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報告会レポートユニセフ(国連児童基金)シンポジウム
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© 日本ユニセフ協会/2006/K.Shindo |
■日時
2006年5月23日(火)18:30 〜 20:00
■場所
ゆうぽうと簡易保険ホール(東京・五反田)
■主催
財団法人 日本ユニセフ協会
■後援
外務省・読売新聞社
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会場ロビーで行われたレソト写真展 |
2006年5月23日、HIV/エイズが子どもに与えている影響をみんなで考え、行動を起こそうと、ユニセフシンポジウム「エイズは、大人だけの問題じゃない」が開催されました。当日は雨にもかかわらず、10代の若者を中心に約750名の来場者が詰め掛け、HIV/エイズをめぐる世界の現状や途上国の子どもたちや妊産婦たちが直面している現実に、真剣に耳を傾けていました。当日の様子をご報告します。
■パネリスト
財団法人エイズ予防財団会長 島尾忠男氏■プログラム
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東郷良尚 日本ユニセフ協会副会長 |
東郷良尚 日本ユニセフ協会 副会長
本日はHIV/エイズが世界の子どもにどのような影響を与えているか、そして、それがいかに深刻な状況を招きつつあるかを皆様に知っていただくために、このシンポジウムを開催しました。
毎日1,800人の子どもが新たにHIV/エイズに感染しています。その原因のほとんどが母子感染によるものです。毎日1,400人の15歳未満の子どもがエイズで死亡し、毎日6,000人以上の15歳から24歳の若者がHIVに感染しています。HIV/エイズの脅威は世界中のすべての国に迫っていますが、中でもアフリカは看過できない状態にあります。世界で1年間に新たにHIVに感染する15歳未満の子ども、64万人の87.5%はサハラ以南のアフリカの子どもです。世界で1年にエイズで死亡する15歳未満の子ども、51万人の88%が同地域の子どもです。そして、エイズのために少なくとも親の一方を失った孤児は世界で1,500万人と推定されていますが、そのうち1,230万人はサハラ以南のアフリカの子どもなのです。
このシンポジウムを通して、世界の子どもにふりかかるエイズの脅威に理解を深め、その対策をご一緒に考えていただければと存じます。
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ピーター・マクダーモット ユニセフ本部事務局HIV/エイズキャンペーン責任者 |
ピーター・マクダーモット ユニセフ本部事務局HIV/エイズキャンペーン責任者
HIV/エイズは世界の子どもたちに計り知れないほど大きな影響を与えています。たとえば、毎分1人、15歳未満の子どもがエイズ関連の病気で命を落としています。毎分4人の若者(15〜24歳)がHIVに感染し、1,500万人の子どもたちがエイズで親を失っています。そして何十万人もの子どもたちが、教師、医者、保健員、家族など、子どもたちの面倒をみて、保護してくれる人たちを失っています。新たなHIV感染者の7人にひとり、エイズで死亡する6人にひとりは子どもです。HIV陽性の子どものうち、必要な治療を受けられているのは5%以下にすぎず、エイズで親を失ったり、弱い立場に立たされている子どもたちのうち、必要な公的支援等を受けているのは10%以下です。エイズの流行が始まってから20年以上が経ち、世界中で非常に多くの取り組みがなされ、資源が動員されてきたにも関らず、その中で置き去りにされているのが子どもたちです。子どもたちがエイズの影響を受けていること自体が認識されず、そのためにエイズ対策の網の目からも漏れているのです。私たちはパートナーシップを組んで、この問題に緊急に対応しなければなりません。
HIV/エイズの問題が一番深刻なのはサハラ以南のアフリカです。世界の人口の10%が住むサハラ以南のアフリカに、全世界のHIV感染者の60%が住んでいます。ですが、南アジア、東南アジア、ラテンアメリカやカリブ海諸国の状況も深刻です。2005年、アジア地域の14歳以下の子どものHIV感染者は3万1,000人。2005年にこの地域で新たに1万1,000人の子どもがHIVに感染し、約8,000人の子どもたちが亡くなりました。カリブ海の国、ハイチでは28万人がHIVに感染していますが、うち6%以上が15歳以下の子どもたちです。そして、この感染は、東アジアや東ヨーロッパ、そして米国でも広がりつつあります。
こうした状況の中で、子どもたちは親の面倒をみなければならなくなったり、あるいは親をエイズ関連の病気で失い、自分たち自身が世帯主としてきょうだいの面倒をみなければならなくなっています。このため、子どもたちは教育の機会も逸し、子ども時代を失っているのです。世界は今、緊急に、そして、決定的に何かをしなければならないときに来ています。
子どもたちが強い影響を受けている分野は4つあります。次の4つの分野に焦点をあてて行動を起こすことにより、大きな変化をもたらすことが可能です。
