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ユニセフ職員 青木氏
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各地で未曾有の被害をもたらした、2004年12月26日発生のスマトラ島沖津波・地震から2年。アチェとニアス島では、初期の緊急支援から開発支援へと移行していく中で、総勢158人のユニセフスタッフ(72%は現地スタッフ)が任務にあたり、津波の被害を受けた子どもたちや女性への支援は大きな成果をあげています。
2005年3月からユニセフ・アチェ現地事務所で任務にあたった、教育担当官の青木佐代子さんは、2007年4月からコンゴ民主共和国に教育担当官として赴任されます。今回は、教育を中心にしたアチェのその後の状況と、アチェとコンゴ民主共和国での支援活動の違いについてお話頂きました。
緊急支援を開始した当初も、学校へ行き、同年代の子どもと話したり遊んだりすることが子どもたちの心の傷を癒すということで、テントの学校(6メートル×12メートル、800キロ)を作り、先生のオフィスやミーティングルームは、ファミリーテント(4m×4m)を使用し、学校をすぐに再開しました。
様々な学用品が入った、スクール・イン・ア・ボックスを配りましたが、インドネシア版のスクール・イン・ア・ボックスにはバックパックが入っていて、子どもたちは特に喜んでいました。家具がなく、ちゃぶ台のような机を調達し使用している学校もありました。 また、リクリエーション・キットも緊急支援時に供給しました。災害が起こると、子どもは小さなおとなとして働いたり、お手伝いしたりせざるをえなく、子どもとしての時間や子ども時代を失いがちです。しかし、子どもセンターや学校などで、リクリエーション・キットを使って遊ばせることで、子どもたちに安らぎを与えることができます。
恒久の学校を建てるまでのつなぎとして、仮設や準恒久校舎を使用しました。子どもが少ない地域に対して、恒久学校を建てるめどがたたない場合、仮設学校が役にたちました。森林伐採が問題視されており、津波後4ヵ月のときには木材が入ってこなかったため、木材の使用を最小限にして、コンクリートを使いながら学校建設をすすめました。 また、教員の研修も行います。約2,500人の先生が被災して亡くなったので、1,000人の新しい先生をリクルートして研修しました。アチェでユニセフの研修プログラムを受講した教員は、2,586人以上にもなります。
© UNICEF/HQ06-1958/Josh Estey |
津波発生から8ヵ月後の7月には、2度目のバック・トゥ・スクール(学校へ戻ろう)キャンペーンを実施しました。ユニセフのバックパックの寄付が政府からあり、1月、2学期が始まったときに配布しました。今でも貧しい地域や田舎では、ユニセフのブルーのバックパックを使っている子どもが多く、子どもたちもユニセフが自分たちの味方だとわかっているので、ユニセフのスタッフが来ると、バックパックを見せて喜んでくれます。
当初は、小学校300校を新設、200校を修復する計画でしたが、安全面から修復はせず、再建設のみ行いました。350校〜380校が再建設される予定です。
© UNICEF/HQ06-1978/Josh Estey |
“子どもにやさしい”学校の建設をすすめていて、その特徴としては、震災に対し、リスクを最小限に軽減する資材を使用し、耐震性の構造を持つ校舎です。例えば、セメントの砂や水の分量といった細かいことにも配慮します。また、安全性を高めるため、教室にはドアを必ず二つつけて、片方のドアが開かなくてももうひとつあくように配慮しています。当初は安全な飲み水を供給する予定でしたが、手洗いができる程度のきれいな水が使えるようにしています。男女別の使いやすくて清潔で明るいトイレ、自然光が入る明るい教室、障害をもった子どももアクセスしやすい校舎、コミュニティが参加しやすい学校づくりを行っています。現在、14校が完成し、86校建設中です。入札中のものも含めれば200校近い学校建設プロジェクトが動いています。
ユニセフの学校がよいという評判がたつと、建設前に見積もっていた以上の子どもが来てしまうこともあります。
2006年10月から、ユニセフは元紛争地域にも支援を拡大しました。津波被害にあったところに支援が偏り、社会的な不満が生じる問題が出てきたため、平和構築のためにも、平等に支援をすることになりました。内戦が一番激しかったのは2002年で、焼かれた学校も多く、今でも銃弾の跡が壁に残る学校もあります。現在までに、45校を再建しました。
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来週から、コンゴ民主共和国のゴマに赴任することになりましたが、コンゴ民主共和国は元ザイールで、今でも紛争が続く国です。
今でも何かあれば人々は避難生活をせざるを得ないところで、避難生活の中でもどうやって子どもを学校に行かせるか、が教育担当官の任務となります。
アチェとの違いとしては、危険な状況であることもあり、パートナーが少ないこと。教育セクターでは3つくらいしか一緒に働けるパートナー団体がいません。そして、帰還兵(元子どもの兵士)や、様々な理由で学校に通えなかった子どもたちが学校に戻ってくるため、学校に通う子どもの年齢が高いこともアチェとは異なります。
© UNICEF/HQ05-1232/Roger LeMoyne |
自然災害は、被災した直後が最悪の状況で、そこからはよくなっていくしかありません。数値などの指標で復興の結果も見えやすいと思います。
コンゴ民主共和国は、戦後のトランジション(過渡期)にあり、長期プロジェクトが必要です。30年の内戦、無政府状態を経て、人々のキャパシティも大きくはありません。そのような状況の中で、わかりやすい結果が出しにくく、前進しないばかりか、後退することもあるかもしれません。
ニーズの変化への理解も必要です。1年、半年という短い期間で人々や地域のニーズが変化するかもしれませんが、それは気が変わったとか、状況がわからなかったということではなく、不透明な状況の中でプロジェクトを遂行している、ということを理解していただきたいと思います。
質疑応答
Q)子どもにやさしい学校で、「飲み水」ではなく、「安全な水」を供給しているのはなぜですか?
