が感染しているかどうかは分からないのですが、「感染の危険性のあることを昔したから、自分は感染しているかもしれない」と考えているのです。そこで、HIV/エイズの感染に対する事実、メッセージを伝え、現実逃避をするのではなく、問題を直視して希望を持ってもらう働きかけを進めています。メッセージの1つ目は、現実には感染していない人の方が多い、人口の3分の2が非感染者なのだから、希望を持ってやっていこうというもの。2つ目は、一度の性交渉で感染する可能性は低い。危険な行為をしてしまったと思っても、必ずしも感染している訳ではない、と希望をもってもらうメッセージ。3つ目のメッセージは、HIV/エイズのテストをして自分が感染しているかどうかを知るこ とが大事というもの。
4つ目は、STI(性病)があると感染の危険性が高まるということ。HIV/エイズの母子感染は防ぐことができ、薬もあります。クリニックでそういう手当てしてますよ、というメッセージです。
こういったメッセージに耳を傾けてもらえるように、日常にあるようなお話を使ってドラマを作りました。AさんからBさんへ感染した時は赤い糸をくっつけ、BさんからCさんへ…というふうにつないでいくと、HIV/エイズの様子が視覚的に出て納得しやすくなります。虐待にあった時や、複数の関係を持った時に感染したなど、村の人たちが実感として理解できるように作られています。子どもたちのためには、紙芝居のウサギの物語で性的虐待の話を作りました。また、セミ・プロの演劇グループに、同じウサギと蛇の物語を劇に作り変えていただいて、それをコミュニティ集会の時に演技してもらったりしています。こうした一連の活動を通じて、ユニセフはHIV/エイズの正しい知識と、前向きに希望を持って生きましょう、というメッセージを伝える活動をつづけています。