これら4つの分野に焦点をあてて、ユニセフでは2005年から2010年までの5年間にわたって、「子どもとエイズ」世界キャンペーンを全世界で展開しています。
みなさまのお力添えが必要です。私たちひとりひとりが役割を担っています。子どもたちがHIV/エイズ対策から取り残されぬよう声を出し、沈黙を破り、行動を起こしてください。より多くの予算がHIV/エイズの影響を受けている子どもたちのために使われるように、政治家に働きかけ、ユニセフの「子どもとエイズ」世界キャンペーンに参加していただきたいと思います。
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アグネス・チャン 日本ユニセフ協会大使 |
アグネス・チャン 日本ユニセフ協会大使
4月16日から23日まで、南アフリカの小国、レソトを訪れました。面積は日本の四国の約1.7倍、人口は180万人。4人にひとりがHIVに感染しています。国民の約40%が1日1米ドル未満で生活しており、経済的に厳しい状況のため、若い男性の半分近くが隣国の南アフリカに出稼ぎに出ています。その男性たちは、お金だけでなく、エイズウイルスも持ち帰り、それがレソトの隅々まで広まったのです。現在、180万人の人口のうち18万人が孤児で、うち10万人はHIV/エイズによって親を亡くしています。
私たちは首都マセルから7時間程かかるモホトロング県ボバツィ村というところを訪ねました。標高3,000メートル以上にあり、コートなしではいられない寒さでした。
村長さんに話を聞くと、「あの病気」で人がたくさん死に、そのために子どもたちが孤児となってたくさん残され、子どもたちだけで生活していることが心配だと話してくれました。HIV/エイズに対する偏見や差別が根強く、HIV/エイズという言葉は口にせず、「あの病気」と呼ぶのです。村に到着したとき、20人ほどの小さな子どもたちが出迎えてくれましたが、その子たちはみんな孤児だという話でした。
3年前に両親を亡くして、きょうだいで暮らしているお姉さん(13歳)と弟(10歳)の家を訪ねました。家の中にはまるで今もお父さんお母さんが生きているように、4人分の食器が壁際に並べられていました。食べ物はお姉さんが調達します。近所から食べ物をもらいますが、もらえないときは草や葉っぱを調理して、弟に食べさせます。そして家畜の世話や家事全般をこなすのです。日本ならまだ小学3〜4年生の10歳のときからお母さんの代わりを務めていました。夢を聞いても彼女は答えられませんでした。何になりたいかわからないのです。そして、弟のために結婚はしません、と。HIV/エイズは、子どもの将来や夢、すべてを奪ってしまうのです。
この子たちは、夜、自分の家ではなく、隣のおばさんの家で寝かせてもらっていました。エイズに対する偏見・差別から、村から子どもが捨てられたり、いじめられたり、レイプされるなど、村ではいろいろなことが起こるという話でした。
8歳の子とそのお母さんにも会いました。お父さんが去年亡くなり、検査を受けたところ自分の子どももHIVに感染していることが判明しました。ほかにきょうだいが2人いますが、絶対に検査を受けさせようとしません。「エイズだということがわかり、殺された村人もいた。自分が死んだら子どもたちが差別されるから」と。その偏見の深刻さに驚きました。
孤児になり、ストリートチルドレンになって、売春婦をしている子どももいます。自分たちだけで死んでいく子や、施設に収容された子もいます。自分で子どもを生んで育てようとする少女もいます。母子感染のために自分ではどうにもならないうちにHIVに感染してしまった子ども。幼いうちに親が立て続けに消えてしまい、いきなりおとなとしての役割を担わされる子ども。こうした子どもたちの姿にぜひ目を向けてください。
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大井佳子 ユニセフ・エイズ対策事業担当官 |
『子どもが世帯主の家が増加』
大井佳子 ユニセフ・エイズ対策事業担当官
私が2年間勤務したスワジランドでは、人口の4分の1がHIVに感染し、人口の約10分の1が何らかの原因で孤児になっています。毎週、スタッフの誰かが誰かのお葬式に行ったり、スタッフの多くが孤児をひきとって面倒を見ている状態でした。エイズ関連の病気で子どもだけの家庭が増えています。子どもだけの家庭は、たとえば水汲みひとつとっても大変な重労働であり、生活していくだけでも本当に大変なのです。
地方に行くと、空き家と思われるような古い家の中で子どもが肩を寄せ合って何とか生活しているという状況がありました。子どもだけの家庭の数が非常に増えていることが問題です。
私が親しくしていた子はメイドとして働いていましたが、面倒をみなければいけない弟妹が8人もいました。小さい子どもは5歳にもなっていませんでした。親がいない上に彼女もまだ10代。どう育てたらいいのか分からないのです。一番恐ろしいと思ったのは、親族に引き取られたものの、その家の人に性的搾取にあったり、肉体的・精神的虐待、暴力を受けている子どもたちが多くなっていることです。表立っては出てこない問題なのですが、村人たちと話してくるとこうした事実が浮かびあがってきます