A)アチェでは水道の水は基本的に飲めません。学校で飲める水を供給すると、家でも水を飲んでしまう可能性があり、子どもに「学校では水を飲んでいいけれど、家では飲まないように」というのは子どもを混乱させてしまうので、技術的にも予算的にも可能でしたが、水と衛生セクションからストップがかかりました。
アチェでは、家の水を沸とうさせて持ってくる習慣があり、その習慣を止めて子どもを混乱させるよりは、学校でも家でも水をそのまま飲むことはできない、としたほうが子どもの安全のためになると判断しました。
Q)ユニセフのほかのNGOやその他の団体のパートナーと活動する中で、ユニセフはどのようにイニシアチブをとり、統括しているのでしょうか?
A)ジョグジャカルタで2006年5月に地震があり、5千人くらい亡くなりました。そのときにも私は8日目に現地に入り、2ヵ月ほど活動しましたが、色々なNGOが緊急支援活動のためにすぐに現地に入ってきました。 インターエンジェンシー・スタンディング・コミッティーというUNの中での取り決めがあり、緊急事態にどこの機関がどの分野で主体的に支援をするかを取り決めています。
ユニセフは教育、水と衛生、子どもの保護、ITを担当しています。 例えば、教育セクターでは、教育関係のNGOや団体を調整・ミーティングで集め、統括します。 教育セクターを代表して、情報の共有や連携をとるため、政府とのパイプ役にもなり、最初のうちは毎日のように話し合いました。ユニセフがすべてのニーズをカバーできるわけではないので、ニーズを把握し、それを補いあうように調整することもします。 例えば、ユニセフは障害児教育があまり強くありませんが、被災によって障害児になってしまう子どもも沢山いるので、ハンディキャップインターナショナルなどの障害児教育の分野に強い団体にアプローチしたりします。
Q)写真の中で、女性の教員が多いように感じたのですが、実際もそうでしょうか?
A)世界的に、女子教育の大切さが注目されていますが、女子教育の場合、女性の教員のほうがよいという理論があります。 アチェでは少ないのですが、女の子の児童が男性教員から性的暴力を受けるケースもあり、その場合、親が学校に送りたがらないので、女性の教員が増やされています。おそらく、7,8割は女性教員だと思いますが、過疎地では、お給料がもらえる仕事が教員くらいしかないようなところも多く、そういう地域では男性が教員になる場合もあります。
● 保健と栄養 2006年末現在、ユニセフは、マラリア予防のために38万2,906の殺虫処理をされた蚊帳を配布。1,200人以上の地域ボランティアに蚊帳の使用について訓練し、60万人以上のアチェの人びとのマラリア予防に役立っています。また、56万2,900の蚊帳が追加され、配布される予定です。 2006年、40万人以上の子どもがビタミンAと駆虫薬の補給を受けました。同年5月に始まった、227のコミュニティ医療センターの建設のうち、最初の2棟が完成しています。 |
● 水と衛生 ユニセフとそのパートナーは、33村に住む10万以上の人々に対し、水を供給しています。300万ドル以上の衛生設備が自治体の衛生局に供給され、バンダアチェでは今、汚泥処理設備が建設されています。2006年、7万8千人の避難民はトラックで運ばれる水の供給を受け、ユニセフは、3万人の避難民を対象とした81箇所での廃棄物収集や汚水処理施設を支援しています。2006年に実施された“健康に生活する”キャンペーンでは、避難生活を送る20万世帯に、石鹸やバケツ、歯ブラシなどの衛生用品を供給しました。 |
● 子どもの保護 津波の被害にあった約2万人の子どもやその家族は、心理的苦痛から立ち直り、虐待や搾取から身を守るために、21の子どもセンターでコミュニティ活動に参加しています。子どもセンターでは、心理的なサポートと法的保護などの総合的なサービスを提供できます。ユニセフは、子どもセンターやその他NGO団体から500名以上のスタッフや、約1000人の教職員やカウンセラー、校長に対して、心理社会的なケアのトレーニングを提供しています。両親と離れ離れになったり、保護者のいない、3千人近くの子どもたちをデータベース化し、再会の支援など、その後のケアにつなげています。 |