現場で働いて一番痛切に感じたのは、人的資源の不足です。母子感染の予防やエイズ患者の治療を行うにしても、そのサービスを提供するために必要な技術を持った看護士が非常に少ないのです。時間はかかりますが、検査や投薬、カウンセリングなどの分野でトレーニングを行い、人的資源を育てることが必要です。また、深刻な問題のひとつとして、HIV/エイズに対する偏見が上げられます。偏見がもとでHIV検査を受けることすら拒む風潮があり、それがプロジェクトの進行そのものを妨げているケースも多く見られるため、偏見を取り除くことが重要です。
あまりにも急激に増えつづける孤児に対処するため、コミュニティすなわちご近所さんの人的資源を活用する必要がありますが、現地では親類縁者が孤児を引き取って育てる「大家族制度」のようなものが伝統的にあります。私はこの制度が希望の光だと考えています。
日本の方々は、途上国の問題と日本国内のHIV/エイズの問題を分けて考えず、自分たちの問題に真剣になり、正しい知識を得て、ほかの国のことを真剣に考えてほしいと思います。
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財団法人エイズ予防財団会長 島尾忠男 氏 |
『エイズはもう死の病ではない 』
財団法人エイズ予防財団会長 島尾忠男氏
10年前までは、先進国でもほとんどのエイズ患者が亡くなっていました。しかし、先進国では新しい薬が開発され、現在では、薬を使えばほとんどの患者は命を落とすことなく、普通の社会生活を送ることができるようになりました。でも、身体の中ですべてのウィルスを殺してしまうほど強力な薬はまだ開発されていません。従って、薬を飲み始めた患者さんは一生薬を飲みつづけなければならず、国にとっても個人にとっても大きな負担となっています。
途上国ではこの薬が高いために使えませんでしたが、これをなんとか使えるようにしようと、開発途上国が自国のために使う薬を製造するときには特許料を払わなくていいことになりました。世界保健機関(WHO)では、2005年までに300万人の途上国のHIV感染者、エイズ患者に薬を提供できるようにするという運動を進めてきましたが(3 by 5【スリー・バイ・ファイブ】イニシアティブ)、まだ目標の半分にも達していません。子どもの問題についても、先進国ではほとんどの妊婦の方々がHIV検査を受け、感染が判明すれば適切な対策をとって母子感染をほぼ防ぐことができます。ですが、途上国ではこれが徹底されておらず、残念ながらHIVの母子感染が次から次へと発生しているのです。途上国と先進国ではいろいろな面で格差がでてきていますが、おそろくHIV/エイズの領域が一番その開きが大きいところだと思います。なんとかしてその開きを小さくすることが、私たち人類に課された21世紀の大事な仕事だと思います。
日本については、新しい薬の開発、および政府・企業によるより一層の資金的援助、人的資源の養成を期待したいと思います。
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ユニセフ子どもネットワーカーの皆さん |
『グローバリゼーションがもたらした弊害』
東郷良尚 日本ユニセフ協会副会長
経済面でのグローバリゼーションは先進国と途上国の間に大きな乖離(かいり)をもたらしました。また同時に、ひとつの途上国の中でも、都市と農村部の乖離が非常に大きくなってきました。南部アフリカ、そしてアジアの国々の一部においては、農村の貧困が教育の貧困につながっています。エイズが蔓延している大きな原因は教育が行き届かない、子どもたちが学校でエイズの怖さについて学ぶことができないという要因が挙げられますが、その根本に貧困という問題があるのです。最近の状況をみていると、日本においてももっと早くとりあげるべきだった、と痛感しています。今からでも間に合う。なんとか子どもたちの状況を少しでも改善できるように、加速度をつけて支援していきたいと思います。
HIV/エイズ対策には薬、インフラ、予防的措置の面で多くの資金が必要です。1日遅れるとそれだけ多くの子どもたちを死に追いやるということを肝に銘じて、日本ユニセフ協会としても、より多くの支援があつまるよう努力し、支援の手を延ばしていきたいと思います。
「HIV/エイズの問題に対処するために私たちにできることは何か」という問いかけに対して、マクダーモット氏は4つのことを挙げました。まずは沈黙を破り、偏見や差別をなくすこと、政治・宗教・メディアのリーダーたちへの働きかけを強めること、HIV/エイズの影響を受けている子どもたちの教育を無料化すること、そして日本ユニセフ協会と日本の社会に対する支援を通じ、ユニセフの「子どもとエイズ」世界キャンペーンに賛同していただくことです。「みなさんの今後の行動は、エイズの影響を受ける子どもたちの『生と死』を分けることにもなるのです」
1時間半にわたって行われたシンポジウムの最後に、若者たちが中心に活動しているユニセフ・子どもネットワーカーたちの代表たちが、キャンペーンへの賛同を呼びかける作品を持って舞台へ上がりました。ネットワーカーを代表して、由水蕗花(よしみず るか)さん(11歳)は、「私と同じくらいの子どもたちが、お父さんお母さんもいないままひとりで生活していることにびっくりしました。エイズについて日本でもたくさんの人たちに知ってもらいたい。これからも自分なりにできることをやっていきたいです」と述べ、シンポジウムが締めくくられました。
写真:(C)日本ユニセフ協会/2006/K.Shindo